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トップ  >  研究紹介  >  プロテアソーム阻害剤はがん細胞の損傷バイパスDNA複製を阻害し、正常細胞は阻害しない
「プロテアソーム阻害剤はがん細胞の損傷バイパスDNA複製を顕著に阻害するが、正常細胞のそれは阻害しない」
(Cancer Science, vol. 99( 2008) 863-871)


 がんは生活習慣病の最たるものであり、がんを化学療法剤治療する上では、より効果的で、しかも副作用の少ない治療法が更に求められています。

 多数の抗がん剤は遺伝子DNAを傷害しますが、がん細胞、正常細胞の区別無く作用し、増殖の盛んな細胞に等しくダメージを与えます。一般的に、がん細胞は遺伝子損傷を修復する活性は高く、直ぐに修復してしまいます。一方、DNAの鋳型鎖上に傷害があると、遺伝子複製はそこで停止し、細胞は特別なDNAポリメラーゼを用いた損傷バイパス複製を行って、複製を続行します。万一、複製が停止したままだと、遺伝子はヌクレアーゼで切断され、高い確率で細胞死に導かれると推測されます。

 私たちは、この損傷バイパス複製の機序が正常細胞とがん細胞で異なる事を発見しました。つまり、プロテアソーム阻害剤は培養ヒトがん細胞(採取臓器、腺がん、扁平上皮がんといった組織病理学上の分類、p53蛋白の存否に拘わらず)に於いて、紫外線や、繁用される抗がん剤の一つであるシスプラチンで誘起される損傷バイパスDNA複製を顕著に阻害し、細胞死に誘導する事を見つけました(同じ条件で、正常細胞には殆ど影響しません)。

 これは、シスプラチンとプロテアソーム阻害剤を併用すると、非常に強力で、しかも副作用の少ないがんの化学療法剤治療ができる事を意味します(特許出願済み、「抗がん剤」特願2006-78807、 H18.3.22出願)。

 損傷バイパス複製を検出するため、私たちはアルカリ性蔗糖密度勾配遠心法という方法を用いました。下図はA) 正常線維芽細胞、NB1RGBと、B) 未分化型胃がん由来のHGC-27の場合で、照射直後のパルスラベルされた複製産物 (赤い実線のプロフィル)が、その後培養するとバイパス複製が行われて、左の高分子量側へ移行します(水色の実線)。

 プロテアソーム阻害剤 (MG-132、MG-262) やカフェインはその「移行」を、A) では阻害しませんが、B) では顕著に阻害しました。これは紫外線の場合ですが、シスプラチンを添加した場合も紫外線と全く同様にがん細胞に於いてのみ阻害します。

 しかし、プロテアソーム阻害剤は細胞内の様々な蛋白の分解を阻害し、必ずしも特異性は高くありません。がん細胞に於ける損傷バイパスのへの作用機序の詳細は不明です。分子生物学的手法を用いて、ポリユビキチン化された標的蛋白を同定する事により、プロテアソーム阻害剤の作用機序を明らかにし、標的蛋白に対する阻害剤を酵素レベル、或いは細胞レベルで探索して、プロテアソーム阻害剤より更に選択性の高い化学療法剤を開発する事が必要です。

 また、シスプラチンは紫外線(シクロブタン・ダイマー)タイプの損傷バイパス複製を誘起しますが、これはおそらく両者のDNA傷害に共通するイントラ・ストランド型架橋構造に原因すると推測されます。シスプラチンはこの他に、二本鎖間架橋も形成し、それは損傷バイパスを誘起せず、副作用の原因になると考えます。カルボプラチン、オキザリプラチン、トランスプラチン等の架橋形成型抗がん剤の中から、プロテアソーム阻害剤と併用した場合、シスプラチンより更にがん細胞選択性の高いものを、上記の検出系を用いて選別する事が現実的と思われます。

 現在、食品成分中でのプロテアソームに対する阻害作用物質の検索を行っており、特異性の高いものがみつかれば、食品でのがん予防も期待できます。【山田晃一】



出典:Takezawa J, Ishimi Y, Yamada K: Proteasome inhibitors remarkably prevent translesion replication in cancer cells but not normal cells. Cancer Science; 99(5): 863-71, 2008.

ニュースレター「健康・栄養ニュース」第7巻2号(通巻25号)平成20年9月15日発行から転載
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作成:2008/10/3 10:19:48 自動登録   更新:2009/2/9 17:26:25 自動登録   閲覧数:7465
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