2021.6.15
, EurekAlert より:
運動中に体が生成する分子である乳酸の抗うつ効果の背後にあるメカニズムを同定した、というスイス国立精神障害研究能力センターなどからの研究報告。
研究チームは最近、マウスを用いた動物実験で、運動中に身体によって生成される分子である乳酸が抗うつ効果を有することを実証した。
乳酸は、脳内ではニューロンの栄養として重要な役割を有していることが知られている。乳酸はまた新しいニューロンの生存と増殖の阻害に対抗するが、うつ病患者やストレスをかけた動物では失われる。今回、研究チームは、NADHがそのメカニズムに重要な成分であることを発見した。NADHには抗酸化性があり、乳酸代謝で生成する。
研究チームは、以前の調査で、スポーツの利点を説明するために、運動中に生成される分子である乳酸に焦点を当てていた。研究チームは、身体活動中に見られる用量に匹敵する用量でマウスに投与した場合の乳酸の抗うつ作用を観察した。研究チームによれば、「乳酸は特に無快感症を減少させる。これは、うつ病の前は楽しいと考えられていたすべての活動への興味や喜びを失うことを含む、うつ病の主な症状の1つである。」
研究チームは、うつ病に対抗するために乳酸が脳にどのように作用するかを深く掘り下げて理解しようと試みた。そこで、記憶とうつ病に関与する脳の領域である海馬における成人の神経新生に焦点を合わせた。
「成人の神経新生は、成人期に脳幹細胞から新しいニューロンを生成することを意味する用語である」とマーティン博士は説明する。「その中心的な目的はニューロンを置き換えることであるが、うつ病患者で損なわれることが知られている。それが一部の個人で観察される海馬の体積の減少に寄与している。」
研究チームは、乳酸が神経新生を回復し、マウスの抑うつ行動を低下させることを示すことができたという。逆に、神経新生がなければ、乳酸はその抗うつ力を失い、両者が密接に関連していることが示された。
しかし、これは乳酸が神経新生を調節するメカニズムについては何も教えてくれない。そこで、研究チームはその代謝、言い換えれば、それに関連するすべての細胞化学反応を研究した。乳酸は主に食品からのブドウ糖の分解に由来し、その後ピルビン酸に酸化される。主任研究者のアンソニー・キャラード博士は、「「ピルビン酸の神経新生を論理的にテストしたが、成功しなかった。そのため、乳酸からピルビン酸への変換に答えを見つける必要があると考えた」と述べている。
乳酸からピルビン酸への変換中に、細胞はNADHとして知られる抗酸化能を持つ分子を生成する。「うつ病エピソード中、または少なくとも動物のこれらの症状モデルの中で神経新生を保護するのは、NADHとその抗酸化特性のようだ」とキャラ―ド博士は述べている。
「このメカニズムは、スポーツとうつ病の関連を説明する可能性があり、それを実証するにはさらに実験が必要である。重要なことは、この知見が、将来の治療法を考案するための潜在的なターゲットを提供するということだ」と研究チームは結論付けている。
出典は『分子精神医学』。 (論文要旨)
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