Welcome GUEST
重要なお知らせ
現在リニューアル中のため、これは閲覧のみの旧バージョンです。質問や検索はできませんのでご注意下さい。
トップ  >  健康・栄養研究雑感  >  遺伝子宇宙を旅する
遺伝子宇宙を旅する

 先日、インターネットで生活習慣病について検索していたら、あるダイエットのサイトで「あなたの肥満遺伝子を検査します」というのが目に付いた。手の指の爪か、又は、綿棒で口の中を掻き回し、それを検査機関に郵送して、多型を解析して貰うらしい。

 解析される「肥満遺伝子」は、ベータ2、及びベータ3アドレナリン受容体(β2AR、及びβ3AR)、そして脱共役蛋白1(UCP1)の3つだ。

 そういったサイトのHPには更に、例えばUCP1について「この遺伝子に変異(正確には多型)を持つと、皮下脂肪型(洋ナシ型)の肥満になりやすい。日本人の25%がこの遺伝子に変異があり、変異の無い人に比べて、1日の代謝量が約100kcal低い。女性に多く、お尻や太ももに皮下脂肪がたっぷりのタイプ。脂肪少な目で主食はきちんと取る食事をし、野菜→主食→肉・魚(脂肪類)の順で食べると良い」とまで書いてあって驚いた。

 それを検証するために、私達は研究している訳である。

 実際に解析する多型(SNP)の箇所は、HPにはっきり書かれているものでは、β2ARがArg16Gly、β3ARがTrp64Argで、UCP1はMet229Leuであるという。UCP1は以前から、?3826A>Gがよく調べられてきたが、体重増加などと相関が無かったという報告が相次いだ。

 そもそも、4kb近くも上流の多型がUCP1の発現量に影響するか疑問で、細胞レベルでこの領域のプロモーター活性を測定した文献も見当たらない。

 Moriらは、?型糖尿病患者群に於いて、Met229??>Leuと共に、?112A??>Cの亜型が高頻度であり、?112の多型のUCP1のプロモーター活性に対する影響を、レポーター・アッセイを行い報告している(Diabetologia 2001,44, 373?6)。

 彼らは?112とMet229が連鎖不平衡にあるとも報告しているので、?112の方が症因多型である可能性が高い。UCP1について、全てが判明している訳ではないのである。

 先の3遺伝子(御三家)にペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体遺伝子(PPARγ)を加えたものが、「肥満遺伝子」の四天王で、遺伝性素因をこの4つで、説明する事はほとんど不可能であり、これら以外に肥満関連遺伝子は50以上も報告されている。最近の新顔としてRAGEというのがある。

 これは advanced glycosylation end product-specific receptor遺伝子の略称だが、最初、何の事か全く分からなかった。

 NCBI のEntrez -Nucleotideや、Entrez-Geneで検索すると、この遺伝子がヒト染色体6p21.3に位置する事や、そのエキソン??イントロンの配置まで、即座に見られるから、Maxam-Gilbert法やdideoxy法で数十ベース、数百ベースずつ、何日もかかって配列決定していた頃とは隔世の感がある。

 このRAGEは404、或いは342アミノ酸残基の蛋白をコードする、特に大きくもない遺伝子だが、11個のエキソンに細断されている。

 どうでも良い事かもしれないが、例えば、同程度の大きさのβ2ARは1エキソンで、β3ARも2エキソンしかない。ついでに言うと、RAGE遺伝子の周りは隣の遺伝子が軒を接して建て込んでいる都会の住宅密集地さながら、であるのに、β2AR遺伝子の周りは数十kbにわたって他の遺伝子が見あたらない田舎の一軒家である。β3ARの周囲100kbも他の遺伝子が2つ、散在するのみだ。本当に、造物主は気紛れである。

 多型を解析しようとして、膨大な量の塩基配列を眺めていると、それらが呪文か、暗号の様に見えてくる。エキソンはヒトゲノム、30億bpの僅か2%であり、蛋白質をコードする領域は1.1%に過ぎない。

 イントロンが24%、残りの大部分は無意味な遺伝子間領域である。だから、エキソン部分は砂漠の中の、緑のオアシスであり、無味乾燥な星間物質で充たされた宇宙空間に浮かぶ、水の惑星に思える。隠されたメタボリック・コードを探しに、今日も私は、遺伝子宇宙の旅をする。【山田晃一】


ニュースレター「健康・栄養ニュース」第5巻4号(通巻19号)平成19年3月15日発行から転載
プリンタ用画面
友達に伝える
投票数:4 平均点:2.50
作成:2008/6/16 12:03:16 自動登録   更新:2009/2/10 14:10:19 自動登録   閲覧数:9395
カテゴリートップ
健康・栄養研究雑感
次
疾病予防のための新しいQOL(quality of life)評価法の必要性

メインメニュー