概要
AIがあなたに届ける優しくて効率的な医療!
プログラムディレクター インタビュー
参考:SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)2020パンフレット
概要
超高齢社会における医療の質の確保、医療費増加の抑制、医療分野での国際的競争力の向上、医療従事者の負担軽減のために、医療機器等やIoT(internet of things)機器を活用して医療ビッグデータを構築する。さらに、AI技術を活用し、医療現場での負担軽減につながる、診断補助・教育やコミュニケーション支援等を目指す。
研究開発テーマ
以下のように、サブテーマA~Eに分け、各々連携しながらAIホスピタルシステムの開発を行う。
- サブテーマA:セキュリティの高い医療情報データベースの構築とそれらを利用した医療有用情報の抽出、解析技術等の開発、自然言語処理のための方言も含めた医療用語集の作成とそれらの救急現場での応用、治療薬・ワクチンの開発に資するデータ連携基盤の構築
個人情報保護への配慮やサイバー攻撃防御の対応等を十分に織り込み、マルチ言語対応も備えた、臨床、画像、病理、生化学検査等の情報などからなる医療の構築を図る。また、自然言語処理のための語彙集や類語辞典を作成して利活用すると共に、新型コロナウイルス感染症の研究開発に関するデータ連携基盤の構築にも取り組む。 - サブテーマB:AIを用いた診療時記録の自動文書化、インフォームドコンセント時のAIによる双方向のコミュニケーションシステムの開発及びAIを活用した診断・治療支援システムの開発、AIホスピタルを実装するためのAIプラットフォームの構築、人工知能アバターを利用した新型コロナウイルス感染症の相談補助システムの開発
診療時記録作成作業やインフォームドコンセント等の作成にAI 技術等を応用することによって、患者の満足度向上や医療従事者の負担軽減を目指す。また、診断から最適治療の選択に過程を支援する医療用AIプラットフォームの開発を行い自律的な運用体制を確立する。さらに、人工知能アバターによる新型コロナウイルス感染症の相談補助システムを開発する。 - サブテーマC:患者の負担軽減・がん等の再発の超早期診断につながるAI 技術を応用した血液等の超精密検査を中心とする、患者生体情報等に基づくAI技術を応用した診断、モニタリング及び治療(治療薬を含む)選択等支援システムの開発
がん等の疾患の発見や再発・再燃の超早期診断に有用で、患者負荷及び負担軽減するためのAI技術を応用した血液等の超精密検査(検体輸送や検査結果の質の確保を含む)を開発する。また、軟性内視鏡の自動挿入法の開発も行う。さらに、AI技術とビッグデータを利活用したモニタリングシステムの構築と医療機器の開発にも取り組む。 - サブテーマD:医療現場におけるAIホスピタル機能の実装に基づく実証試験による研究評価
既存の診療のためのICT(information and communication technology)技術に加え、サブテーマA~Cにおいて研究開発された技術、センサー機器等の病院実装を行い、AI技術システムによる診断・判断システムの学習を進め、医療現場にて、より利便性の高いシステムの構築を図る。 - サブテーマE:AIホスピタルの研究開発に係る知財管理等、システムの一般普及のための技術標準化・Open/Close戦略、官民学連携のためのマッチング等に関する対応
サブテーマA~Dにおいて開発された技術を医療現場に普及させるため、医療情報の電子情報化及び活用に伴う種々の社会的な課題(コスト、知的財産の課題など)を対象に検討を行い、課題克服に取り組む。
出口戦略
出口志向の研究開発を推進する。
- AIホスピタルパッケージの実用化:
基幹病院から、かかりつけ医にまで利用可能な形とする。 - AI医療機器の実用化:
AI医療機器等の開発は、臨床試験までをSIP事業で共同研究開発として実施し、製造販売承認/認証取得と販売は民間企業が行う。 - 患者との対話と医療現場の負担軽減を両立するAIシステムの実装化:
医療関係者が患者と向き合う時間を確保すると共に、患者への充分な説明を効率化する。 - AI技術を応用した血液等の超精密検査システムの医療現場での実装化:
SOP(標準操作手順書)等を確立し、全国どこに居ても高品質の検査を受けられるように技術を発展させる。
実施体制
本課題は、中村 祐輔プログラムディレクター(PD)の主導の下、宮野 悟サブPD(東京医科歯科大学特任教授、M&Dデータ科学センター長)、眞野 浩サブPD(エブリセンスジャパン(株)代表取締役)、辻井 潤一サブPD(産業技術総合研究所フェロー、産業技術総合研究所 人工知能研究センター長)、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)委員会、知財委員会、評価委員会、管理法人が支援し、各サブテーマが相互に連携する体制で運用する。
期待される成果
AIが医療をアシストする「AIホスピタル」を実用化し、パッケージとして確立することにより、大量の医療情報を治療に有効に活用することが可能となり、高度で先進的かつ最適化された医療サービスを均質に提供する体制が整備できる。これによって、個々人の遺伝的、身体的、生活的特性などの多様性を考慮した、適切かつ低侵襲の治療法・治療薬を提示することができる(最終的に患者が選択する)ようになる。
これは、健康寿命の延伸につながるだけでなく、治療効果の低い治療薬、治療法を回避することによる医療費抑制や、療養期間を短縮することによる労働人口の確保にも貢献する。同時に、本事業で開発する技術は、病院における医師・看護師等をはじめとする医療従事者の負担軽減の面でも有用であり、超高齢社会が進んでも安心・安全な医療を維持するための大変革につながる。
さらに、「AIホスピタル」実装の段階で獲得する新規技術は、我が国の医薬品・医療機器・医療情報産業の競争力強化に資するものとなると期待される。
計画全体の目標
- セキュリティの高いデータベースシステムの構築・医療有用情報抽出
医薬品・医療機器・医療情報産業の活性化 - 少なくとも10医療機関で、『AIホスピタルシステム』を導入
安全で精度が高く、患者さんがストレスフリーとなるモデル病院システムの運用開始 - AIを利用した遠隔画像・病理診断や自動大腸内視鏡検査の実装
- AIを活用した血液による超精密診断法の臨床現場への導入
がん分野での経済的効果として、治癒率の向上(5年生存率の10%向上)と年間数千億円の医療費削減 - AIによる音声を文章化するシステム(診察室での会話・看護記録)やインフォームドコンセント補助システムの運用による医療従事者の負担軽減
これまでに得られている成果
- 医療用辞書の作成(5.4万の医薬品・治療法を含む約42万語の辞書)と、これを利用した医療現場における会話・看護記録をテキスト化する実証実験の開始(診療情報記録入力負担が約30%減)
- データを秘密分散にて保管するシステムの運用を開始、およびそれらを利用した秘密計算方法の評価
- 救急医療時の医師のコマンドの音声入力化
- 医療用のAIプラットフォームのグランドデザインの策定、および普及・推進のために、日本医師会内に「AIホスピタル推進センター」を設置
- 血液を用いたリキッドバイオプシーによるがん診断に際する標準化(遠隔地からサンプルを輸送する際の標準化)とその評価
- 人工知能ロボットを利用した、PET検査時の医療従事者の被ばく軽減(約50%減)
- 病理診断画像のデジタル化と、電子カルテと2画面化したAI搭載統合がんデータベースを用いて、患者サマリー・AI予測モデル・簡易ノモグラムを表示するシステムを構築
- 人工知能アバターを活用した、新型コロナウイルス感染症の相談補助システム(プロトタイプ)の稼働