2022.1.5
, EurekAlert より:
赤肉と心血管疾患リスクの間には腸内細菌の関与が指摘されているが、リスクを高める分子を産生する細菌は、長期の菜食主義者にはほとんど見られないことがわかったという。米・クリーブランド・クリニックの研究。
赤肉(牛や豚など哺乳類の肉)を多く摂取する食生活が、どのようにして心血管疾患のリスクを高めるかについての新しい洞察が明らかになった。
先行研究で、腸内細菌が赤身の肉やその他の動物性食品に豊富に含まれる特定の栄養素を消化するときに形成される副産物であるTMAO(トリメチルアミンN-オキシド)が心臓病や脳卒中のリスクを高めることが発見されている。
今回の調査結果は、赤肉が多い食事を摂取することで、腸内微生物が栄養素のカルニチンをアテローム性動脈硬化症および血栓促進分子であるTMAOに変換する2段階のプロセスの、より包括的な理解を提供するものだ。
「これらの新しい研究は、赤肉が豊富な食事と心臓病のリスクの上昇を結びつけるプロセスの、第2段階の原因となる腸内微生物遺伝子クラスターを特定しています」とクリーブランドクリニックのハーゼン博士は述べている。「この発見は、食事に関連する心血管疾患のリスクを予防・軽減するための新しい治療標的へ向かう手助けとなります」。
2018年に発表された研究でハーゼン博士は、カルニチンが2段階の2つの微生物プロセスによって腸内でTMAOに変換されることを示した。このプロセスの中間代謝物は、γBB(ガンマブチロベタイン)と呼ばれる分子だ。
ハーゼン博士によると、カルニチンをγBBに変換することができる微生物は様々ある一方で、TMAOの前駆体であるTMAに変換できるものはごくわずかだという。「雑食動物では、Emergencia timonensisは、γBBからTMA / TMAOへの変換に関与する主要なヒト腸内微生物です。逆に、長期の菜食主義者やビーガンは、腸内のこの微生物のレベルが非常に低いため、カルニチンをTMAOに変換する能力がほとんど、または全くありません」。
研究者らは、約3,000人の患者から収集されたサンプルと臨床データを使用して、空腹時血漿γBBレベルと疾患転帰との関係を研究した。すると、より高いγBBレベルは、心血管疾患および死亡、致命的でない心臓発作や脳卒中を含む主要な有害事象と関連していた。
そこでさらに研究者らは、マウスと患者から収集された糞便サンプル、および動脈損傷の前臨床モデルを研究した。その結果、E.timonensisを用いることで、カルニチンからTMAOへの変換が完了、TMAOレベルが上昇し、血栓のおそれが高まることを発見した。
続いてシーケンシング技術を使用して、関連する腸内微生物遺伝子クラスターを特定した。このクラスターは、新たに発見された機能に基づいて、gbu(ガンマブチロベタイン利用)遺伝子クラスターと名付けられ、6つの遺伝子が含まれている。すると、γBBの存在下で、gbu遺伝子クラスター内の6つの遺伝子すべての発現が増加していることや、4つの遺伝子(gbuA、gbuB、gbuC、およびgbuE)がγBBからTMA / TMAOへの変換に重要であることを発見した。
「患者のサンプルを研究することにより、gbuAの多さは、赤肉の多い食事や血漿TMAOレベルと有意に関連していることがわかりました」とハーゼン博士は述べている。「肉食をやめた人は、gbuAの腸内微生物レベルの低下を示し続けました。すなわちこれは、食生活を変えることが食事およびTMAOに関連する心血管疾患のリスクを減らすのに役立つ可能性があることを示唆しています。同様に、gbu遺伝子クラスターの役割は、潜在的な治療標的として調査する価値があるかもしれません」。
出典は『ネイチャー微生物学』。 (論文要旨)
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