概要
コミュニティや個人の寛容性・自律性を高める社会技術を開発・実装し、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)の最大化を実現することが、私たちのミッションです。
多様な個人を受容する「寛容性」と一人一人が主体的に行動する「自律性」を備えた包摂的なコミュニティを形成には、すでに心身に高いリスクを抱えている人々へのアプローチだけではなく、その状態に至る前段階の人々を早期に発見し、守る仕組みとしてのポピュレーション・アプローチが重要です。
社会の包摂性を高めるには、マイノリティに関する情報をただ発信するのではなく、実際に人々の行動を変えていく必要があります。人々の価値観変容や行動変容を促進する技術を「社会技術」と呼びます。健康無関心層が健康行動に向かうことや、住民のまちづくりや互助への参画など、人々の価値観や行動を変える「社会技術」の開発を行い、多様な個人を受容する「寛容性」と一人一人が主体的に行動する「自律性」を備えた社会の構築に向け、私たちは、人々にどうアプローチすれば行動が変わるのかを考えながら、自治体での実証実験を行っています。様々な自治体で得た成果を、社会技術として他の自治体や企業に展開し、各取り組みの再現性を高めることが目標です。
サブ課題
サブ課題A「社会の寛容性向上策」
社会の超少子高齢化と高度情報化が進み、生活・価値観の多様化とウェットな人間関係の分断により、コミュニティ活動の低下や社会的孤立が深刻化しています。そこでサブ課題 A の目的は、社会の寛容性を向上するために、コミュニティを再生するための社会技術と地域に寄り添いコミュニティ再生を支援する「中間法人」とそれを支える全国組織を設計し、地域拠点の整備や支援アプリと、暮らし・学び・遊び・ウエルネスなどのサービスを提供し、新たに開発する包摂性評価指標を導入したまちづくり手法を社会実装することです。また、地域の世話役を育成する養成講座、人々に「多様な違いがあって当たり前」の意識変革を目指す教育プログラム、社会参加を困難にしている人々が、自らを整え、社会参加ができる準備のための現実・仮想の場をメタバースなど新しい技術も活用して官民連携サービスとして提供します。結果として、LGBTQ 等ジェンダーの指向性や自分らしさの価値基準の違いによる当事者・非当事者の息苦しさを軽減し、誰もが安心して自分らしく生きられる地域コミュティと社会を実現します。
サブ課題B「個人の自律性向上策」
社会全体の包摂性を向上するためには、一人ひとりが主体的に自身の幸福や生きがいに向けて自らの考えで行動できること、すなわち自律性の向上と、それを支える心身の健康の維持・増進が不可欠です。サブ課題B の目的は、画一的な支援ではなく、一人ひとりのライフステージや個人の特性(属性、環境、心理特性等)に応じた「個別化の支援」を実現することです。このため、幅広いライフステージや個人の特性に関わるデータベースの構築を行い、そこに蓄積されるデータを活用することで個人に適合した支援サービスを提供します。具体的には健康行動の推進に必要な健康リテラシーを正確に評価して向上を促す介入ツール、将来の健康リスクを予測する AIモデル、この情報を用いた行動変容技術、さらに、自然言語会話 AI に基づいて健康に無関心な個人を分類し、その特性を踏まえた対話から健康行動を促すアプリなど、各要素技術をパッケージ化した「個別化の支援」サービスを広く提供することで、健康無関心層を含む人々の自律性を向上させます。
サブ課題C「子育て世代・女性の幸福度向上策」
女性において、思春期、産前・産後、更年期に生じる様々な課題が、Well-being や就労率を低下させ、大きな経済的損失をもたらす可能性が指摘されています。サブ課題 C の目的は、自治体、教育施設、企業、職場等が連携して本課題を解決する 4 つの社会技術を確立し、さらに自治体や企業が容易に導入できるように一般化することです。
① 企業や自治体と連携し、子育て支援、女性の健康リテラシー向上、痩せに偏りがちな体型の多様性の理解を促進する社会的ムーブメントを起こすモデルを構築します。
② 妊婦や子育て中の女性に対するハイブリッド型のサポートを構築し、持続的に展開するための事業モデルを開発します。
③ 女性向けの健康経営の制度を策定し、それを推進する経営層と人事担当者の行動変容を促進するモデルを構築します。
④ 学校教育におけるボディイメージに関する新しい教育法を開発し、それを浸透させるモデルを構築します。これにより、女性が生涯を通じて心身ともに健康で幸福な生活を送るための包摂的な社会を実現します。
サブ課題D「障がい者・高齢者の生きがい向上策」
高齢化、人口減少と核家族化が進展するなか、人間関係の希薄化が進み、どの地域でも孤独・孤立の問題を抱えています。サブ課題 D の目的は、高齢者自身が家族や地域住民とつながり、積極的に外出して経済社会活動に参加し、心身の健康に気を配ることによって健康で楽しい暮らしを送ると同時に、包摂的な地域社会の実現とその持続可能性を担保することです。このため、モバイルを使ったデジタルサービスを提供することで遠隔家族や地域住民とのコミュニケーションを確保・促進し、自動運転モビリティによるオンデマンドな外出支援サービスを提供することで外出意欲の向上と社会参加の機会を確保します。さらに福祉と金融が連携することで、高齢者の認知機能が低下しても、詐欺などの問題に巻き込まれずに、自分の資産を自分と家族のために使えるような「資産の見守り」を可能にします。生きづらさや不安を感じたら周りに「助けて」といえる社会、そして、人と AI 技術の融合によって「お互い様」を実感できる「懐かしい未来」を実現します。
出口戦略
SIP後の社会実装の方法として、関係省庁の施策とも連携しつつ、SIPでの研究開発に参画する企業を中心とした民間企業によるサービスとして、「包摂的コミュニティプラットフォーム」を通じて全国へ展開することを想定している。サービス内容については、自治体の事業を民間が受託するもの、住民が費用負担者となるもの、住民が費用負担者となりつつ一部自治体が補助するもの、民間企業が事業活動の一環として取り組むもの等が考えられる。サブ課題ごとに、住民や自治体の受容性について検証するとともに、最適なビジネスモデルをSIP期間中に検討・検証し、持続的に提供可能且つ過疎地を含めた多様な地域特性に応じて全国に展開可能なモデルを構築する。それらのサービス群が品揃えされ、住民・自治体・まちづくり系企業等が地域特性に応じてサービスを選択・採用できる「包摂的コミュニティプラットフォーム」を構築する。
実施体制
体制として、全体を統括する久野 譜也プログラムディレクター(PD)のもとに、青木 由行サブPD(一般財団法人不動産適正取引推進機構 理事長)、石田 惠美サブPD(BACeLL法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士)、唐澤 剛サブPD(社会福祉法人サン・ビジョン 理事長)、北出 真理サブPD(順天堂大学医学部産婦人科 教授)、目﨑 祐史サブPD(セコム株式会社 執行役員)の5名を配置した。また、審査委員会、ピアレビュー委員会、知的財産委員会を研究推進法人に設置し、各サブ課題が相互に連携する体制で運用する。
期待される成果
「包摂的コミュニティプラットフォーム」の広域での普及・展開が期待されるため、スタートアップを含め、その構成要素となる技術やサービスを提供する企業群の参入が促進されることが期待される。なお、このプラットフォームは、様々な企業に門戸を開くことによって、よい良いサービスが市場競争の中でユーザーである住民・自治体・まちづくり系企業等に選ばれ、サービス内容が改善されていくようなプラットフォームを目指す。このように「包摂的コミュニティプラットフォーム」が、一つのエコシステムとして持続可能な形で発展していくことを目指す。
達成目標
SIP期間中のサブ課題ごとの達成目標は以下の通りである。
サブ課題A「社会の寛容性向上策」
《達成目標1》包摂的コミュニティモデルに必要な技術要素が開発され、コミュニティサービスの立上ができている。且つ、コミュニティサービス実装地域において、策定するガイドラインに基づく包摂性評価が向上している。
《達成目標2》AI技術を活用したコミュニティ形成ガイドラインが企業、自治体に採用されている。また、このガイドラインが適用された仕組みが一般市街地等の地域で住民に利用されている。
サブ課題B「個人の自律性向上策」
《達成目標1》健康リスク検知(予測)エンジンを開発し、その有効性が検証され、個々人の健康リスク・健康リテラシーの可視化が可能となっている。
《達成目標2》医学的要因に加えて一人ひとりの嗜好等も取り入れた生活行動変容支援サービスと多層的介入プログラムが開発され、健康無関心層が健康リテラシーを向上させ、何等かの健康行動を自主的に開始している。
《達成目標3》AIによる健康リスクの検知・予測や健康リテラシーの向上、多層的介入サービス等の有効性・事業性が検証され、自治体及び自治体から委託をうけた民間企業が自治体にてサービスを提供している。
《達成目標4》上記に関連する健康データを分析・活用できる自治体の人材が育成されるとともに、多層的介入プログラムを担う人材が育成されコミュニティで活動する。また、人材育成を継続的に行う支援組織が立ち上がっている。
サブ課題C「子育て世代・女性の幸福度向上策」
《達成目標1》パブリックリレーションズ技術により、モデル地域の子育てに対する寛容性の指標が一定以上であると判定される者の割合が60%以上となっている。
《達成目標2》妊娠前後、子育て世代の男女の心身の不安を解消できるハイブリッド伴走型支援が構築され、有効性が検証されている。
《達成目標3》医学的に課題となる瘦身ではない新しい美としてのボディイメージを社会として形成するための社会技術が開発され、その効果が検証されている。
《達成目標4》新しい美の価値観に基づく商品や、検証された痩せ症スクリーニングツール、栄養・運動プログラムが開発され、それぞれ顧客に提供できる状態になっている。
サブ課題D「障がい者・高齢者の生きがい向上策」
《達成目標1》遠隔家族が支え合う豊かな暮らしをデジタル技術で実現する次世代型ライフスタイルモデルが開発され、有効性・事業性を検証されている。
《達成目標2》ラストワンマイルの移動を容易とする官民連携のビジネスモデルが構築され、有効性・事業性が検証されている。
《達成目標3》経済取引上の判断能力に限らず高齢者が、継続して自律的な経済活動が行えるように支援する社会技術が開発され、効果が検証されている
※社会実装に向けた戦略及び研究開発計画はこちらをご覧ください
「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」戦略及び計画