2021.11.8
, EurekAlert より:
エネルギー産生に伴い生み出されたフリーラジカルを中和するため、細胞内のミトコンドリアに抗酸化物質を運び入れるたんぱく質が特定された。これにより、老化や神経変性といった酸化ストレスに関連する疾患の予防や治療に役立つ可能性がある。米・ロックフェラー大学の研究。
生命を維持するためのプロセスの多くは、同時に危険にさらるものでもある。たとえば、私たちの細胞内のエネルギー生成の化学反応は、フリーラジカル(他の分子から電子を"盗む"不安定な分子)も生成してしまう。フリーラジカルが過剰に生成されると、二次的な被害を引き起こし、がん、神経変性、心血管疾患などの機能不全をの引き金となる可能性がある。
細胞は、この問題を解決するため、フリーラジカルを中和する化合物である抗酸化物質を合成する。本研究では、体の主要な抗酸化物質であるグルタチオンを、フリーラジカルが大量に生成される、細胞のミトコンドリアに運ぶ重要な分子を特定した。 この発見は、 酸化ストレスとその有害な影響を調査するための新しい道を開いた。
「潜在的な運び屋が特定されたので、ミトコンドリアに入るグルタチオンの量を制御し、特にその発生源で酸化ストレスを研究することができます」とロックフェラー大学のビルソイ助教授は述べている。
酸化ストレスを回避するため、細胞は、エネルギー生成が起こるミトコンドリア内のフリーラジカルと抗酸化物質のレベルのバランスを適切にとる必要がある。グルタチオンはミトコンドリアの外、細胞基質で生成されるため、そもそもグルタチオンがこれらの小さな発電所にどのように輸送されるのかが科学者の関心事だった。
このプロセスに光を当てるために、研究チームは、グルタチオンのレベルに応じて細胞内のたんぱく質発現を観察し、その結果、機能がこれまで知られていなかったミトコンドリア膜のたんぱく質であるSLC25A39を見出した。そこでSLC25A39をブロックしたところ、細胞内の他の場所のレベルに影響を与えることなく、ミトコンドリア内のグルタチオンが減少することを発見した。また、他の実験では、マウスがSLC25A39なしでは生き残れないことが示された。このたんぱく質を欠損した動物では、赤血球はグルタチオンをミトコンドリアに供給することができず、酸化ストレスによってすぐに死んでしまう。
「運び屋」の同定は、老化や神経変性に関与するものを含む、酸化ストレスに関連するさまざまな疾患経路のより良い理解につながる可能性がある。「これらの状態は、ミトコンドリアへの抗酸化物質の輸送を刺激することによって潜在的に治療や予防ができる可能性があります」とビルソイ准教授は話している。
さらに、チームは現在、SLC25A39が腫瘍細胞に致命的な酸化ストレスを誘発するのを助けることにより、がんの創薬ターゲットとして有望であるかどうかを調査しているという。
(論文要旨)
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