Welcome GUEST
重要なお知らせ
現在リニューアル中のため、これは閲覧のみの旧バージョンです。質問や検索はできませんのでご注意下さい。
トップ  >  研究紹介  >  「筋萎縮」の新規モデル動物の発見
「筋萎縮」の新規モデル動物の発見
骨格筋特異的PGC=1α過剰発現によるミトコンドリア増加と筋萎縮


 転写共役因子のPPARγ coactivator-1α(PGC-1α) はミトコンドリア生合成を促進する。筋肉では寒冷刺激や運動により一過性に発現増加し、ミトコンドリアを増やして脂肪酸の燃焼を促進していると考えられている。

 我々のグループでは、骨格筋特異的にPGC-1αを過剰発現させたトランスジェニックマウス (PGC-1αマウス)を作製し、その骨格筋の変化について検討したところ、ミトコンドリアの増加と筋肉の赤筋化などを認めた(1)。

 今回、さらに詳細に検討したところ(2)、PGC-1αマウスの基礎代謝量の増加と、単離ミトコンドリアの呼吸鎖活性の増加を認めた。

 しかし、このミトコンドリアの呼吸鎖のほとんどは酸素消費(呼吸)とエネルギー産生が共役せずにATPを合成しない脱共役呼吸活性であった。

 これにともない、PGC-1αマウス筋肉内のATP量は著しく減少していた。PGC-1αマウスを25週齢まで飼育すると、type2B線維の多い筋肉、いわゆる白筋において筋線維の著しい萎縮を認めた。

 以上、PGC-1αマウスの骨格筋ではミトコンドリアの脱共役呼吸亢進にともないATP産生量が低下し、筋萎縮を引き起こすことがわかった。

 今回のモデルマウスは筋肉にPGC-1αが常に過剰発現しており、生理的な条件でのPGC-1αの発現増加が筋萎縮を引き起こすことは考えにくい。

 しかし、ミトコンドリア機能異常に起因する筋萎縮や、老化とともに起こる筋萎縮サルコペニア(PGC-1αマウスと同じく白筋が萎縮し、その原因の一つにミトコンドリア機能低下が考えられている)では、同様の変化が起こっている可能性がある。

 実際、Luft病と呼ばれる筋萎縮を起こす疾患はPGC-1αマウスと同様の病態を示す。

 寿命の延長に伴い、生活の質(QOL)の向上や健康寿命の延伸が社会的な課題となっている。その一環として運動器(筋骨格系)の機能保全への関心が高まっており、国連及びWHOは2000年?2010年を「The Bone and JointDecade(運動器の10年)」と位置づけている。

 骨格筋は人体で最大の組織であり、エネルギー代謝、糖取込み、運動において重要な役割を果たすことが知られている。

 「寝たきり」や「ギプス固定」等により骨格筋を使わない状態が続くと骨格筋量が減少して機能低下に至り(廃用性筋萎縮)、老化によっても骨格筋量が減少して(サルコペニア)、QOLの低下をひき起こす。従来、骨粗鬆症に比較して骨格筋量の減少の分子機構やその効果的な予防法に関する研究は非常に少なく、その分子機構には不明の点が多い。

 今回報告したPGC-1αマウスは、以前我々が作製した廃用性筋萎縮のモデルマウスであるFOXO1マウス(3)とともに、骨格筋量減少の分子機序を解き明かすためのモデル動物として活用されることが期待される。【三浦進司】




参考文献:

1)Miura, S., Kai, Y., Ono, M., and Ezaki, O.: Overexpression of peroxisome proliferatoractivated receptor γ coactivator-1 α(PGC-1α)down-regulates GLUT4 mRNA in skeletal muscles. J. Biol. Chem. 2003;278:31385-31390.

2)Miura, S., Tomitsuka, E., Kamei, Y., Yamazaki, T., Kai, Y., Tamura, M., Kita, K., Nishino, I., and Ezaki, O.: Overexpression of peroxisome proliferators-activated receptor γ co-activator-1α leads to muscle atrophy with depletion of ATP. Am. J. Pathol. 2006;169:1129-1139.

3)Kamei, Y., Miura, S., Suzuki, M., Kai, Y., Mizukami, J., Taniguchi, T., Mochida, K., Hata, T., Matsuda, J., Aburatani, H., Nishino, I., and Ezaki, O.:Skeletal muscle FOXO1 (FKHR)transgenic mice have less skeletal muscle
mass, down-regulated Type I(slow twitch/red muscle)fiber genes, and impaired glycemic control. J. Biol. Chem. 2004;279:41114-41123.

ニュースレター「健康・栄養ニュース」第6巻2号(通巻21号)平成19年9月15日発行から転載

プリンタ用画面
友達に伝える
投票数:12 平均点:5.00
作成:2008/6/13 16:27:03 自動登録   更新:2009/2/5 14:17:10 自動登録   閲覧数:18981
前
高脂肪食誘導性のインスリン抵抗性に対する代償性膵β細胞過形成の分子メカニズムの解析
カテゴリートップ
研究紹介
次
明日葉摂取によるラット血清・肝臓脂肪プロフィール等の影響

メインメニュー