Welcome GUEST
重要なお知らせ
現在リニューアル中のため、これは閲覧のみの旧バージョンです。質問や検索はできませんのでご注意下さい。
トップ  >  健康・栄養研究雑感  >  疾病予防のための新しいQOL(quality of life)評価法の必要性
疾病予防のための新しいQOL評価法の必要性

 近年、「幸せの度合い」を示す指標としてQOL(quality of life)がよく用いられている。
 一般的に「○○に比べて低い」とか「○○より良い」とかと相対的に表されることが多く、「私のQOLは○○%」とか「あなたのQOLは○○%」とか定量的に表すことは少ない。このため、研究で用いるのは難しい。更に2つの特徴(又は問題点)がある。一つは個人の心の指標であること。もう一つはある時点(現在)の指標であり、将来の指標で無いことである。

 各個人の心の指標であるため、各個人のアンケート調査を行わないと推定することができない。外から見るとお金もあり、健康であっても、その個人にとっては何らかの問題があり、QOLは低いかもしれない。又、過去の個人の経験も現在のQOLに大きく影響を与える。現在の物理的な生活状態が同じであっても、過去に苦労を経験した人は、現在の状態を幸せと感じるし、過去に楽しい時期を送った人は、現在の状態を幸せと感じないかもしれない。

 即ち、他人がその個人のQOLの程度を推定することは難しい。しかし、一般的には、ある人が病気であったり、仕事が大変な場合は、外部から見て、その人のQOLは低いと判断している。

 疾病予防のための食事療法、運動療法は現在のQOLとは相入れない。食事療法、運動療法は各個人の現在のQOLを悪くすることがある。食べたくないもの食べさせられ、食べたいものを制限される。無理に体を動かさなければならないので楽しくない。

 逆に喫煙は喫煙者の現在のQOLは良くする。人間誰しも、将来のことはわからないのだから、現在を楽しく生きたいと思うのは当然である。一方、疾病の一次予防は個人の将来のQOL改善をねらったものである。現在苦しくても、食事内容の改善、運動、禁煙を行うことにより、将来のQOL改善が期待される。

 この不一致を解決するためには, 現在のQOLだけでなく将来のQOLまで含めた、すなわち、死ぬまでの個人のQOL積分値で示されるような新しい指標を導入する必要がある。

 食事療法を例にあげると、以下のデータがあれば新しい指標の導入は可能である。

1.アンケート調査でQOLが正しく定量的に表されること。
2.食事療法を行わなかった時(A)及び行った時(A')のQOL値。
3.食事療法を行わなかった時(R)及び行った時(R')の将来の糖尿病や脳梗塞等の疾病罹患率。
4.糖尿病や脳梗塞等になった時のQOL値(B)。

 食事療法を行わなかった時のQOL積分値=
           A+RB+(1?R)A+……

 食事療法を行った時のQOL積分値=
         A'+R'B+(1?R')A'+……

 
 食事療法を行わなかった時、行った時のどちらの場合がQOL積分値を高くすることができるか比較することにより、現在、食事療法がその個人にとり必要かどうかわかる。Bの値は疾病の種類により異なり、QOL積分値を高くするためには、Bの値の低い疾病程、罹患率R'を減少させる労力が必要なことがわかる。

 しかし、公衆衛生学的には、ある人のQOLを高くするのではなく、集団でのQOLを高める必要がある。タバコの例をあげる。個人にとり喫煙時のQOLが非常に良い場合は、喫煙による肺ガン、心筋梗塞等の罹患増加による将来のQOL低下が想定されても、QOL積分値は高いかもしれない。

 すなわち、喫煙はこの個人に対しては良いことになる一方、副流煙による他人への影響や病気発症による医療費の増加のため、非喫煙者のQOLは低下し、集団での平均QOLは低下が予想される。

 先に述べたようにQOLは食生活、健康だけでなく、経済状態、教育レベル、対人関係、治安など多くの因子が影響する。これらの因子をQOL積分値の計算に含むことができ、かつ集団でのQOL積分値の平均が求められれば、政策の策定に有用であろう。【江崎 治】



ニュースレター「健康・栄養ニュース」第3巻4号(通巻11号)平成17年3月15日発行から転載
プリンタ用画面
友達に伝える
投票数:3 平均点:6.67
作成:2008/6/30 11:16:01 自動登録   更新:2009/2/10 14:10:59 自動登録   閲覧数:7046
前
遺伝子宇宙を旅する
カテゴリートップ
健康・栄養研究雑感
次
地域色豊かな調査を

メインメニュー