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研究紹介:運動による糖代謝促進へのPGC-1αの関与

作・三浦 進司:2003/12/15


 運動をある程度継続して行った骨格筋では、ミ トコンドリアと呼ばれる細胞内の小器官の数が増 加して脂肪の燃焼が盛んになり、血液中のブドウ 糖(血糖)を骨格筋に取り込む糖輸送体GLUT4 が増加することにより糖の代謝が活発になります。 運動を心がけることにより、糖尿病などの生活習 慣病になりにくくなりますが、骨格筋がこのよう な性質を獲得することが、生活習慣病を予防する 一つの理由として考えられています。

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 最近、PGC−1αという遺伝子の転写を制御する 物質が発見され、ミトコンドリアの合成を促進す る働きを有することや、骨格筋培養細胞での実験 ではGLUT4を増加させることが報告されました。 PGC−1αは骨格筋にも存在し、運動を行うとその 量が増えることを当研究所の健康増進部にて明ら かにしております。それらの結果から、運動によっ てPGC−1α量が増加することが骨格筋の性質の変 化に結びつくものと考えられました。
 本研究では、人工的に骨格筋だけにPGC−1α量 を大量に増やしたマウス(トランスジェニックマ ウス)を作成し、運動によってミトコンドリアや GLUT4が増加するのは、PGC−1αの増加によって 説明できるのかを、生体内で検証しました(図1)。

 PGC−1αトランスジェニックマウスでは、ミト コンドリアの増加と、筋肉の赤化(マラソンなど の長時間の運動に適した筋肉)が認められましたが、 予想に反してGLUT4の発現量は低下していました。 それに伴い、インスリン抵抗性注)が認められました。 これらの結果から人工的に骨格筋にPGC−1α量を 長時間、大量に増やすと、ミトコンドリアは増加 しますが、GLUT4の発現量は増加せず、糖の代 謝を活発にはしないことがわかりました(図2)。

 今後、PGC−1αを標的にした糖尿病治療薬など が開発されてくるかもしれませんが、PGC−1αを 大量に増やし続けるとインスリン抵抗性を引き起 こす可能性があり、その副作用には十分注意する 必要があると考えられます。また、PGC−1α以外 にGLUT4の量を増やす物質の発見が望まれます。

注)インスリン抵抗性:食後、血糖値が上がると 膵臓からインスリンが血液中に分泌されて骨格筋 などに働きます。骨格筋はインスリンを受け取る とGLUT4を用いて血糖を取り込み、血糖値を下 げます。インスリン抵抗性になると、骨格筋がイ ンスリンを受け取ってもGLUT4に情報が伝わらず、 血糖を取り込みにくくなります。その結果、イン スリンによる血糖調節機能が効かなくなり、血糖 値が下がりにくく、高値を示しがちになります。 過食(特に脂肪の多い食事)、運動不足などがイ ンスリン抵抗性を引き起こす原因として考えられ ています。生活習慣病のひとつである2型糖尿病 の前兆です。

出典:Overexpression of peroxisome proliferator-activated receptorγcoactivator-1α(PGC-1α) down-regulates GLUT4 mRNA in skeletal muscles. Miura S, Kai Y, Ono M, Ezaki O: J Biol Chem. : 278(33): 31385-31390, 2003.



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