2021.12.10
, EurekAlert より:
運動は脳に良い影響を及ぼすが、マラソンを実行しているマウスが享受している脳へのメリットは、カウチポテト派の仲間に移植することが可能なようだ、という米国スタンフォード大学の研究結果が『ネイチャー』に報告された。
研究者らは、たくさん運動をしている若い成体マウスからの血液が、同じ年齢の座りがちなマウスの脳に利益をもたらすことを示した。運動しているマウスの血中の単一のたんぱく質がその利益の主な原因であるようだという。
この発見は、運動量の少ない人の脳の炎症を抑えることで、神経変性疾患のリスクを低下させたり、進行を遅らせたりする治療への扉を開く可能性がある。
研究チームは、機能する、またはロックされたランニングホイールを3か月齢の実験用マウス(25歳のヒトと代謝的に同等)のケージに入れた。座りがちなマウスと比較して、マラソンマウスの脳内のニューロンや他の細胞の量を大幅に増やすには、1か月の安定したランニングで十分だった。
次に、研究チームはマラソンマウスと対照としての座りがちなカウチポテトマウスの双方から採血した。その後、3日ごとに、別のカウチポテトマウスに、マラソンまたはカウチポテトマウスからの血漿(無細胞画分)を注射した。各注射は、レシピエントマウスの総血液量の7%から8%に相当した(ヒトの約1/2から3/4パイント)。
「ランナーの血を得たマウスはより賢くなった」と研究者は述べている。2つの異なる記憶力テストで、マラソン血漿を注入されたマウスは、カウチポテト血漿を受け取った仲間よりも優れていた。
さらに、マラソン血漿を投与されたマウスは、カウチポテト血漿を投与されたマウスよりも、海馬に新しいニューロンを生じさせる細胞が多かった。
遺伝子の活性化レベルを比較したところ、マラソン血漿に反応して活性化レベルが変化した約2,000の遺伝子のうち、活性化レベルが最も顕著に変化した250の遺伝子は、炎症過程に最も強く関連していることが知られており、それらの活性化レベルの変化は、マラソン血漿を投与されたマウスの神経炎症が低いことを示唆していたという。
マラソンマウスの血液中のたんぱく質に目を向けると、研究チームは235の異なるたんぱく質を特定し、そのうち23はカウチポテトマウスと比較して、マラソンマウスではより少なく、26はより多かった。これらのたんぱく質のいくつかは、補体カスケードに関連していた。研究者は、補体系の異常な活性化に起因する慢性炎症は、多くの神経変性疾患の進行を加速させるように思われると述べている。
マラソンマウスの血漿から単一のたんぱく質であるクラステリンを除去すると、カウチポテトマウスの脳に対するその抗炎症効果が大幅に無効化された。研究チームが同様にテストした他のたんぱく質には効果がみられなかった。
補体カスケードの阻害剤であるクラステリンは、カウチポテトマウスの血液よりもマラソンマウスの血液に有意に多かった。
さらなる実験によって、クラステリンが脳内皮細胞、つまり脳の血管を裏打ちする細胞に豊富に存在する受容体に結合することが示された。これらの細胞はアルツハイマー病患者の大多数で炎症を起こしていると研究者は指摘している。彼の研究により、血液内皮細胞が循環血液からの化学的信号(炎症性シグナルを含む)を脳に伝達できることが示されている。
クラステリン自体は、脳の外に投与されたとしても、急性の全身性炎症またはアルツハイマー関連の慢性神経炎症のいずれかが誘発された実験用マウスの2つの異なる系統で脳の炎症を軽減することができた。
これとは別に、研究チームは、6か月の有酸素運動プログラムの終了時に、アルツハイマー病の前兆である軽度認知障害のある20人の退役軍人が血中のクラステリンレベルを上昇させたことを発見したという。
研究者は、クラステリンの脳内皮細胞上の受容体への結合を増強または模倣する薬剤が、アルツハイマー病などの神経炎症に関連する神経変性疾患の進行を遅らせるのに役立つ可能性があると推察している。
出典は『ネイチャー』。 (論文要旨)
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