2022.6.3
, EurekAlert より:
高脂肪食及び規制されない運動パフォーマンス促進剤が細胞核受容体を活性化し、膵臓の前がん病変の膵臓がんへの進行を促進するかもしれない、という米国ミシガン大学からの研究報告。
膵管がん(Pancreatic ductal adenocarcinoma)は、発生率が上昇している非常に致命的ながんであり、この疾患を予防および治療するための戦略が緊急に必要とされている。膵臓がんのほとんどの症例は、膵臓上皮内腫瘍(pancreatic intraepithelial neoplasia)と呼ばれる前がん病変から発生する。40歳以上の成人の約55-80%が、これらの低悪性度の前がん性無症候性膵臓病変を持っていると推定されている。
研究チームによると、マウスおよびヒトの膵臓の前がん性病変は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPARδ)を多く含んでいる。PPARδは、脂質代謝やがん形成などの生物学的プロセスに影響を与える幅広い重要な遺伝子の発現を調節する。PPARδの活性化は、前がん病変の膵臓がんへの進行を劇的に加速する。
PPARδの活性化は、天然および合成の両方の特定のリガンドへの過剰な曝露と相関している。一部のリガンドは高脂肪食で自然に発生し、ヒトおよび動物モデルでの膵臓がんのリスク増加に関連している。高脂肪食には、PPARδの天然リガンドである脂肪酸が豊富に含まれている。
カルダリン(GW501516)のような他の合成のPPARδリガンドは、身体能力と持久力を高めることを目的とした運動サプリメントに含まれている。GW501516は元々、肥満や高脂血症などの治療を助けるために製薬企業によって開発された。GW501516および他の同様の医療用の強力なPPARδアゴニストの医薬品開発は、それらの潜在的な前がん性副作用を考慮して、長い間中止されている。PPARδが大腸がんにどのように影響するかに関する研究は1999年にさかのぼり、製薬企業は合成PPARδリガンドの開発を中止したが、規制されていないインターネット上では依然としてカルダリンのような物質が販売されている。主に若者に販売されており、広告では筋肉の持久力を高めて脂肪を燃焼させるのに役立つと主張している。
「本研究の結果は、低悪性度であっても、無症候性の前がん病変を有する人々は、高脂肪食のような天然のPPARδ活性化因子またはカルダリンのような合成の活性化因子を摂取することによって膵臓がんを発症するリスクを高める可能性を示しています。PPARδの活性化を阻止する効果的な薬剤の将来の開発は、前がん病変の膵臓がんへの進行を防ぐための新しいアプローチである可能性があります。膵臓の前がん性病変のリスクが高い人には、高脂肪食への曝露を制限することも検討できます。しかし今のところ、これらの運動パフォーマンスを促進する合成PPARδ活性化物質の一般的な販売と使用が、最も差し迫った懸念を引き起こしています」と研究者はコメントしている。
出典は『ネイチャーコミュニケーション』。 (論文要旨)
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