2021.1.26
, EurekAlert より:
脳の老化には、不安的になった免疫系の特定の細胞が、炎症を鎮める代わりに慢性炎症を促進するためかもしれない、という米国スタンフォード大学からの研究報告。
この炎症を軽減すれば、老化プロセスが遅くなり、心臓病、アルツハイマー病、がん、フレイルなど加齢に伴う疾患の発症が遅れ、また認知能力の低下を防げるのではないかといわれている。
けれども、免疫系の特定の細胞が炎症性オーバードライブを開始する真の原因が何なのかはわかっていなかった。
今回研究チームは、骨髄系細胞と呼ばれる免疫細胞のセットにその責任の所在があるようだと報告している。
骨髄系細胞は、プロスタグランジンのひとつであるPGE2の主な供給源である。PGE2には様々な作用があるが、炎症を促進する作用もそのひとつであり、作用は細胞表面に存在する特異的受容体の種類によって異なってくる。
骨髄系細胞に豊富に見られる受容体はEP2と呼ばれるもので、PGE2が結合すると、細胞内で炎症活性が開始される。
研究チームは、65歳以上の人から集めた骨髄系細胞のひとつであるマクロファージを培養し、35歳未満の人のマクロファージと比較した。また若いマウスと高齢マウスのマクロファージについても調査した。
実験の結果、高齢マウスとヒトのマクロファージは、若いマクロファージに比べて、はるかに多くのPGE2を産生するだけでなく、細胞表面にはるかに多くのEP2受容体を持っていることが明らかになった。また、高齢マウスの血液と脳において、PGE2レベルの有意な増加を確認したという。
この結果として生じるPGE2−EP2結合の指数関数的増加は、骨髄系細胞の炎症に関連する細胞内プロセスを増幅する。
研究チームは、ヒトとマウスの両方の骨髄系細胞で、この炎症性ハイパードライブがどのように始まるかを示した。
高齢の骨髄系細胞で大幅に増加したPGE2−EP2結合は、グルコースの消費から貯蔵へのルート変更によって細胞内でのエネルギー生産を変化させる。その結果、グルコースをグリコーゲンに変換することによるグルコースの貯蔵傾向が高まる。これが慢性的なエネルギー枯渇状態を引き起こし、それが細胞の炎症性を促進して、老化した組織に大混乱をもたらすのであるという。
研究チームは、この現象が、動物にEP2シグナル伝達阻害剤を投与することによって抑制できることを示した。また、培養したマクロファージに阻害剤を添加することによって、老化した骨髄系細胞は、若い細胞と同じようにグルコースを代謝し、老化細胞の炎症特性を逆転させた。
さらに印象的だったのは、これらの阻害剤が、マウスの加齢に伴う認知機能の低下も逆転させたことだという。
研究チームが使用した2つの阻害剤のうち1つは、血液脳関門を通過しなくても有効であったという。研究者によれば、これは脳の外側にある骨髄系細胞をリセットするだけでも、脳の内側で起こっていることに大きな影響を及ぼす可能性があることを示唆している。
ただし、どちらの阻害剤もヒトでも使用は承認されていない。マウス実験では観察されなかったが、副作用がある可能性もある、と研究者は述べている。
出典は『ネイチャー』。 (論文要旨)
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