(これは、第1期中期計画の食品成分有効性評価及び健康影響評価の研究成果の一部です。)
メチルスルフォニルメタン
要約
メチルスルフォニルメタン(MSM)は有機イオウ化合物の一種であり、穀類、果物、野菜、牛乳などに含まれている。近年、MSMは関節炎や美容に対する効果を標榜したいわゆる健康食品素材として、単独もしくはグルコサミンやコンドロイチン硫酸などと混合した形で市販されている。本レビューではMSMの安全性と機能性について紹介する。
?メチルスルフォニルメタン(MSM) について?
1.メチルスルフォニルメタンとは
メチルスルフォニルメタン(methylsulfonylmethane:MSM)はジメチルスルホン(dimethyl sulfone:DMSO2)の名でも知られる天然由来の有機イオウ化合物の一種であり、ジメチルスルフォキシド(dimethylsulfoxide:DMSO)の酸化物である(1, 2)。
食品では穀類、果物、野菜などに含まれ、特に牛乳には約3.3ppmと他の食品に比べ多く含まれている(3)。ウシやヒトでは副腎髄質、乳汁、尿より検出されており、ヒトの尿中排泄量は4-11 mg/dayである(4, 5)。MSMはその34%がイオウ元素で構成される白色の結晶性物質で、揮発性、水溶性、無臭、微苦味の性質を持つ。
自然界にはイオウ化合物のライフサイクルがあり、それは海洋プランクトンがジメチルスルフォニウム塩(dimethyl sulfonium salts)というイオウ化合物を放出することから始まる。ジメチルスルフォニウム塩は揮発性物質であるジメチルスルフィド( dimethyl sulfide:DMS)に変換されると海水から大気中へ放出され、最終的には超高層大気まで昇る。そこでDMSは高エネルギー紫外線やオゾンに暴露され、DMSOやDMSO2に変換される。DMSOとDMSO2は水溶性であるため雨となって地上に降り、植物がそれらを根から取り込む。
近年MSMは関節炎や美容に対する効果を標榜したいわゆる健康食品の素材として、単独もしくはグルコサミンやコンドロイチン硫酸塩などと混合した形で市販されている。しかし、その安全性や有効性について十分に検討されていない。
2. MSMの体内動態
LaymanらはアカゲザルにDMSO 3 g/kg BW/day を14日間与え、その代謝産物であるMSMの体内動態について観察している(6)。
DMSOの単回経口投与によりMSMは摂取2時間後より血中に確認され、継続投与では4日目に定常状態濃度に達した。一方消失速度についてはDMSO摂取終了後約120時間で血中より消失し、その半減期は38時間であった。アカゲザルにおけるDMSOの吸収はヒトと類似しているが、排泄はアカゲザルの方が早かったという。
ヒトでは磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)でMSMの経口摂取による脳への蓄積を確認した報告がある(7,8,9)。Roseらによる試験では被験者(62歳男性)はMSM複合カプセル(MSM 1,000mg/カプセル)2カプセル/11kg BWを7日間、その後2カプセル/dayを継続して計30日間摂取し、摂取終了後の脳内からの消失の様子を観察している(7)。脳内からの消失は直線的であり、その半減期は7.5日であった。一方Linらは記憶障害者4名と健常者3名について、経口摂取したMSMは脳内で血液脳関門通過することを確認している(8)。さらにMSMは灰白質と白質に均等に分布していたこと、多量のMSM( 6.0g/day)を摂取した被験者では脳内濃度は顕著な上昇を示さなかったが、脳卒中の病歴を持つ被験者では通常用量の摂取(< 3.0g/day)でも高値を示したことを報告している。
RichmondらはMSM中のイオウが体内で含硫アミノ酸に取り込まれるか検討している(10)。すなわち、モルモットに35Sで標識したMSMを3用量投与したところ、35Sはモルモット血清タンパク中のペプチジルメチオニンとシステインに取り込まれたという。また放射活性の約1%は血清タンパクに取り込まれ、糞便中には検出されず、そのほとんどが尿中に排泄された。一方、35S-MSMの摂取量に対し血清タンパクにおける比活性は30%の増加であったことから、含硫アミノ酸への合成は腸管腔内微生物などにより制限、調節されていると考えられる。
3.MSMの機能性
1)関節炎に対する作用
関節炎は原因により感染性関節炎、変形性関節症、関節リウマチを始めとする炎症性関節炎に分類される。関節疾患の中で最も多い疾病は変形性関節症(Osteoarthritis:OA)である。OAは中高年者の関節疾患の中で最も発生頻度の高い疾患の一つであり、特に膝関節や股関節に頻発することから、罹患によりQOLが著しく低下する。高齢者に多く発症するが、関節の軟部骨組織と周囲の組織に変性が起こり、疼痛、関節のこわばり、機能障害を生じる。一方関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis:RA)RA は免疫系の異常により関節の滑膜細胞が増殖し、骨・軟骨破壊を伴った関節炎を起こす自己免疫疾患である。病因としては、遺伝要因と環境要因があり、これらが複雑に絡んで炎症反応を誘導していると考えられている。環境要因としてはウイルス、細菌、マイコプラズマなどの感染があげられる。また、軟骨のプロテオグリカンおよびII型コラゲンやある種の糖ペプチドにも関節炎の誘導能があることが知られている。Murav'evらは自然発症関節炎モデルマウス(Mrl/Mn/Inrマウス)において、DMSOとMSMの経口摂取による関節の形態像と循環免疫複合体レベルへの効果について検討しており、DMSOおよびMSMは関節の破壊を抑制したことを報告している(11)。
MSMの関節炎に対する作用は動物レベルでは検討されているが、ヒトにおける有効性については報告されていない。
2)季節性アレルギー鼻炎に対する作用
季節性アレルギーとは、1年の特定の時期にだけ出現する花粉のような空気中に含まれる物質に暴露されて起こるアレルギーで、主な症状として鼻炎や結膜炎がある。米国で行われた非盲検試験では、季節性アレルギー鼻炎(Seasonal Allergic Rhinitis:SAR)患者50名がMSM(2,600mg/day)を30日間摂取したところ、Seasonal Allergy Symptom Questionnaireによる評価において、呼吸器症状とエネルギーレベルがベースラインに比べて改善したことを報告している(12)。一方、血清IgEおよびヒスタミンレベルの変化は観察されなかった。
3)免疫性疾患に対する作用
KlandorfらはDMSO、MSMおよびDMSの自己免疫型糖尿病予防に対する効果について?型糖尿病モデルであるNODマウスを用いて検討を行っており、それぞれ2.5、2.5、0.25%濃度を飲水として与えたがMSMの効果は認められなかった(13)。 Morton らは3種類の自己免疫疾患モデルマウス(MRL/lpr、C3H/lpr、BXSBマウス)を用いて、DMSOおよびMSMの自己免疫疾患に対する効果について検討している(14)。すなわち 、それぞれ3%溶液を飲水として自由摂取で与えたところ(DMSO 8-10 g/kg/day、MSM 6-8 g/kg/dayに相当)MRL/lprマウスでは寿命が延長し、どの種においても抗核抗体反応(ANA)低下とリンパ節症、脾種および貧血への進行の減少を認めた。また副作用も観察されなかった。
4)間質性膀胱炎に対する作用
間質性膀胱炎(Interstitial Cystitis:IC)は頻尿、尿意切迫感、蓄尿時の膀胱痛(恥骨上部の痛み)などを主症状とする膀胱間質の非特異的な慢性炎症性疾患であるが、最近では上記の症状を主症状とする症候群とされている。日本では認知度は低いが、米国における患者数は45-100万人程度、うち90%が女性であるといわれている。病因は明らかでなく、尿路感染、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、尿中に含まれるある種の物質による刺激などが発症原因として考えられている。治療法は症例に応じて水圧拡張、適宜内服薬、膀胱内注入療法、電気刺激法などがあるが、標準的で常に有効なものはない。また、MSMの前駆体であるであるDMSOは膀胱内注入療法で使用されることがある 。Childsは6名の難治性または他の治療に失敗したIC患者を対象としたケーススタディを報告している(15)。非盲検で MSM(30-50cc)による治療を施し、1名は膀胱痙攣を起こしたが、5 名については効果がみられた。また、WhitmoreらによるIC患者22名へのMSM治療(50ccを膀胱内に注入)では、治療開始6ヵ月後22名中16名(72%)が改善し、1年後には22名中4名が治療を中止しても症状が現れなくなったという。Marshall はICの栄養補助治療について総説をまとめている(16)。それによるとDMSOのICに対する効果については非盲検プラセボ対照試験により報告されているが、特有のガーリック臭による口臭などその使用には制限があり、また膀胱内投与後の灼熱感や骨盤痛の報告が数例あるという。一方MSMについてはDMSOのような臭いはなく、対照試験による報告はないが患者の約80%で症状の改善が見られているという。また、MSMの経口による処方の際は1gから開始し、医師管理下では18gまでとされている。
5)腫瘍に対する作用
McCabeおよびO'Dwyerらはラットを用いてMSM摂取のがんに対する影響について検討している(17, 18)。すなわち、McCabeらはdimethylbenzanthracene誘導性乳がんに対して1%および4%MSM溶液を、O'Dwyerらはdimethylhydrazine誘導性大腸がんに対して1%MSM溶液を飲水として与えて観察したところ、それぞれ腫瘍発生率に影響は無かったが潜伏期間の延長が認められた。また、副作用や体重減少は認められなかったが、乳がんラットでは4%MSM群(n=20)のうち3匹について後腹膜腫瘍などの特異な腫瘍が観察された。一方、大腸がんラットについては未分化型腫瘍の発生が対照群で50%であったのに対し、MSM処置群では21%であったとい う。一方、EbisuzakiはアスピリンおよびMSMのがん細胞に対する化学予防メカニズムについてin vitroで検討している(19)。すなわち、マウス赤白血病(MEL)細胞を用いてアスピリン、サリチル酸およびMSMの分化誘導作用を観察したところ、低濃度アスピリン、サリチル酸および2%MSMではMEL細胞の分化を誘導した。またアスピリンおよびMSMについて、それぞれ分化を誘導した濃度ではPGE2産生量に影響が認められなかったことから、アスピリンおよびMSMはCOX非依存性のメカニズムで分化を誘導しており、これらは分化誘導遺伝子群を活性化することにより化学予防作用を示すと考察している。
6)その他
Laymanはウシ大動脈の平滑筋および内皮細胞を用いてDMSOおよびMSMの細胞障害性について検討しており、それぞれ用量依存的(0, 0.5, 1, 2, 3, 4%)に細胞増殖を抑制した(20)。またその効果はMSMがDMSOより強く、可逆性も低かったという。Beilkeらによるin vitroの実験では、DMSOおよびMSMの好中球由来ラジカルの産生抑制を確認している(21)。すなわち phorbol myristate acetateおよびopsonized zymosanで刺激したヒト末梢血好中球にDMSOおよびMSMをそれぞれ加えたところ、好中球由来ラジカル3種類(HOCl/OCl?、H2O2、O2?)の濃度は用量依存的(1, 10, 100, 300 mmol/L)に減少を示した。一方、DMSOおよびMSMは無細胞系においてH2O2およびO2?に対して作用しないこと、また好中球の生存能力に対して影響を及ぼさないことから、DMSOおよびMSMはラジカルスカベンジャー以外のメカニズムにより好中球由来のラジカル産生を直接阻害する可能性が示唆されるとしている 。Alamらは培養ウシ大動脈内皮細胞を用いたin vitroの実験で2% DMSOおよびMSMはPGI2合成をそれぞれ70および50%抑制したこと、またそれらは細胞リン脂質からのアラキドン酸の放出も同程度阻害したことを報告している(22)。
イオウは皮膚や髪の毛、爪の健康維持に役立つと考えられており、イオウを有するMSMについても美容効果を謳ったいわゆる健康食品やクリームが市販されているが、十分な科学的根拠は得られていない。
4.MSMの安全性
Horvathらはラットを用いてMSMの急性および亜慢性毒性について検討しており、2g/kgの単回投与および1.5g/kg/dayの90日間連続投与では副作用や死亡は観察されなかった(23)。また病理学的に重度の障害や臓器重量の変化は無く、腎組織も正常だったという。Mortonらによる自己免疫疾患モデルマウスを用いた試験で は3%MSM溶液を(6-8 g/kg/day に相当)、McCabeおよびO'Dwyerらによる腫瘍マウスを用いた試験では4%および1%MSM溶液を自由摂取で与え、副作用は見られなかった(14, 17, 18)。一方ウシ大動脈平滑筋および内皮細胞を用いたin vitro実験では、高濃度 MSMが細胞障害性を示したと報告している(20)。
健常人におけるケースレポートでは、MSMの摂取(2-3g/day、2.5 ヶ月)により脳内代謝物濃度は影響を受けなかった(8)。また、 Cecilらによる5歳自閉症児でのケースレポートではMSM 1,250 mg/day、約1年間の摂取で臨床的、構造的および神経系において副作用は観察されなかった(9)。一方米国 での多施設非盲検試験ではMSMの経口摂取で吐き気、下痢、頭痛を 起こした例が数件あり、また痒みやアレルギー症状が強まったとの 報告もある(2,12)。
Natural Medicines Comprehensive Databaseでは、経口による短期間の使用では2,600mg/day、30日間までは安全に使用されているが、局所使用については信頼性のある情報が不十分であるとされている。また、妊婦、授乳婦の使用についても情報が不十分であるため、使用は避けるべきであると記載されている(2)。
我々の調査によると日本で市販されているいわゆる健康食品としてのMSMの1日摂取目安量は135-3,000mgであるが、米国輸入品については多いもので1日当たりの摂取量が8,000mgと表示されているものもある 。
以上MSMについて紹介した。MSMの安全性に関しては、ヒトにおいて副作用の報告もあることから、摂取するに当たっては体調などに十分に注意を払うべきである。一方、MSMの機能性に関しては、ヒトにおける有効性とその裏付けとなる科学的根拠は十分でないことから、今後さらに検討を行う必要がある。
【石見佳子、江崎潤子】
引用文献
1. Methylsulfonylmethane (MSM). Monograph. Altern Med Rev 8:438-41, 2003
2. Natural Medicines Comprehensive Database 5th edition. Therapeutic Research Faculty社, 2003
3. Pearson TW, Dawson HJ, Lackey HB. Natural occurring levels of dimethyl sulfoxide in selected fruits, vegetables, grains, and beverages. J Agric Food Chem 29:1089-1091, 1981
4. Williams KI, Burstein SH, Layne DS. Dimethyl sulfone: isolation from human urine. Arch Biochem Biophys 113:251-252, 1966
5. Parcell S. Sulfur in human nutrition and applications in medicine. Altern Med Rev 7:22-44, 2002
6. Layman DL, Jacob SW. The absorption, metabolism and excretion of dimethyl sulfoxide by rhesus monkeys. Life Sci 37:2431-2437, 1985
7. Rose SE, Chalk JB, Galloway GJ, Doddrell DM. Detection of dimethyl sulfone in the human brain by in vivo proton magnetic resonance spectroscopy. Magn Reson Imaging 18:95-98, 2000
8. Lin A, Nguy CH, Shic F, Ross BD. Accumulation of methylsulfonylmethane in the human brain: identification by multinuclear magnetic resonance spectroscopy. Toxicol Lett 123:169-177, 2001
9. Cecil KM, Lin A, Ross BD, Egelhoff JC. Methylsulfonylmethane observed by in vivo proton magnetic resonance spectroscopy in a 5-year-old child with developmental disorder: effects of dietary supplementation. J Comput Assist Tomogr 26:818-820, 2002
10. Richmond VL. Incorporation of methylsulfonylmethane sulfur into guinea pig serum proteins. Life Sci 39:263-268, 1986
11. Murav'ev IuV, Venikova MS, Pleskovskaia GN, Riazantseva TA, Sigidin IaA. [Effect of dimethyl sulfoxide and dimethyl sulfone on a destructive process in the joints of mice with spontaneous arthritis] Patol Fiziol Eksp Ter (2):37-39, 1991
12. Barrager E, Veltmann JR Jr, Schauss AG, Schiller RN. A multicentered, open-label trial on the safety and efficacy of methylsulfonylmethane in the treatment of seasonal allergic rhinitis. J Altern Complement Med 8:167-173, 2002
13. Klandorf H, Chirra AR, DeGruccio A, Girman DJ. Dimethyl sulfoxide modulation of diabetes onset in NOD mice. Diabetes 38:194-197, 1989
14. Morton JI, Siegel BV. Effects of oral dimethyl sulfoxide and dimethyl sulfone on murine autoimmune lymphoproliferative disease. Proc Soc Exp Biol Med 183:227-230, 1986
15. Childs SJ. Dimethyl sulfone (DMSO2) in the treatment of interstitial cystitis. Urol Clin North Am 21:85-88, 1994
16. Marshall K. Interstitial cystitis: understanding the syndrome. Altern Med Rev 8:426-437, 2003
17. McCabe D, O'Dwyer P, Sickle-Santanello B, Woltering E, Abou-Issa H, James A. Polar solvents in the chemoprevention of dimethylbenzanthracene-induced rat mammary cancer. Arch Surg 121:1455-1459, 1986
18. O'Dwyer PJ, McCabe DP, Sickle-Santanello BJ, Woltering EA, Clausen K, Martin EW Jr. Use of polar solvents in chemoprevention of 1,2-dimethylhydrazine-induced colon cancer. Cancer 62:944-948, 1988
19. Ebisuzaki K. Aspirin and methylsulfonylmethane (MSM): a search for common mechanisms, with implications for cancer prevention. Anticancer Res 23:453-458, 2003
20. Layman DL. Growth inhibitory effects of dimethyl sulfoxide and dimethyl sulfone on vascular smooth muscle and endothelial cells in vitro. In Vitro Cell Dev Biol 23:422-428, 1987
21. Beilke MA, Collins-Lech C, Sohnle PG. Effects of dimethyl sulfoxide on the oxidative function of human neutrophils. J Lab Clin Med 110:91-96, 1987
22. Alam SS, Layman DL. Dimethyl sulfoxide inhibition of prostacyclin production in cultured aortic endothelial cells. Ann N Y Acad Sci 411:318-320, 1983
23. Horvath K, Noker PE, Somfai-Relle S, Glavits R, Financsek I, Schauss AG. Toxicity of methylsulfonylmethane in rats. Food Chem Toxicol 40:1459-1462, 2002
メチルスルフォニルメタン
要約
メチルスルフォニルメタン(MSM)は有機イオウ化合物の一種であり、穀類、果物、野菜、牛乳などに含まれている。近年、MSMは関節炎や美容に対する効果を標榜したいわゆる健康食品素材として、単独もしくはグルコサミンやコンドロイチン硫酸などと混合した形で市販されている。本レビューではMSMの安全性と機能性について紹介する。
?メチルスルフォニルメタン(MSM) について?
1.メチルスルフォニルメタンとは
メチルスルフォニルメタン(methylsulfonylmethane:MSM)はジメチルスルホン(dimethyl sulfone:DMSO2)の名でも知られる天然由来の有機イオウ化合物の一種であり、ジメチルスルフォキシド(dimethylsulfoxide:DMSO)の酸化物である(1, 2)。
食品では穀類、果物、野菜などに含まれ、特に牛乳には約3.3ppmと他の食品に比べ多く含まれている(3)。ウシやヒトでは副腎髄質、乳汁、尿より検出されており、ヒトの尿中排泄量は4-11 mg/dayである(4, 5)。MSMはその34%がイオウ元素で構成される白色の結晶性物質で、揮発性、水溶性、無臭、微苦味の性質を持つ。
自然界にはイオウ化合物のライフサイクルがあり、それは海洋プランクトンがジメチルスルフォニウム塩(dimethyl sulfonium salts)というイオウ化合物を放出することから始まる。ジメチルスルフォニウム塩は揮発性物質であるジメチルスルフィド( dimethyl sulfide:DMS)に変換されると海水から大気中へ放出され、最終的には超高層大気まで昇る。そこでDMSは高エネルギー紫外線やオゾンに暴露され、DMSOやDMSO2に変換される。DMSOとDMSO2は水溶性であるため雨となって地上に降り、植物がそれらを根から取り込む。
近年MSMは関節炎や美容に対する効果を標榜したいわゆる健康食品の素材として、単独もしくはグルコサミンやコンドロイチン硫酸塩などと混合した形で市販されている。しかし、その安全性や有効性について十分に検討されていない。
2. MSMの体内動態
LaymanらはアカゲザルにDMSO 3 g/kg BW/day を14日間与え、その代謝産物であるMSMの体内動態について観察している(6)。
DMSOの単回経口投与によりMSMは摂取2時間後より血中に確認され、継続投与では4日目に定常状態濃度に達した。一方消失速度についてはDMSO摂取終了後約120時間で血中より消失し、その半減期は38時間であった。アカゲザルにおけるDMSOの吸収はヒトと類似しているが、排泄はアカゲザルの方が早かったという。
ヒトでは磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)でMSMの経口摂取による脳への蓄積を確認した報告がある(7,8,9)。Roseらによる試験では被験者(62歳男性)はMSM複合カプセル(MSM 1,000mg/カプセル)2カプセル/11kg BWを7日間、その後2カプセル/dayを継続して計30日間摂取し、摂取終了後の脳内からの消失の様子を観察している(7)。脳内からの消失は直線的であり、その半減期は7.5日であった。一方Linらは記憶障害者4名と健常者3名について、経口摂取したMSMは脳内で血液脳関門通過することを確認している(8)。さらにMSMは灰白質と白質に均等に分布していたこと、多量のMSM( 6.0g/day)を摂取した被験者では脳内濃度は顕著な上昇を示さなかったが、脳卒中の病歴を持つ被験者では通常用量の摂取(< 3.0g/day)でも高値を示したことを報告している。
RichmondらはMSM中のイオウが体内で含硫アミノ酸に取り込まれるか検討している(10)。すなわち、モルモットに35Sで標識したMSMを3用量投与したところ、35Sはモルモット血清タンパク中のペプチジルメチオニンとシステインに取り込まれたという。また放射活性の約1%は血清タンパクに取り込まれ、糞便中には検出されず、そのほとんどが尿中に排泄された。一方、35S-MSMの摂取量に対し血清タンパクにおける比活性は30%の増加であったことから、含硫アミノ酸への合成は腸管腔内微生物などにより制限、調節されていると考えられる。
3.MSMの機能性
1)関節炎に対する作用
関節炎は原因により感染性関節炎、変形性関節症、関節リウマチを始めとする炎症性関節炎に分類される。関節疾患の中で最も多い疾病は変形性関節症(Osteoarthritis:OA)である。OAは中高年者の関節疾患の中で最も発生頻度の高い疾患の一つであり、特に膝関節や股関節に頻発することから、罹患によりQOLが著しく低下する。高齢者に多く発症するが、関節の軟部骨組織と周囲の組織に変性が起こり、疼痛、関節のこわばり、機能障害を生じる。一方関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis:RA)RA は免疫系の異常により関節の滑膜細胞が増殖し、骨・軟骨破壊を伴った関節炎を起こす自己免疫疾患である。病因としては、遺伝要因と環境要因があり、これらが複雑に絡んで炎症反応を誘導していると考えられている。環境要因としてはウイルス、細菌、マイコプラズマなどの感染があげられる。また、軟骨のプロテオグリカンおよびII型コラゲンやある種の糖ペプチドにも関節炎の誘導能があることが知られている。Murav'evらは自然発症関節炎モデルマウス(Mrl/Mn/Inrマウス)において、DMSOとMSMの経口摂取による関節の形態像と循環免疫複合体レベルへの効果について検討しており、DMSOおよびMSMは関節の破壊を抑制したことを報告している(11)。
MSMの関節炎に対する作用は動物レベルでは検討されているが、ヒトにおける有効性については報告されていない。
2)季節性アレルギー鼻炎に対する作用
季節性アレルギーとは、1年の特定の時期にだけ出現する花粉のような空気中に含まれる物質に暴露されて起こるアレルギーで、主な症状として鼻炎や結膜炎がある。米国で行われた非盲検試験では、季節性アレルギー鼻炎(Seasonal Allergic Rhinitis:SAR)患者50名がMSM(2,600mg/day)を30日間摂取したところ、Seasonal Allergy Symptom Questionnaireによる評価において、呼吸器症状とエネルギーレベルがベースラインに比べて改善したことを報告している(12)。一方、血清IgEおよびヒスタミンレベルの変化は観察されなかった。
3)免疫性疾患に対する作用
KlandorfらはDMSO、MSMおよびDMSの自己免疫型糖尿病予防に対する効果について?型糖尿病モデルであるNODマウスを用いて検討を行っており、それぞれ2.5、2.5、0.25%濃度を飲水として与えたがMSMの効果は認められなかった(13)。 Morton らは3種類の自己免疫疾患モデルマウス(MRL/lpr、C3H/lpr、BXSBマウス)を用いて、DMSOおよびMSMの自己免疫疾患に対する効果について検討している(14)。すなわち 、それぞれ3%溶液を飲水として自由摂取で与えたところ(DMSO 8-10 g/kg/day、MSM 6-8 g/kg/dayに相当)MRL/lprマウスでは寿命が延長し、どの種においても抗核抗体反応(ANA)低下とリンパ節症、脾種および貧血への進行の減少を認めた。また副作用も観察されなかった。
4)間質性膀胱炎に対する作用
間質性膀胱炎(Interstitial Cystitis:IC)は頻尿、尿意切迫感、蓄尿時の膀胱痛(恥骨上部の痛み)などを主症状とする膀胱間質の非特異的な慢性炎症性疾患であるが、最近では上記の症状を主症状とする症候群とされている。日本では認知度は低いが、米国における患者数は45-100万人程度、うち90%が女性であるといわれている。病因は明らかでなく、尿路感染、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、尿中に含まれるある種の物質による刺激などが発症原因として考えられている。治療法は症例に応じて水圧拡張、適宜内服薬、膀胱内注入療法、電気刺激法などがあるが、標準的で常に有効なものはない。また、MSMの前駆体であるであるDMSOは膀胱内注入療法で使用されることがある 。Childsは6名の難治性または他の治療に失敗したIC患者を対象としたケーススタディを報告している(15)。非盲検で MSM(30-50cc)による治療を施し、1名は膀胱痙攣を起こしたが、5 名については効果がみられた。また、WhitmoreらによるIC患者22名へのMSM治療(50ccを膀胱内に注入)では、治療開始6ヵ月後22名中16名(72%)が改善し、1年後には22名中4名が治療を中止しても症状が現れなくなったという。Marshall はICの栄養補助治療について総説をまとめている(16)。それによるとDMSOのICに対する効果については非盲検プラセボ対照試験により報告されているが、特有のガーリック臭による口臭などその使用には制限があり、また膀胱内投与後の灼熱感や骨盤痛の報告が数例あるという。一方MSMについてはDMSOのような臭いはなく、対照試験による報告はないが患者の約80%で症状の改善が見られているという。また、MSMの経口による処方の際は1gから開始し、医師管理下では18gまでとされている。
5)腫瘍に対する作用
McCabeおよびO'Dwyerらはラットを用いてMSM摂取のがんに対する影響について検討している(17, 18)。すなわち、McCabeらはdimethylbenzanthracene誘導性乳がんに対して1%および4%MSM溶液を、O'Dwyerらはdimethylhydrazine誘導性大腸がんに対して1%MSM溶液を飲水として与えて観察したところ、それぞれ腫瘍発生率に影響は無かったが潜伏期間の延長が認められた。また、副作用や体重減少は認められなかったが、乳がんラットでは4%MSM群(n=20)のうち3匹について後腹膜腫瘍などの特異な腫瘍が観察された。一方、大腸がんラットについては未分化型腫瘍の発生が対照群で50%であったのに対し、MSM処置群では21%であったとい う。一方、EbisuzakiはアスピリンおよびMSMのがん細胞に対する化学予防メカニズムについてin vitroで検討している(19)。すなわち、マウス赤白血病(MEL)細胞を用いてアスピリン、サリチル酸およびMSMの分化誘導作用を観察したところ、低濃度アスピリン、サリチル酸および2%MSMではMEL細胞の分化を誘導した。またアスピリンおよびMSMについて、それぞれ分化を誘導した濃度ではPGE2産生量に影響が認められなかったことから、アスピリンおよびMSMはCOX非依存性のメカニズムで分化を誘導しており、これらは分化誘導遺伝子群を活性化することにより化学予防作用を示すと考察している。
6)その他
Laymanはウシ大動脈の平滑筋および内皮細胞を用いてDMSOおよびMSMの細胞障害性について検討しており、それぞれ用量依存的(0, 0.5, 1, 2, 3, 4%)に細胞増殖を抑制した(20)。またその効果はMSMがDMSOより強く、可逆性も低かったという。Beilkeらによるin vitroの実験では、DMSOおよびMSMの好中球由来ラジカルの産生抑制を確認している(21)。すなわち phorbol myristate acetateおよびopsonized zymosanで刺激したヒト末梢血好中球にDMSOおよびMSMをそれぞれ加えたところ、好中球由来ラジカル3種類(HOCl/OCl?、H2O2、O2?)の濃度は用量依存的(1, 10, 100, 300 mmol/L)に減少を示した。一方、DMSOおよびMSMは無細胞系においてH2O2およびO2?に対して作用しないこと、また好中球の生存能力に対して影響を及ぼさないことから、DMSOおよびMSMはラジカルスカベンジャー以外のメカニズムにより好中球由来のラジカル産生を直接阻害する可能性が示唆されるとしている 。Alamらは培養ウシ大動脈内皮細胞を用いたin vitroの実験で2% DMSOおよびMSMはPGI2合成をそれぞれ70および50%抑制したこと、またそれらは細胞リン脂質からのアラキドン酸の放出も同程度阻害したことを報告している(22)。
イオウは皮膚や髪の毛、爪の健康維持に役立つと考えられており、イオウを有するMSMについても美容効果を謳ったいわゆる健康食品やクリームが市販されているが、十分な科学的根拠は得られていない。
4.MSMの安全性
Horvathらはラットを用いてMSMの急性および亜慢性毒性について検討しており、2g/kgの単回投与および1.5g/kg/dayの90日間連続投与では副作用や死亡は観察されなかった(23)。また病理学的に重度の障害や臓器重量の変化は無く、腎組織も正常だったという。Mortonらによる自己免疫疾患モデルマウスを用いた試験で は3%MSM溶液を(6-8 g/kg/day に相当)、McCabeおよびO'Dwyerらによる腫瘍マウスを用いた試験では4%および1%MSM溶液を自由摂取で与え、副作用は見られなかった(14, 17, 18)。一方ウシ大動脈平滑筋および内皮細胞を用いたin vitro実験では、高濃度 MSMが細胞障害性を示したと報告している(20)。
健常人におけるケースレポートでは、MSMの摂取(2-3g/day、2.5 ヶ月)により脳内代謝物濃度は影響を受けなかった(8)。また、 Cecilらによる5歳自閉症児でのケースレポートではMSM 1,250 mg/day、約1年間の摂取で臨床的、構造的および神経系において副作用は観察されなかった(9)。一方米国 での多施設非盲検試験ではMSMの経口摂取で吐き気、下痢、頭痛を 起こした例が数件あり、また痒みやアレルギー症状が強まったとの 報告もある(2,12)。
Natural Medicines Comprehensive Databaseでは、経口による短期間の使用では2,600mg/day、30日間までは安全に使用されているが、局所使用については信頼性のある情報が不十分であるとされている。また、妊婦、授乳婦の使用についても情報が不十分であるため、使用は避けるべきであると記載されている(2)。
我々の調査によると日本で市販されているいわゆる健康食品としてのMSMの1日摂取目安量は135-3,000mgであるが、米国輸入品については多いもので1日当たりの摂取量が8,000mgと表示されているものもある 。
以上MSMについて紹介した。MSMの安全性に関しては、ヒトにおいて副作用の報告もあることから、摂取するに当たっては体調などに十分に注意を払うべきである。一方、MSMの機能性に関しては、ヒトにおける有効性とその裏付けとなる科学的根拠は十分でないことから、今後さらに検討を行う必要がある。
【石見佳子、江崎潤子】
引用文献
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23. Horvath K, Noker PE, Somfai-Relle S, Glavits R, Financsek I, Schauss AG. Toxicity of methylsulfonylmethane in rats. Food Chem Toxicol 40:1459-1462, 2002
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作成:2005/8/5 14:34:44 自動登録
更新:2008/7/4 16:49:56 root
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