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病気:「尿酸値が高め」といわれたらどう考える?

作・岡 純 :2002/11/11


 痛風が、血液中の尿酸が増えすぎて引き起こされる病気であることはよく知られていますが、いわゆる無症候性と呼ばれて痛みの発作がなくて「尿酸値が高め」の人々に対してどう対処すべきか、最近まで一定の指針がありませんでした。

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 平成8年2月、痛風を専門に診療・研究する医師や医学研究者の集まりである日本プリン・ピリミジン代謝学会の総会が大阪で開催されました。そこで、「高尿酸血症・痛風の治療指針」と題する話し合いがもたれ、
  1. 血清尿酸値7mg/dlを正常上限とする
  2. 7ー7.9mg/mlは要観察
  3. 8mg/dl以上は治療対象である
  4. コントロール目標は6mg/dlとするのが妥当であるという申し合わせ(コンセンサス)がまとまりました(表1)。

 学会では、この指針は日本の医師すべての知るべき痛風の常識を示したものと考えられています。今後は「尿酸値が高め」という人々も痛みの発作の有無とは関係なく、高尿酸血症・痛風として診断され、この新しい基準で治療の対象にもなることが普及すると思われます。

尿酸とは

 尿酸は体内の新陳代謝の結果としてできるいわゆる老廃物です。尿酸のもととなる物質には内因性のもの(1や2)と食事由来のもの(3)があります。

  1. 遺伝情報の担い手であるDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)
  2. 化学的エネルギーの担い手であるATP(アデノシン三リン酸)などのプリンヌクレオチド
  3. 肉類、魚類、臓物などに多く含まれるプリン体
 核酸やプリンヌクレオチドは分解されてプリン体になり、さらに分解されて最終的に尿酸になります。

 尿酸は体内で一日約700mgが作られて体内にプールされますが、腎臓から尿中に排泄されるなどして一日ほぼ同量が体外へ出ますので、血液中では一定の状態に保たれていると考えられています。

 ですから、血液中で尿酸が増えすぎるのには三つの型が考えられます。

  1. 尿酸を作り過ぎる尿酸産生過剰型
  2. 腎臓の尿酸を排泄する能力が低下する尿酸排泄低下型
  3. それら1と2の混合型
 現在、通院しているわが国の痛風患者は50万人前後といわれていますが、排泄低下型が最も多く、60から70%とされています。

高尿酸血症と痛風

 お寺の屋根瓦にハトのふんが白くこびり付いて雨でも洗い流されないのをよく見かけます。あの白いものが尿酸です。尿酸は水に溶けにくい物質なのです。その溶けにくい尿酸が血液中で増えすぎると体内のいろいろの場所に沈着し、急性の炎症から激烈な痛みの発作を引き起こします。足の親指の痛風関節炎はその代表的なものとしてよく知られています。また、尿路には結石ができたりして腎機能が障害されます。治療しないまま放置すると、後期には膝や手指の関節にも痛みが出たり、腎不全の状態に陥ったりします。

 さらに、最近では高尿酸血症が、高血圧や高脂血症と並んで心筋梗塞などの虚血性心疾患の危険度を高める危険因子の一つとして挙げられています。危険因子としての高尿酸血症は、ただ尿酸値が高いことだけが問題で、痛風発作の有無とは関係ありません。このような痛風と診断されていない人々は、通院する患者の数倍いると推測されています。この事実が学会の「高尿酸血症・痛風の治療指針」作りの契機の一つになったともいえます。

 痛風の治療は急性関節炎の際はそれに対処するとして、発作の間欠期ではまず高尿酸血症を引き起こす三つの型に分類する検査の実施から始まります。型の判定がついたら、その型に合わせて薬を服用します。腎臓の機能低下にともなって起きる尿酸排泄低下型には尿酸排泄剤、尿酸を作りすぎる産生過剰型には尿酸生成阻害剤を用います。最近の強力な血中尿酸値低下作用をもついろいろの薬の開発はめざましいものがあります。現在の痛風の治療は薬物による尿酸コントロールが主体となりますが、それは他の解説に譲り、ここでは尿酸値を上げるライフスタイルとその対処を取り上げます。

尿酸値を高くしないために

 痛風は二千年以上前から知られていた病気です。歴史上の有名な人々が痛風を患っていて、以前は帝王の病気、ぜいたく病とも言われました。現在ではもうそういう認識はありませんが、痛風患者の90%以上は男性で、特に中年以降の働き盛りの世代に多いということからそこに共通するライフスタイルが思い浮かびます。過食や運動不足からくる肥満、大量飲酒などは特に尿酸値を上げるものと考えられます。また、激しい運動や脱水状態も痛風発作の発症と関係します。

 痛風の食事療法として、有効な尿酸コントロール剤の出現する以前は厳しい低プリン食が指示されたかも知れません。しかし、尿酸は主に体内にある物質をもとにして作られます。食事から入るプリン体の量は通常の家庭食で一日200mg位とされていますので、現在ではあまり厳密な制限をする必要はないとされています。といっても、肉類、魚類や臓物などプリン体を多く含む食品はほどほどします。被験者にプリン体を投与した研究では一旦体内に取り込まれたプリン体は速やかに尿酸となり、なかなか排泄されないで腎臓に大きな負荷となることが報告されています。

 現在の痛風の食事療法の基本は、肥満の解消であり、適正体重を維持することです。肥満は脂肪が蓄積して体重が増えることです。皮下脂肪ではなく臓器周辺の内臓脂肪の蓄積(いわゆるビール腹になるような肥満です)が特に尿酸値の上昇と関係があるという研究があります。各栄養素のバランスのとれた、適切なエネルギー量の食事で減量を図れば尿酸値はかなり低下してくることも事実です。 また、尿酸は酸性溶液中で溶解度が極端に低くなります。尿路で尿酸が結石を作らないようにするために、野菜や海草などを積極的に取って尿をアルカリ性に傾けることも食生活上大切です。同時に十分な水分摂取で尿量を多くすることも重要です。特に夏のスポーツなどで汗をかいて体が脱水状態になると尿量が減って尿酸がうまく排泄されなくなることもあるので要注意です。

 アルコールはプリン体の分解を促進して、血清尿酸値を上げるばかりではなく、大量飲めば腎臓からの尿酸の排泄を低下させます。さらに、ビールにはプリン体が極めて多量含まれています。ですから、種類を問わずアルコールは極力控えるべきでしょう。ビールなら中瓶一本、日本酒なら一合、ウイスキーならダブル一杯程度が一日の目安となるでしょう。

 激しい運動は筋肉内でプリン体の分解を促進し、血清尿酸値を上げる可能性があります。スポーツ選手に時として痛風を患う人がいます。尿酸値を下げるために必要なのは軽い運動をゆっくりやることです。このような運動は肥満を解消します。ジョギング、ウォーキング、水泳などを「ニコニコペース」で続けることが奬められています。

おわりに

 ところで、ネズミには痛風がありません。霊長類以外の哺乳類には尿酸をさらに分解してアラントインというもっと水に溶け易い物質にする酵素があるからです。事実、遺伝子工学の技術でネズミのこの酵素の遺伝子を壊すと(ノックアウトするといいます)ネズミも高尿酸血症になり、痛風腎を引き起こすことが最近の研究で証明されました。人間は進化の過程でこの酵素を失って、痛風という病気を引き受けることになりましたが、現在ではそれをコントロールすることが可能です。高めの尿酸値を早期に発見するためにも検診や人間ドックなどの機会を利用することが大切です。

 また、ある追跡調査では血清尿酸値が7mg/dlを超えた時点から3年間で9mg/dlに到達したいくつかの例が報告されています。その時の尿酸値の上昇は飲酒量のマーカーであるγーGTPの変化と並行していました。その時点では痛風の症状がなくても高めの尿酸値を放置せず、適切に、かつ慎重に対応することが肝要です。
(応用栄養学研究部 部長代理)



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