論文報告「トランスファーRNAに結合するアミノ酸濃度を維持する機構の解明。」

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 トランスファーRNA(転移RNAtRNA)はアミノアシル化という反応によりアミノ酸が付加(チャージ)されます。これまで翻訳因子として重要なtRNAは、安定した翻訳環境を維持するために、チャージを一定レベルで維持していると考えられてきました。しかし近年、栄養ストレスや成長条件により、tRNAのチャージが様々な動態を示し、翻訳を始めとした生命現象に影響を与えるダイナミックな分子であることが明らかとなってきました。tRNAのチャージ率は生物学的に重要なパラメーターであり、また、難病を始めとした様々な疾患とも深い関連があります。

 今回我々は、tRNAにチャージしているアミノ酸濃度をユビキチンシステムが維持している機構を解明しました。我々が開発したtRNAのチャージ率評価方法(紹介記事はこちら)を活用して検討したところ、tRNAにチャージするグルタミン濃度は細胞内のグルタミン濃度を鋭敏に反映していました。tRNAにチャージするグルタミンが減量すると、ストレスに応答して活性化するGCN2タンパクの機能を介して、ユビキチンCの発現量が増加しました。ユビキチンは細胞内の不要なタンパク質を選択的に分解するシステムであり、この活動を介してtRNAへのグルタミンのチャージを下げないようにしていることが判明しました。

 本研究により、tRNAチャージ率が細胞内の栄養状態を鋭敏に反映すること、さらには、細胞内のシグナル伝達の重要なトリガーとなることが分かりました。tRNAチャージの研究により、様々な生命現象の理解や、疾患の病態解明が期待されます。

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