医薬基盤研究所(NIBIO)のお知らせ
宿主のRNAを介して免疫効果を増強する脂質アジュバント、エンドシン<経鼻インフルエンザワクチンで開発中のアジュバントの作用機序を解明>
2016年7月 4日
<研究の背景と経緯>
インフルエンザウイルスなどの呼吸器ウイルスは、感染すると全身性の免疫反応だけでなく、ウイルスが侵入してくる粘膜上においてウイルスに対する防御反応を発揮する粘膜免疫反応を誘導することが知られています。全身性の免疫反応は感染したウイルスの増殖を抑えることで重症化を抑えるのに対し、粘膜免疫反応は粘膜上でウイルスの感染自体を抑える働きをしており、両方の免疫反応を誘導することで、同じウイルスが再度侵入してきた時には強い防御反応を示します。
しかし現行のインフルエンザワクチンは、全身性の免疫反応しか誘導することが出来ず、粘膜免疫反応を誘導することが出来ません。そのため現行のインフルエンザワクチンの有効性を向上させるため、全身性の免疫反応だけでなく、粘膜免疫反応も誘導することが出来る経鼻ワクチンが注目され、開発が進められております。現在開発が進められている経鼻ワクチンの一つ、脂質アジュバントのEndocine注1は、インフルエンザワクチンと一緒に経鼻投与することで、全身性の免疫反応だけでなく、粘膜免疫反応を強く誘導するワクチンアジュバント注2です。その有効性・安全性は、マウスなどの動物だけでなく、ヒトでの臨床試験においても確認され、新規のインフルエンザワクチンとして期待されています。しかしながらその作用機序は分かっておらず、作用機序の解明が大きな課題となっていました。
<研究の内容>
我々はEndocineの作用機序を解明するため、研究を行いました。まず、アジュバントが誘導する免疫反応において中心的な役割を果たしている樹状細胞への影響をin vitroで調べたところ、Endocineは細胞傷害活性を持っていることが分かりました。そこで傷害を受けた細胞から放出される傷害関連分子パターン(DAMPs)がEndocineの作用機序に関わっている可能性を考えて解析を進めたところ、Endocineは投与局所で細胞を傷害し、DAMPsであるDNA及びRNAが一過的に放出されることが分かりました。さらに興味深いことに、DNA及びRNA認識機構の下流で働いているTbk1欠損マウスではEndocineのアジュバント効果が消失することが分かり、DAMPsとして放出されたDNA又はRNAがEndocineのアジュバント効果に重要な働きをしていることが明らかになりました。さらに1本鎖RNA分解酵素RNaseAをEndocineと一緒に投与すると、Endocineのアジュバント効果が減少することが分かり、DAMPsとして放出されたRNAがEndocineのアジュバント効果に重要な働きをしていることが示唆されました(参考図)。
<今後の展開>
近年、子宮頸がんワクチンのサーバリックスやガーダシルで、副作用と思われる報告が相次ぎ、問題となっています。しかしながら子宮頸がんワクチン(特にアジュバント)の作用機序が分からないことから、副作用との因果関係を突き止めることが困難になっています。現在、Endocineを含め、数多くのアジュバントの開発が進められているものの、その多くは作用機序が分かっていません。有効性と高い安全性を兼ね備えたワクチンを開発していくためには、作用機序を踏まえた解析を行っていくことが必要であり、今回の発見をEndocineの開発に役立てていきたいと思います。
<参考図>
<用語解説>
注1)Endocin
オレイン酸、モノオレインの混合物。スウェーデンのEurocine社が経鼻インフルエンザワクチンのアジュバントとして開発中。
注2)ワクチンアジュバント(免疫活性化分子)
抗原(ワクチン)の効果(免疫原性)を高める目的で抗原とともに投与される物質または因子の総称。自然免疫応答を活性化するものが多く、その中でも病原体由来のリポ多糖 (LPS)やDNAやRNAなどの核酸などが実験的によく使用されています。
<論文タイトル>
"RNA is an Adjuvanticity Mediator for the Lipid-Based Mucosal Adjuvant, Endocine"
(RNAは、脂質で構成された粘膜アジュバントEndocineのアジュバント活性の仲介物質である)
<論文掲載ジャーナル、掲載日時、リンク>
2016年7月4日 Scientific Report誌に掲載