2022.1.31
, EurekAlert より:
冬眠中の動物は、代謝を99%も落とすことで長い冬を乗り切るが、筋肉維持のためには腸内細菌の力を借りて窒素の「リサイクル」を行っていることが明らかに。この発見は、筋肉が萎縮する疾患の治療や長期の宇宙滞在の対策に役立つ可能性があるという。米ウィスコンシン大学の研究。
「動物が運動しない時間が長くなると、骨と筋肉が萎縮し始め、質量と機能が失われます」と、論文の著者の1人であるキャリー名誉教授は述べている。「食事からのたんぱく質を得られない場合、冬眠動物は筋肉が必要とするものを別の方法で手に入れなければなりません」。
アミノ酸やたんぱく質の重要な構成要素である窒素源の1つは、尿の成分である尿素としてすべての動物(人間を含む)の体内に蓄積される。これまでに、冬眠動物であるリスの消化管に移動した尿素は、腸内細菌によって分解される可能性があることがわかっていたが、尿素窒素の一部がリスの身体の材料になっているのかは不明だった。
そこで研究グループは、炭素と窒素の同位体を用いて追跡を可能にした尿素を、夏の活発な日、冬眠の初期、冬の終わりの3回、リスの血液に注入した。一部のリスには、腸内細菌の大部分を殺菌するために抗生物質を与えておいた。すると予想通り、同位体を含む窒素は、注入された尿素を分解する腸内細菌の一部によって放出されていた。
「私たちはその窒素を、主に(多くのたんぱく質を作っている)肝臓、そして一部は筋肉まで追跡しました」と、共同研究者のポーター氏。「同位体で目印を付けられた窒素分子が宿主から微生物叢に移動し、微生物によって使用可能な分子に変換されてから再び宿主に戻ることで、冬眠中の動物では本質的に「リサイクル」されると私たちは信じています。」
また、大部分の腸内細菌が抗生物質によって枯渇していたリスは、肝臓と筋肉において追跡可能な窒素が大幅に少なかった。そして、研究者がリスの腸で見つかった微生物のゲノム解析を行ったところ、冬眠期間の経過に伴い、ウレアーゼと呼ばれる酵素の生産に関連する遺伝子が増加したこがわかった。
「動物はウレアーゼを作りません。ウレアーゼを発現する微生物だけが尿素分子を分解して窒素を放出することができるのです」と、キャリー名誉教授。「適切な微生物が存在する限り、宿主の間の取引がなされます。冬眠が終わるまで、それぞれが窒素の一部を放出して乗り越えるのです。」
冬眠期間中の生存の鍵の解明により、低窒素食の食事法を実践している人や、筋肉を萎縮させる疾患のある人を助けることができるだろう。それはまた、人間が遠くの惑星に長い旅をすることを可能にするかもしれない。
出典は『サイエンス』。 (論文要旨)
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