2021.7.2
, EurekAlert より:
極端なカロリー制限食が、腸内細菌を変え、それは体重減少を助ける可能性があるが、重度の下痢や大腸炎につながる可能性のある病原菌クロストリディオデス・ディフィシルを増やす可能性もあるようだ、という米国カリフォルニア大学などからの研究報告。
液体で1日800kcalのみを摂取する、というこのダイエットは、肥満者の減量には効果的なアプローチかもしれないが、腸内細菌の関与という、予期していなかった問題が持ち上がってきたという。本研究は、『ネイチャー』誌に発表された。
「我々の結果は、体重管理におけるカロリーの役割は、単純にヒトがどれだけのエネルギーを摂取するよりはかなり複雑な問題であることを強調する」と主任研究者のピーター・ターンボー准教授は語っている。「我々が発見したのは、この超低カロリー食が、腸内細菌叢を、全体として減らすということも含めて深く変化させるということである。」
ターンボー准教授らの研究チームは、超低カロリー液体ダイエットを調べる臨床研究にテコ入れした。その臨床研究は、多くの参加者が減量に成功したもので、本研究の共著者でもあるドイツのシャリテ(ベルリン医科大学)のヨアヒム・シュプランガー教授によって主導されたものだった。
この超低カロリーダイエットと減量の間に関連する細菌を検討するために、シュプランガー教授らのチームは、80名の参加者から16週間の介入前後に糞便検体を採取してDNA配列を決定した。参加者は全員閉経後の女性だった。そしてターンボー准教授のチームと共にデータを解析し、糞便検体を無菌マウスに移植した。
マウスはそのまま通常の摂食を続けたが、驚いたことに、介入後の検体(腸内細菌)を移植された無菌マウスは体重が減少したという。
次のステップは、この減量に関与している細菌を同定することだった。そのために、ターンボーの研究室でポスドクをしていた本研究の筆頭著者であるジョーダン・ビザンツ博士が、当該マウスの腸内細菌のDNA解析を行い、対照マウスのそれと比較した。
その結果、ビザンツ博士は、減量したマウスの腸内細菌叢には、高レベルのC.ディフィシルが存在することを発見した。
腸内で、C.ディフィシルは、脂質代謝に関係している。最初、脂質は胆汁酸の助けを借りて消化される。これらの胆汁酸は、その後C.ディフィシル以外の細菌によって分解され、二次胆汁酸と呼ばれるものが生成する。通常の状態下では、これら細菌性の代謝産物がC.ディフィシルの成長を制御している。言葉を変えると、(特に脂肪を)少なく食べる人々は、胆汁の生成が減り、その結果二次胆汁酸も減って、C.ディフィシルのチェックにも影響を及ぼす。
「通常我々はC.ディフィシルの増加に続いて炎症や場合によっては大腸炎の増加を予測する」とターンボー准教授は言う。けれども実際には軽度の炎症しかみつからなかった。この炎症の欠如は、C.ディフィシルが重度の腸疾患を惹起する細菌性の能力から区別された代謝において重要な効果を有していることを示唆している。
同時に、ターンボー准教授は言う。「長期にわたってこのダイエットを継続した場合、それがC.ディフィシルの本格的な感染をもたらし、それが制御不能に陥って生命の危険に脅かされるのかどうかは全く定かでない。」
「はっきりさせておこう。我々はC.ディフィシルを新しい減量戦略として宣伝したいなどとはまったく考えていない」とターンボー准教授は言う。「我々は多くの生物学的に未知のもの抱えている。」
食事が誘導するC.ディフィシルの変化レベルがヒトでは有害であるかどうか、異なる食事選択によって他の細菌種とのバランスがどう影響されるか、を理解することが重要である、とターンボー准教授は言う。最終的にはそうした知見は臨床医に患者を健康な体重を保つための特殊な細菌の追加や除去を許すことにつながるだろう。
出典は『ネイチャー』。 (論文要旨)
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