最近、PGC−1αという遺伝子の転写を制御する
物質が発見され、ミトコンドリアの合成を促進す
る働きを有することや、骨格筋培養細胞での実験
ではGLUT4を増加させることが報告されました。
PGC−1αは骨格筋にも存在し、運動を行うとその
量が増えることを当研究所の健康増進部にて明ら
かにしております。それらの結果から、運動によっ
てPGC−1α量が増加することが骨格筋の性質の変
化に結びつくものと考えられました。
本研究では、人工的に骨格筋だけにPGC−1α量
を大量に増やしたマウス(トランスジェニックマ
ウス)を作成し、運動によってミトコンドリアや
GLUT4が増加するのは、PGC−1αの増加によって
説明できるのかを、生体内で検証しました(図1)。
PGC−1αトランスジェニックマウスでは、ミト
コンドリアの増加と、筋肉の赤化(マラソンなど
の長時間の運動に適した筋肉)が認められましたが、
予想に反してGLUT4の発現量は低下していました。
それに伴い、インスリン抵抗性注)が認められました。
これらの結果から人工的に骨格筋にPGC−1α量を
長時間、大量に増やすと、ミトコンドリアは増加
しますが、GLUT4の発現量は増加せず、糖の代
謝を活発にはしないことがわかりました(図2)。
今後、PGC−1αを標的にした糖尿病治療薬など
が開発されてくるかもしれませんが、PGC−1αを
大量に増やし続けるとインスリン抵抗性を引き起
こす可能性があり、その副作用には十分注意する
必要があると考えられます。また、PGC−1α以外
にGLUT4の量を増やす物質の発見が望まれます。
注)インスリン抵抗性:食後、血糖値が上がると
膵臓からインスリンが血液中に分泌されて骨格筋
などに働きます。骨格筋はインスリンを受け取る
とGLUT4を用いて血糖を取り込み、血糖値を下
げます。インスリン抵抗性になると、骨格筋がイ
ンスリンを受け取ってもGLUT4に情報が伝わらず、
血糖を取り込みにくくなります。その結果、イン
スリンによる血糖調節機能が効かなくなり、血糖
値が下がりにくく、高値を示しがちになります。
過食(特に脂肪の多い食事)、運動不足などがイ
ンスリン抵抗性を引き起こす原因として考えられ
ています。生活習慣病のひとつである2型糖尿病
の前兆です。
出典:Overexpression of peroxisome proliferator-activated receptorγcoactivator-1α(PGC-1α) down-regulates GLUT4 mRNA in skeletal muscles. Miura S, Kai Y, Ono M, Ezaki O: J Biol Chem. : 278(33):
31385-31390, 2003.