2022.6.24
, EurekAlert より:
文字通り、乳がんはの転移は主として夜間におこるのではないか、というスイス・チューリッヒ工科大学(ETHチューリッヒ)などによる研究結果が『ネイチャー』誌に発表された。
世界保健機関(WHO)によると、乳がんは最も一般的ながんの形態の1つである。毎年、世界中で約230万人がこの病気にかかっている。医師が乳がんを十分に早期に発見した場合、患者は通常、治療によく反応する。けれども、がんがすでに転移している場合、事態ははるかに困難になる。転移は、循環がん細胞が元の腫瘍から離れ、血管を介して体内を移動し、他の臓器に新しい腫瘍を形成するときに発生する。
今日まで、がん研究は、腫瘍がいつ転移細胞を放出するかという問題にあまり注意を払っていなかった。研究者らは以前、腫瘍がそのような細胞を継続的に放出すると想定していた。だが、ETHチューリッヒ、バーゼル大学病院、バーゼル大学の研究チームによる新研究は、驚くべき結論に達したという。後に転移を形成する循環がん細胞は、主に罹患した個人の睡眠時に発生するのである。この研究結果は『ネイチャー』誌に発表された。
「人が眠っているとき、腫瘍は目覚めます」と主任研究者でETHチューリッヒのニコラ・アセト分子腫瘍学教授は述べている。30人の女性がん患者とマウスモデルを含む彼らの研究から、研究チームは、生物が眠っているとき、腫瘍がより多くの循環細胞を生成することを発見した。夜間に腫瘍を離れる細胞はまた、日中に腫瘍を離れる循環細胞と比較して、より迅速に分裂し、したがって転移を形成する可能性が高くなる。
「私たちの研究は、元の腫瘍からの循環がん細胞の離脱が、昼と夜のリズムを決定するメラトニンなどのホルモンによって制御されていることを示しています」と、研究の筆頭著者であり、ETHチューリッヒのゾーイ・ディアマントポロー博士研究員は述べている。
さらに本研究では、診断のために腫瘍または血液サンプルが採取される時間が、腫瘍学者の所見に影響を与える可能性があることを示している。研究チームを最初に正しい軌道に乗せたのは、これらの線に沿った偶然の発見だったという。「共同研究者の何人かは早朝にまたは夜遅くに研究をします。またある者は、まったく一般的ではない時間に血液を分析するのです」とアセト教授は言って微笑んだ。科学者らは、1日のさまざまな時間に採取されたサンプルの循環がん細胞のレベルが非常に異なることに驚いたのだという。
もう1つの手がかりは、ヒトと比較してマウスの血液の単位あたりに見つかったがん細胞の数が驚くほど多いことだった。その理由は、マウスは夜行性の動物として日中眠り、科学者はほとんどのサンプルをその時間帯に収集するためだった。
「私たちの見解では、これらの調査結果は、医療専門家が生検を実施する時間を体系的に記録する必要があることを示している可能性があります」とアセト教授は言う。「それはデータを真に比較可能にするために役立つかもしれません。」
研究チームの次のステップは、治療を最適化するためにこれらの発見を既存のがん治療にどのように組み込むことができるかを理解することだという。患者を対象としたさらなる研究の一環として、アセト教授は、さまざまな種類のがんが乳がんと同様に振る舞うのかどうか、および既存の治療法をより成功させる特定の時間帯が存在するかどうかを調査したいと考えているとのことである。
出典は『ネイチャー』。 (論文要旨)
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