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〜科学的根拠に基づく「健康に良い食事」について〜



皆さんはどのような食事をとっていますか。手軽さ、美味しさ、楽しさ、など食事には様々な面があります。ここでは、これまでの科学的な研究に基づいてわかってきた(科学的根拠に基づく)健康に良い食事についてご紹介します。

※以下の内容は,現状における科学的根拠に基づいて記されていますが、今後新しい研究の成果が積み重なることにより、内容が修正されたり,項目が追加あるいは削除されたりする可能性があります。

目次

1.はじめに:科学的根拠(エビデンス)について



健康に良い、言い換えれば、病気になりにくい、病気を予防する可能性の高い食事、について、国内外の多く研究の結果わかってきました。

研究、というと動物や細胞の実験などを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。これらの研究も一つの科学的根拠(エビデンス)ではありますが、ヒトについての研究ではないという短所があります。ヒトについて研究を行う場合、エビデンスのレベル(信頼性の高さ)は、研究のデザインによってかわります。二つのグループの一方にある栄養素などをとってもらい、もう一方ではとらない、といった比較をする研究デザインは信頼性が高いですが、食事と健康の関連を知りたい場合には、長期間決まった食事をとることが求められるなど現実的でなく実施できません。次に信頼性が高いのは、コホート研究といわれる、最初に多くの人の食事を調べ、その後の健康状態を長い期間追っていくデザインです。その他、病気の人と健康な人の食事を比べる研究デザインや、ある一時点の食事と健康状態を調べる研究デザインなどもありますが、信頼性としては少し下がります。こうした複数の研究の結果をくみあわせた研究デザインは信頼性が最も高いとされています。これらの総合的に検討し、動物実験等のヒト以外の結果も加味して、科学的根拠に基づく健康に良い食事がわかってきました。

2.国際的な調査からわかってきた日本人の健康に良い食事

世界疾病負担(Global Burden of Disease)の調査の一環として、世界195か国で非感染性疾患(がん、循環器疾患、糖尿病など)への食事の影響を調べた調査があります。(Lancet.2019;393:1958-1972.).

日本における死亡に関連する食事因子としては、下記の順で影響が大きいと推定されています。

 

死亡に関連する食事要因

論文中でリスク上昇がとりあげられている疾患

日本人における死亡割合(%)

総死亡

がん

循環器

2型糖尿病

ナトリウム(食塩)が多い

血圧上昇、胃がん

2.7

1.1

7.9

 

全粒穀物が少ない

虚血性心疾患、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、2型糖尿病

2.2

2.2

5.6

4.4

果物が少ない

がん(食道、気管支、肺)、虚血性心疾患、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、2型糖尿病

1.4

1.2

3.6

5.8

ナッツや種子が少ない

虚血性心疾患、2型糖尿病

0.9

 

3.2

2.7

野菜が少ない

虚血性心疾患、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血

0.3

0.1

0.9

 

食物繊維が少ない

大腸がん、虚血性心疾患

0.8

0.3

2.7

3.0

カルシウムが少ない

大腸がん

0.6

2.0

 

 

多価不飽和脂肪酸が少ない

虚血性心疾患

0.3

 

0.9

 

牛乳が少ない

大腸がん

0.8

2.4

 

 

加工肉が多い

大腸がん、虚血性心疾患、2型糖尿病

0.5

0.6

1.0

9.3

豆類が少ない

虚血性心疾患

0.6

 

2.4

 

砂糖入り飲料が多い

虚血性心疾患、2型糖尿病

0.2

 

0.8

3.3

トランス脂肪酸が多い

虚血性心疾患

0.5

 

1.9

 

魚介類のオメガ3脂肪酸が少ない

虚血性心疾患

0.4

 

1.4

 

赤肉が多い

大腸がん、2型糖尿病

0.8

0.5

2.4

4.3

食事要因合計※

 

9.9

7.1

26.9

28.5

20歳以上、日本における推計値
https://vizhub.healthdata.org/gbd-results/より作成
※食事要因全体による総計のため、合計値とは一致していない。

日本にはすでに、健康で豊かな食生活の実現を目的に「食生活指針」(平成12年策定、平成28年改訂)と「食生活指針」を具体的に行動に結びつけるものとして、「食事バランスガイド」(平成17年策定)があります。主食・主菜・副菜を基本にバランスのよい食事をとることが勧められています。これらと、上記の最新の調査から、日本人がこれからも気をつけた方がよい食事は具体的に下記の通りとなります。これまでも取り上げられてきた内容が多いものの、現状の日本人の食事では達成が出来ていない内容もあります。

ぜひもう一度、ご自身の食事で出来るところから変えてみましょう。ただし、食事内容を見直すにあたり疾患のある方や個別に健康の不安がある方については、主治医等にご相談ください。

■2−1. 食塩は控えめに
世界においても、日本でも、ナトリウム(食塩)摂取が多いことが、死亡に関連する食事要因としては最大です。日本では、食塩が多いことが、多くなかった場合には起こらない死亡の割合として、死亡全体の2.7%、循環器疾患による死亡の7.9%の原因となっていると推定されています。日本人の食事摂取基準2020では、食塩相当量の目標値として、成人男性1日7.5g未満、成人女性6.5g未満としていますが、令和元年度の国民健康・栄養調査の結果では、男性20歳以上の1日平均摂取量10.9g、女性9.3gと大きく目標を上回っています。この平均摂取量はこの10年間ほぼ横ばいで減っていません。



■2−2.全粒穀物を食事に取り入れましょう
全粒穀物とは精白していない穀物のことで、玄米や全粒粉の小麦粉、えん麦(オートミール)、大麦などが含まれます。日本人の主食である米でいうと、精白米は玄米からぬか層や胚芽が取り除かれている状態です。日本食品標準成分表(七訂)によると、精白米より玄米の方が食物繊維やビタミン、ミネラルが多く含まれています。全粒穀物が少ないことは、死亡の要因として食塩に続いて大きいものと推定されており、死亡全体の2.2%の原因となっているとされます。全粒穀物をとることによって食物繊維の摂取も増えると考えられ、6番目の要因である食物繊維が少ないことも改善する可能性があります。



■2−3.果物、野菜をプラス一皿
健康日本21第二次の目標では、野菜摂取量の平均値350g、果物摂取量100g未満の者の割合30%と定めていますが、令和元年度の国民健康・栄養調査の結果では野菜の平均値281g、果物100g未満の者の割合62%と目標に届いていません。この平均値はここ10年間横ばいで、果物や野菜を食べた方がよいことはすでに知られているかもしれませんが、全体の摂取量としては増えていないことが明らかになっています。果物が少ないことは1.4%、野菜が少ないことは0.3%死亡の要因となっています。令和元年度の国民健康・栄養調査の結果では、健康な食習慣の妨げになる点として「仕事(家事、育児等)が忙しく時間がないこと」「面倒くさいこと」などの割合が高くなっています。こうした難しさがある場合、「プラス一皿」の行動から始めてみましょう。



■2−4.カルシウム、乳製品をとりましょう
令和元年度の国民健康・栄養調査の結果では成人のカルシウム摂取量は503rで、日本人の食事摂取基準2020による推奨量は男性成人約750r、女性約650rで、不足しています。特に、男女とも20、30歳代で平均値が400r程度と不足が目立つ状況です。カルシウム、乳製品の不足は骨の健康への影響のほか、GBDの調査ではがん死亡の2%程度の要因となっています。日本人の食事摂取基準2020によると、日本人の通常の食品摂取でカルシウムが過剰(耐容上限量以上)になることは稀だと考えられ、牛乳やその他乳製品、カルシウムを含む食品の追加を考えてみましょう。



■2−5. 加工肉は控え、赤肉は少な目に、植物性のたんぱく質源(大豆製品など)や適量の魚をとりましょう
日本人は世界と比較すると赤肉(牛、豚などの肉)が多いことによる死亡への影響は低めとなっています。一方、加工肉が多いことは世界と同程度の死亡への影響が推定されています。現在、地球環境や持続可能性の観点から赤肉を控え、植物性のたんぱく質源を推奨する食事なども世界的には提唱されています。日本人は豆腐や納豆といった大豆製品を食べる習慣があるため、国民健康・栄養調査による日本人のこれまでの一般的な食事は、大きく推奨から外れていないことも知られています。ただし、高齢者についてはフレイルやサルコペニア予防の観点から、たんぱく質が不足しすぎないように注意が必要です。
 また、日本人は世界と比べて魚介類を摂取するため、魚介類からのオメガ3脂肪酸が少ないことによる死亡への影響は世界よりも低くなっています。しかし、令和元年度の国民健康・栄養調査の結果では、20-59歳までの魚介類摂取量の平均値は、60歳以上と比べて20gほど低くなっています。魚介類の摂取が少なくなりすぎないように気をつけて、たんぱく質源を決めましょう。



■2−6.甘味飲料は控えましょう
炭酸飲料、ソーダ、エネルギー飲料、果実飲料を含む砂糖入り飲料が多いことは、糖尿病による死亡への影響が3%ほどあり、控えることが望ましいでしょう。



3. 健康寿命をのばすための食事について
(疾患横断的エビデンスに基づく健康寿命延伸のための提言(第一次)より)

2でとりあげた調査は国際的な調査であり、国内でも6つの国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター:NC)が連携し、がん、循環器疾患、糖尿病等の疾患を含めて一つの健康寿命延伸(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間をのばすこと)に関する提言を公表しています。この提言の内容は、日本人の研究に基づく科学的根拠から、食事と疾患、死亡リスクの可能性を判定し、内容を定めています。こうした判定の結果を踏まえて提示された食事の章の目標は、以下の通りです。

年齢に応じて、多すぎない、少なすぎない、偏りすぎないバランスのよい食事を心がける。具体的には、

●食塩の摂取は最小限(*1)に。
●野菜、果物の摂取は適切に、食物繊維は多く摂取する。
●大豆製品を多く摂取する。
●魚を多く摂取する。
●赤肉(*2)・加工肉などの多量摂取を控える。
●甘味飲料(*3)は控えめに。
●年齢に応じて脂質や乳製品、たんぱく質摂取を工夫する。
●多様な食品の摂取を心がける。

(*1男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満(厚生労働省日本人の食事摂取基準2020年版))
(*2赤肉:牛・豚・羊の肉(鶏肉は含まない))
(*3砂糖や人工甘味料が添加された飲料)

https://www.ncc.go.jp/jp/icc/cohort/040/010/index.html
https://www.ncc.go.jp/jp/icc/cohort/040/010/6NC_20210820.pdfより

各項目の詳細についてはURLを参照ください。


お問い合わせ先
国立健康・栄養研究所ホームページをご参照ください。
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/contact.html

2022年11月8日更新