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高脂肪食誘導性のインスリン抵抗性に対する代償性膵β細胞過形成の分子メカニズムの解析

 近年、我が国においては糖尿病患者数が急増していますが、その原因には、日本人が欧米人に比し膵β細胞のインスリン分泌能が低く(遺伝的素因)、高脂肪食などの食事内容の欧米化や運動量の低下といった変化(生活習慣要因)による肥満・インスリン抵抗性状態に対して、これを十分に代償できないことが考えられます。

 そこで本プロジェクトでは、グルコース応答性インスリン分泌(GSIS)低下により耐糖能異常を示すモデル動物として、我々が遺伝子操作によって作製した膵β細胞特異的グルコキナーゼへテロ欠損マウス(Gck+/?マウス)を使用し、高脂肪食(HF ; high fat diet)を負荷して肥満を惹起させた上で、耐糖能やインスリン抵抗性に加え、インスリン分泌能や膵β細胞量に関して検討を行いました。

 具体的には、日本人のモデルとしてのGck+/?マウスと欧米人のモデルとしての野生型マウス各々に対して、洋食に相当するHF(脂肪含量32%)と、伝統的な和食を模した高炭水化物食( H C ;high carbohydrate diet)(脂肪含量4.0%)を投与しました。

 Gck+/?マウス、野生型マウスとも20週間のHF負荷によってHC負荷群と比較して有意な肥満と脂肪細胞の肥大化、高FFA血症をきたしましたが、インスリン抵抗性悪化の程度に関してはGck+/?マウス・野生型マウス間に差を認めませんでした。しかしながら、糖負荷試験を行うと、HF負荷野生型マウスは代償性高インスリン血症によりほぼ正常な耐糖能を維持したのに対し、HF負荷Gck+/?マウスは代償性高インスリン血症を欠き、耐糖能が悪化して糖尿病を発症しました。

 さらに興味深いことに、HF負荷Gck+/?マウスの膵組織像では膵島増大が認められず、膵β細胞増殖能は低下していました。単位膵β細胞あたりのGSISに関しては、膵β細胞における脂肪毒性を反映して、HC負荷群に比較してHF負荷群では、Gck+/?マウス・野生型マウスともに同程度に低下しておりましたので、HF負荷Gck+/?マウスにおける代償性高インスリン血症の欠如は、主に代償性膵β細胞過形成障害によるものと考えられました。

 次にHF誘導性のインスリン抵抗性に対する代償性膵β細胞過形成障害の分子メカニズムを明らかにするべく膵島のDNAチップを行い、網羅的に遺伝子発現を解析しました。

 驚くべきことに、HF負荷野生型マウスと比較してHF負荷Gck+/?マウスでは、インスリンシグナルの鍵分子であるインスリン受容体基質(RS)?2の発現が?25倍と最も減少していました。その上流のIGF-1受容体、下流のPDK?1の発現も低下していました。

 蛋白レベルにおいてもHF負荷Gck+/?マウスの膵島ではHF負荷野生型マウスで認められるIRS-2の発現上昇を欠くことを確認しました。

 そこで膵β細胞IRS-2過剰発現マウスを作出し、Gck+/?マウスと交配することでIRS?2の補充によりHF負荷Gck+/?マウスの表現型がrescueされるか検討しました。

 コントロールのHF負荷Gck+/?マウスと比較して膵β細胞にIRS?2を補充したHF負荷Gck+/?マウスでは、膵β細胞増殖能の回復と膵島増大が認められ、単位膵β細胞あたりのGSISに変化はなかったのですが、個体レベルでの耐糖能が部分的に改善しました。
 
 さらに検討を進めたところ、HF負荷Gck+/?マウスの膵島では、CREBリン酸化の減弱とFoxO-1の顕著な核内局在を認めることを見出しました。前者はIRS-2発現亢進の欠如に、後者はPdx-1の発現制御を介して膵β細胞の増殖に関与している可能性が考えられました。

 以上から、HF誘導性のインスリン抵抗性に対する代償性膵β細胞過形成にグルコキナーゼ、IRS-2は重要な役割を果たしていることが明らかとなりました。【門脇 孝、窪田直人】


出典:Terauchi Y, Takamoto I, Kubota N, Matsui J, Suzuki R, Komeda K, Hara A, Toyoda Y, Miwa I, Aizawa S, Tsutsumi S, Tsubamoto Y, Hashimoto S, Eto K, Nakamura A, Noda M, Tobe K, Aburatani H, Nagai R, Kadowaki T. 􀀀 “Glucokinase and IRS-2 are required for compensatory beta cell hyperplasia in response to high-fat diet-induced insulin resistance.”􀀀 Journal of Clinical Investigation 117 : 46-257, 2007.

ニュースレター「健康・栄養ニュース」第6巻2号(通巻21号)平成19年9月15日発行から転載

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作成:2008/6/13 16:07:45 自動登録   更新:2009/2/5 14:01:49 自動登録   閲覧数:15699
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