Vバイオ医薬品の品質管理、確認申請、安全性

これまでの記載は低分子化合物などの化学合成品に関するものでしたが、ここではバイオ医薬品などを申請する際に考慮すべき事項について説明します。バイオ医薬品の範囲には、組換えDNA技術や細胞培養技術を用いて生産される医薬品の他、先端的技術を応用して創製される遺伝子治療用医薬品、細胞・組織加工医薬品及び医療機器(以下、細胞・組織加工医薬品等)、遺伝子組換え動物により生産される医薬品なども含まれます。さらに、最近注目されている抗体医薬、培養皮膚・軟骨など再生医療用の医薬品、医療機器などもこの範疇に含めて説明します。また、原材料としてヒトまたは動物由来成分を用いて生産される生物由来製品なども取り上げます。なお、最近注目されている核酸医薬は、有効成分の構造、製造方法、機能特性から見てバイオ医薬品の規制を受けるもの・受けないものがありますので、開発にあたっては早い時期から規制当局と相談をされることをお勧めします。

これらのバイオ医薬品は、生物(微生物、動物細胞、動物個体など)の生命現象や生体機能を利用して生産されることや、原材料に生物起源のものを使用していることを特徴としています。そのため医薬品の製造管理や品質においては、化学合成品とは異なった対応が求められることになります。以下にバイオ医薬品の製造と品質の面からみた管理方法、審査・承認のための規制、その他の留意事項について説明します。

1.バイオ医薬品の製造側面

医薬品を製造するための技術管理の必須要件には「薬局等構造設備規則の一部を改正する省令」(H16.12.24省令 180)及び「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」いわゆるGMP省令(H16.12.24省令179)がありますが、バイオ医薬品の場合は、その品質が製造プロセスに依存する部分が多く、品質やプロセスの同等性の確保が求められます。そのため、化学合成品のGMPに付加した内容のGMPが適用されます。国外でも同様にWHO(世界保健機構)の生物製剤のGMPや米国FDA(食品医薬品局)の規定があります(巻末リンク参照)。

さらにICHで合意された原薬GMPの中にも、バイオ医薬品に関連した規定が含まれています。バイオ医薬品の製造上の特徴として、(1)セルバンク(細胞基材)システム、(2)細胞培養プロセスによる目的物質の生産、(3)培養物からの単離・精製があります。このうちセルバンクは、遺伝子組換え技術で目的物質を生産するための細胞基材であり、実際の製造に使用されるワーキングセルバンクの構築・管理が製造上の重要な項目といえます。これらの製造プロセスはGMPで厳格に管理されることになります。主な管理項目として、製造方法の変更管理(スケールアップを含む)、原材料の管理(トレーサビリティを含む)、製品管理(トレーサビリティを含む)、製造管理(微生物、ウイルス管理など)、機器・設備の管理(汚染防止など)、動物の飼育・管理などがあります。

2.バイオ医薬品の品質側面

バイオ医薬品の品質を保証するには、製品に関する品質試験を行うだけでは十分でなく、原材料や製造プロセスに起因する影響も考慮しなければなりません。主な項目には次のようなものがあります:1)セルバンクの管理とバンク更新時の同一性の確認、2)最終製品の試験、規格適合性、3)製造工程の恒常性の観点からの物理的化学的性状の一致性、再現性の確認、4)不純物(目的物質に由来する不純物や、ウイルス・細菌・核酸などの原材料や製造工程に由来する不純物など)の除去とバリデーション。バイオ医薬品の多くは、有効成分が変化しやすいタンパク質であるため、その構造や品質については、物理的化学的、免疫学的、生物学的方法などを用いて徹底的な解析が求められます。また、有効成分や不純物がヒトに何らかの免疫応答を引き起こす可能性についても留意する必要があります。さらに、ヒトや動物の細胞を用いて生産される遺伝子組換え医薬品や細胞・組織加工医薬品等においては、特にウイルスなど感染症の発症リスク面からみた安全性の確保が重要です。考慮すべき事項として、原材料からの汚染源、セルバンクの選択、混入ウイルスの有無と混入の可能性のあるウイルスの詳細な情報取得、製造プロセスにおけるウイルス不活化工程の導入、ウイルスクリアランス試験の実施とバリデーション、最終製品のウイルス評価などがあります。

3.バイオ医薬品の規制

規制に関しては、化学合成品に求められる基準を遵守しつつ、バイオ医薬品の製造・品質特性に応じた規制が上乗せされることになります。以下にバイオ医薬品に対する規制について、種類別に(1)遺伝子組換え医薬品(単純又は複合タンパク質性医薬品)、(2)細胞・組織加工医薬品等、及び(3)遺伝子治療用医薬品に係わる規制、並びに(4)カルタヘナ法に係わる規制、の4つについて解説します。

(1)遺伝子組換え医薬品(単純又は複合タンパク質性医薬品)に係る規制
遺伝子組換え医薬品の製造には、CHO細胞、BHK細胞等に目的の遺伝子配列が導入された細胞基材が用いられています。この細胞基材の作製の際に考慮すべき点(Q5B,Q5D)、原薬及び製剤の規格及び試験方法の設定の際に考慮すべき点(Q6B)や、安定性試験の際の考え方(Q5C)についてはICHガイドライン(表3)があります。また、製造工程のウイルス安全性評価の考え方も示されています(Q5A)。さらに、遺伝子組換え製造工程を変更する際の同等性/同質性評価についても示されています(Q5E)。
近年、国内外で注目されているバイオ後続品(EUではBiosimilar、米国ではFollow-on biologics)については、承認申請の際の留意点は、表2-1 1)、2)及び4)、販売名については表2-1, 3)の通知に記載されています。また、表2-1 2)の通知では明確にされていない点については、表2-1, 5)の事務連絡に記載されています。

(2)細胞・組織加工医薬品等に係る規制
再生医療・細胞治療分野の製品は、ヒト又は動物由来の細胞・組織を加工した医薬品、医療機器(以下「細胞・組織加工医薬品等」)として、通常の医薬品・医療機器に上乗せの規制がかかっており、治験を開始する前(初回治験届の前)に確認申請を行うこととされています。確認申請制度は、細胞・組織加工医薬品等は新規性が高いため、過去の使用経験・情報の蓄積が少なく、リスクの予測が難しいこと、また、ヒトや動物由来の細胞・組織を用いることから感染性物質混入のリスクが高いこと等の特徴があるため、治験においてヒトに投与される前に品質及び安全性に問題ないことを確認する必要があることから導入されました。確認申請制度及び確認申請の際に提出する資料については表2-2. 1)〜3)の通知に記載されています。厚生労働省に確認申請し、総合機構の審査を受け、厚生労働大臣の確認が得られたのちは、通常の医薬品・医療機器と同様に、治験届の提出、治験の実施、製造販売承認申請と進みます。
ヒト又は動物の細胞・組織から構成された製品については、その取扱い及び使用に関する基本的な考え方が表2-2. 4)の別添1に示されており、またヒト由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関しては、自己由来、同種由来製品に対してそれぞれ指針が発出されており(表2-2. 5)及び6))、またこれらの指針に係るQ&Aにおいて、指針の内容がより分かりやすく説明されています(表2-2. 7)及び8))。また、細胞・組織加工医薬品等は通常の医薬品・医療機器と同様にGMP省令、「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」いわゆるQMS省令(H16.12.17省令169)が適用されますが、ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等に関しては、その特性を踏まえた製造管理及び品質管理の考え方や留意点等が表2-2. 9)にまとめられています。

(3)遺伝子治療用医薬品に係る規制
遺伝子治療用医薬品についても、前述の細胞・組織加工医薬品と同様に、品質及び安全性に関する指針がまとめられており、品質や非臨床の検討を行った上で、厚生労働省に確認申請し、総合機構の審査を受けた後、治験開始前までに厚生労働大臣の確認を受けることが必要とされています(表2-3. 1))。また、ICHにおいてガイドラインではありませんが、最近、3種類の見解(ICH見解)が出されています(表2-3. 2)-4))。

(4)カルタヘナ法に関連する規制
遺伝子組換え生物の使用に関わる規制として、カルタヘナ法があります。遺伝子組換え医薬品の製造、輸送、保管などに係る閉鎖系での使用(第二種使用等)と、遺伝子組換え生物そのものを治験に用いたり、遺伝子組換え植物を医薬品製造等の目的で栽培する場合などに係る開放系での使用(第一種使用等)に分類されます。既に当該遺伝子組換え生物について、封じ込め措置や規程等が定められており、それに従う場合を除き、いずれの場合も封じ込め措置や使用の規程等に関して、総合機構と申請資料の整備について相談した後、厚生労働省に申請し、総合機構の審査を経て、製造開始前又は治験開始前までに厚生労働大臣(及び環境大臣(第一種使用等のみ))の確認又は承認を受けることが必要です(表2-4. 1)〜3))。

表2:参考にするべき通知等

表2-1 バイオ後続品に関する通知

通知等の名称 通知発番
1)バイオ後続品の承認申請について H21.3.4
薬食発0304004
2)バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針 H21.3.4
薬食審査発0304007
3)バイオ後続品に係る一般的名称及び販売名の取扱いについて H21.3.4
薬食審査発0304011
4)バイオ後続品の承認申請に際し留意すべき事項について H21.3.4
薬食審査発0304015
5)バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針に関する質疑応答集(Q&A)について(平成21年7月21日 厚生労働省医薬食品局審査管理課) 事務連絡

表2-2. 細胞組織利用製品に関する通知等

通知等の名称 通知発番
1)細胞・組織を利用した医療用具又は医薬品の品質及び安全性の確保について H11.7.30
医薬発906
2)細胞・組織を利用した医薬品等の品質及び安全性の確保に係る手続の変更について H19.3.30
薬食発0330030
3)「細胞・組織を利用した医療用具又は医薬品の品質及び安全性の確保について」の一部改正について H21.5.18
医食発0518002
4)ヒト又は動物由来成分を原料として製造される医薬品等の品質及び安全性確保について H19.3.30
医薬発1314
5)ヒト(自己)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保について H20.2.8
薬食発0208003
6)ヒト(同種)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保について H20.9.12
薬食発0912006
7)ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針に係るQ&Aについて(平成20年3月12日 厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室通知) 事務連絡
8)ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針に係るQ&Aについて(平成20年10月3日 厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室通知) 事務連絡
9)ヒト(自己)細胞・組織加工医薬品等の製造管理・品質管理の考え方について H20.3.27
薬食監麻発0327025

表2-3. 遺伝子治療用医薬品に係る通知等

通知等の名称 通知発番
1)遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保に関する指針について H7.11.15
薬発1062(一部改正:H14.3.29医薬発0329004、H16.12.28薬食発1228004)
2)ICH見解「生殖細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組込みリスクに対応するための基本的な考え方」(英語版:平成18年10月、日本語版:平成19年4月) 事務連絡
3)ICH見解「腫瘍溶解性ウイルス」(英語版:平成20年11月、日本語版:平成21年1月) 事務連絡
4)ICH見解「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」(英語版:平成21年6月) 事務連絡

表2-4. カルタヘナ法に関する通知等

通知等の名称 通知発番
1)遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律の施行について H16.2.19
薬食発0219008
2)遺伝子組換え微生物の使用等による医薬品等の製造における拡散防止措置等について H16.2.19
薬食発0219011
3)遺伝子組換え生物の使用等の規制による生物の多様性確保に関する法律の施行に伴う事務取扱い等について H16.3.19
薬食審査発0319001

4.ICH関連の品質ガイドライン

バイオ医薬品の品質に関しては、多くのものがICHガイドラインとして国内規制に取り込まれています(表3)。

表3 バイオ医薬品のICH品質ガイドライン

バイオ医薬品のICH品質ガイドライン

5.その他の留意事項

バイオ関連の製品には、その特性に応じた安全対策が講じられますが、ここでは、薬事法上の取り扱い、特に、医薬品と医療機器の区別や、原材料に起因する生物由来製品と特定生物由来製品の考え方について述べます。図3はその概念を図示したものです。

(1)医薬品と医療機器の区別

再生医療分野などでは、製品が医薬品に属するものなのか、医療機器として取り扱われるものなのか判断に迷う場合があります。一般的には、形状に関係なく生化学的機序により作用を示すもの、あるいは何らかの薬理作用により効果を発揮するものは医薬品に分類される可能性が高いと考えられます。一部の細胞治療薬などがその例です。これに対し、特定の形状を有し、物理的機序により作用を示すものや、組織を補填するものなどは医療機器として分類される可能性が高いと考えられます。例としては、培養皮膚や、培養軟骨などが挙げられます。医薬品と医療機器とでは、下記のように臨床試験の実施の基準や製造に関する管理基準(構造設備、製造管理・品質管理基準など)が異なるため、この区別はその後の開発方針に関係しますので、判断を行う厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課に、製品の本質や作用機序を明らかにした上で、早期に相談することをお勧めします。
すなわち、臨床試験については、医薬品ではGCP省令に、医療機器では医療機器GCP省令に従うこととなります。製造販売業許可要件としての基本的な構造設備に関しては、いずれも「薬局等構造設備規則の一部を改正する省令」に従うことになりますが、医薬品、医療機器の承認要件としては、前者がGMP省令に、後者がQMS省令に適合することが要求されます。

(2)生物由来製品と特定生物由来製品

バイオ医薬品には、ヒトその他の生物(植物を除く)に由来するものを原料又は材料として製造されるものが多くあります。このうち、製品による感染症の発生リスクがあるものは、生物由来製品に指定され、さらにその中でも、感染症の発生リスクが理論的にも経験的にも、より高いものは特定生物由来製品に指定されます(薬事法第2条第9項、第10項)。これらの定義や感染リスクに応じた分類、具体的な製品例は「ヒト又は動物由来成分を原料として製造される医薬品、医療機器、医薬部外品及び化粧品の取扱いについて」(H14.7.31医薬発0731010)及び「生物由来製品及び特定生物由来製品の指定並びに生物由来原料基準の制定等について」(H15.5.20医薬発0520001)に示されています。これらの製品では、原料基準の遵守、管理者の設置、記録の保管管理などが求められます。なお、生物由来の原材料を用いていても、現在の科学的知見において、感染症のリスクの蓋然性が極めて低いものについては、指定の対象から外されています。

具体的には次のようなものが含まれます。
1)製造工程による管理の内容(強アルカリ、高温等の過酷な処理条件)、又は投与経路(経口・経皮等)からみて、明らかに感染症についてのリスクの蓋然性が低いもの。
2)病原菌を使用せず、人・動物の血清等を製造工程に使用していないものであり、明らかに感染症についてのリスクの蓋然性が低いもの(大腸菌由来の遺伝子組換え製剤など)。
3)動物由来感染症の蓋然性の低い動物種を原料としたもの。
生物由来製品や、生物由来の原材料から製造される原料又は材料を製造工程に使用するすべての医薬品、医療機器等については、薬事法第42条の規定に基づき該当する原料又は材料の基準が「生物由来原料基準」として定められています。その中には、輸血用血液製剤総則、血漿分画製剤総則、人細胞組織製品原料基準、人尿由来原料基準、人由来原料基準、反芻動物由来原料基準、動物細胞組織製品原料基準、及び動物由来原料基準があります。
バイオ医薬品の添加剤や、培地等として製造工程によく使用されるウシ由来原料については、国内でのBSE(ウシ海綿状脳症)感染牛の発生や、米国での感染牛の確認のつど、ウシ等の由来原料を使用する医薬品、医療機器等に対する安全対策を強化するための通知が出されています。また、上に述べた反芻動物由来原料基準には、原材料に使用可能な反芻動物の原産国や、使用してはならない使用部位が規定されています。

バイオ製品(医薬品、医療機器を含む)の概念図(厚生労働省のホームページより引用)
図-3 バイオ製品(医薬品、医療機器を含む)の概念図
(厚生労働省のホームページより引用)


前のページへ
目次
次のページへ