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運動トレーニングがエネルギー消費量を増やすメカニズム
― 筋肉内ミトコンドリア機能亢進機序の解明―

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 運動トレーニング、すなわち運動をある程度継続して行った筋肉では、ミトコンドリアと呼ばれる細胞内の小器官の数が増加したり、その機能が活性化されたりします。生体での酸素消費(エネルギー消費量を反映)の90%以上はミトコンドリアで行われると言われています。筋肉は生体内で最もエネルギー消費量の多い組織であり、筋肉でミトコンドリアが増えることは生体でのエネルギー消費量に大きく影響すると考えられます。肥満を中心としたメタボリックシンドロームの予防や治療には、摂取カロリーを控えることに加え、消費カロリーを増やすことが有効です。運動が肥満を防ぐのは運動をしている時の消費カロリー増加に加え、トレーニングすることによる筋肉の性質の変化、つまりエネルギー消費量の多い筋肉へ変化することが大きな理由です。私たちの研究室では、運動がどのように筋肉の性質を変化させるのか、特にどのようにミトコンドリアを増やしているのかについて調べております。

 筋肉内のミトコンドリアの生合成やその機能の多くは、細胞核からの指令によりコントロールされており、細胞核でその中心的な役割を果たしているのがPGC-1αと呼ばれる遺伝子発現量を調節する因子です。この因子はエンジンに例えるとターボチャージャーのような働きをしていて、必要に応じてエンジンの出力を増やします。私たちが作出した「人工的にPGC-1αを筋肉だけに増やしたマウス」では筋肉でミトコンドリア量が増え、その機能が活性化されること、そのマウスでは筋肉での脂肪燃焼量が増加して、安静時のエネルギー消費量が多いことが認められました。海外の研究では、ヒトの筋肉でのPGC-1α発現量が糖尿病や老化によってミトコンドリア機能とともに低下することが明らかにされました。このようにPGC-1αはエネルギー消費量の低下によるメタボリックシンドロームの発症原因でないかと注目され、これら疾患の治療標的としても期待されています。



 運動は筋肉内でのPGC-1αの遺伝子発現量を増加させることから、運動はPGC-1αの発現を介して筋肉内のミトコンドリア機能を高め、エネルギー消費量を増やすと考えられます。運動がどのようにPGC-1αを増やすのかを解明し、メタボリックシンドロームのより効果的な予防・治療法の開発に役立たせようと、本研究では、運動によるPGC-1α発現増加のメカニズムを明らかにすることを試みました。その結果、β2アドレナリン受容体の刺激が筋肉のPGC-1α発現量を増やすこと、運動が筋肉のPGC-1α発現量を増やすのにはβ2アドレナリン受容体の活性化が重要であることを明らかにしました1)。

 さらに、筋肉には3種類のPGC-1αがあり、β2アドレナリン受容体刺激や運動によって発現増加するのはこれまでに知られていたPGC-1α(PGC-1α-a)ではなく、私たちが発見した新しい種類のPGC-1α(PGC-1α-bおよびPGC-1α-c)であることを明らかにしました2)。新しい種類のPGC-1αにもミトコンドリア機能を活性化させる可能性のあることを、筋肉にこれらPGC-1αを人工的に増やしたマウスを作出して明らかにしており、今後さらに研究をすすめていくつもりです。

 PGC-1αは筋肉のほかに肝臓や褐色脂肪組織(熱産生にかかわる組織)で発現しており、肝臓では絶食時に発現増加して糖新生を促進すること、褐色脂肪組織では寒冷暴露すると発現増加してミトコンドリア機能を活性化させることが報告されています。筋肉や褐色脂肪組織のPGC-1αの発現量を増やして、エネルギー消費量を増加させるような肥満治療薬を開発しようとしたとき、肝臓でのPGC-1αの発現量も増加させて糖の合成を高めて血糖値を上昇させてしまうような副作用が懸念されていました。

 しかし、私たちは今回の研究で、肝臓ではPGC-1α-aのみが発現していて、絶食させても新しい種類のPGC-1αの発現量が増えないことを明らかにしました。これにより、血糖値を上昇させないで筋肉や褐色脂肪組織のミトコンドリア機能を増やすことが可能であることがわかりました。【三浦進司】



出典:
1) Miura, S., Kawanaka, K., Kai, Y., Tamura, M., Goto, M., Shiuchi, T., Minokoshi, Y., and Ezaki, O.: An increase in murine skeletal muscle PGC-1αmRNA in response to exercise is mediated by β‒adrenergic receptor activation. Endocrinology , 148, 3441-3448(2007).

2) Miura, S., Kai, Y., Kamei, Y., and Ezaki, O.: Isoformspecifi c increases in murine skeletal muscle peroxisome proliferators-acitvated receptor-γ coactivator-1 α(PGC-1α) mRNA in response to β2-adrenergic receptor activation and exercise. Endocrinology , 149,4527-4533( 2008).

ニュースレター「健康・栄養ニュース」第7巻3号(通巻26号)平成21年1月15日発行から転載
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作成:2009/1/27 16:17:28 自動登録   更新:2009/1/27 16:41:49 自動登録   閲覧数:14490
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