2022.2.25
, EurekAlert より: 
内分泌かく乱物質の複雑な混合物が子供の脳の発達と言語習得に影響を与えるようだ、という伊ミラノ大学などによる疫学研究を細胞および動物モデルでの実験とリンクさせた国際共同研究報告。
研究チームは、彼らの斬新なアプローチで、妊娠中の女性の最大54パーセントが実験的に定義された懸念されるレベルの化学物質にさらされたことを示唆している。現在のリスク評価というものは、一度にひとつずつ化学物質に取り組んでいるが、今回の調査結果は、将来のリスク評価アプローチのために混合物を考慮する必要があることを示しているという。
個々の化学物質の暴露レベルが既存の制限値を下回っていたとしても、複雑な混合物中の同じ化学物質への暴露は依然としてヒトの健康に影響を与える可能性がある。けれども、既存のすべてのリスク評価によって確立された限界値は、一度にひとつずつ検査される化学物質に基づいている。
「この包括的なプロジェクトの独自性は、人口データを実験的研究とリンクさせ、この情報を使用して混合化学物質のリスク評価の新しい方法を開発したことです」とカールスタード大学のカール=グスタフ・ボルネハグ教授は述べている。
研究は3つのステップで実施された。
●最初に、スウェーデンの妊娠コホートSELMAで、妊婦の血液と尿に含まれる化合物の混合物が同定された。これは、30か月の子供の言語発達の遅延に関連していた。この重要な混合物には、多くのフタル酸エステル、ビスフェノールA、および過フッ素化化合物が含まれていた。 ●第2に、実験的研究により、自閉症および知的障害に関与する内分泌回路と遺伝子の調節を破壊するこの混合物の分子標的が明らかされた。 ●第3に、実験的研究の結果を使用して、この混合物のリスク評価の新しい原則を開発した。
「実験システムでの発見が疫学の部分で発見したことをよく反映していること、そしてその影響が人間の通常の曝露レベルで実証できたことは驚くべきことです」とウプサラ大学のジョエル・リュエッグ教授は述べている。
「人間の脳オルガノイド(人間の脳の発達の顕著な側面を再現する高度なinvitro培養)は、妊娠中に測定されたものと一致する段階で、人間の脳組織に対するこの混合物の分子効果を直接調査する機会を初めて提供しました。実験システムと計算方法により、この混合物は自閉症に関連する遺伝子の調節を妨害し(その特徴の1つは言語障害です)、ニューロンの分化を妨げ、神経組織の甲状腺ホルモン機能を変化させることがわかりました」と主任研究者でミラノ大学のジュゼッペ・テスタ教授は述べている。
「影響を受けた主要なホルモン経路の1つは甲状腺ホルモンでした。妊娠初期には脳の成長と発達のために最適なレベルの母体甲状腺ホルモンが必要です。したがって、出生前の曝露の関数として言語遅延との関連があることは驚くべきことではありません」とパリ自然史博物館のバーバラ・デメネックス教授は述べている。
このようにさまざまな科学的方法をリンクすることにより、研究チームは、SELMA研究に含まれる子供の54%が、出生前に神経発達に影響を与えると予測されるレベルを上回ったレベルで化学物質の混合物に曝露されたため、言語発達の遅延(30か月齢)のリスクがあることを示すことができた。個々の化学物質の現在の限界値を使用したのでは、このリスクは明らかにならなかったという。
出典は『サイエンス』。 (論文要旨)
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