2021.11.22
, EurekAlert より:
細胞の内部の働きに対する食事と薬との影響を比較すると、食事の方がはるかに強い影響力を持っていることがわかったという。豪・シドニー大学チャールズ・パーキンス・センターによる動物実験から。食事療法は薬よりも強力である可能性があることが示唆された。
今回、マウスで実施された研究で、栄養(総カロリーと主要栄養素のバランス)が、糖尿病の治療や老化の遅延のために一般的に使用される3つの薬よりも大きな影響を与えることが示された。
論文の上級著者であるシンプソン教授は、薬は栄養素と同じ生化学的経路を標的にすることもできるとし、これまで、食事を変更することなく代謝の健康と老化を改善することを目的とした薬を発見するため、多大な労力がかけられてきたと述べている。
「食事療法は強力な薬です。しかし現在、薬は、食事の構成による相互作用があるのか、そしてそれはどのようなものなのかを考慮せずに投与されています。
同じ栄養素シグナル伝達経路で作用するように設計されている場合でも、です。
人間がマウスと本質的に同じ栄養素シグナル伝達経路を共有していることを考えると、この研究は、代謝の健康を改善するためには薬を服用するよりも、食事を変えることの方が高い価値を得るだろうことを示唆しています」。
本研究では、たんぱく質、脂質、炭水化物のエネルギーバランス、3種の薬の投与量のレベルがそれぞれ異なる40グループものマウスを用いた、複雑な研究を設計した。これにより、1つの栄養素だけに焦点を合わせるのではなく、さまざまな栄養素の混合と相互作用が健康と病気にどのように影響するかを検討することができた。
結果は、「私たちが食べるもの」と「私たちがどのように老化するか」を結びつけるメカニズムの理解において、新たな洞察を提供するものとなった。
研究者らは、食事中のエネルギー摂取量と主要栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物)のバランスが肝臓に強い影響を与えていることを発見した。
代謝経路だけでなく、細胞の機能を制御する基本的なプロセスにも特に強力な影響を及ぼしていたのは、たんぱく質と総エネルギー摂取量だった。
たとえば、たんぱく質の摂取量は、エネルギーを生成する細胞の一部であるミトコンドリアの活動に影響を与えていた。たんぱく質とエネルギーの量は、細胞が適切に機能し、また新しい細胞を作るのを助けるために、細胞が遺伝子をどれだけ正確にそれぞれのたんぱく質へと変換するか、に影響するため、下流効果を生み出す。
これらの2つの基本的なプロセスは老化に関連している。
それに対し、薬は基本的にそれらを再形成するのではなく、主に食事に対する細胞の代謝反応を弱めるように作用していた。
しかし研究者らはまた、薬の生化学的効果と食事組成との間のいくつかのより具体的な相互作用を発見した。
ある抗加齢薬は、食事の脂質と炭水化物によって引き起こされる細胞の変化に大きな影響を及ぼしたが、がんや糖尿病の薬はいずれ、エネルギーを生成するミトコンドリアに対する食事たんぱく質の影響をブロックしていた。
筆頭著者のルクチュール教授は、研究は非常に複雑だったが、いくつかの異なる食事を比較するだけでなく、同時に多くの異なる食事を研究することがいかに重要であるかを示しているとし、次のように述べている。 「このアプローチは、食事、健康、生理学の間の相互作用の概要を知ることができる唯一の方法です。 私たちは皆、食べるものが健康に影響を与えることを知っていますが、この研究は、食物が私たちの細胞で動作するプロセスの多くに劇的に影響を与える方法を示しました。これにより、食事が健康と老化にどのように影響するかについての洞察が得られます」。
出典は『細胞代謝作用』。 (論文要旨)
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