2021.1.15
, EurekAlert より:
ある種の食品を摂取すると腹痛が起こる原因ついての生物学的メカニズムを同定した、というベルギーのルーヴェンカトリック大学からの研究報告。本研究は、過敏性腸症候群(IBS)その他の食物不耐症へのより効率的な治療への道をひらくものであるという。
研究チームは、特定の食品によって、ヒスタミンを放出する細胞(肥満細胞)が活性化され、痛み、不快感を起こすメカニズムを明らかにした。研究者らの初期の研究では、免疫系の重要な構成要素であるヒスタミンを遮断することで、IBS患者の状態が改善されることが示されていた。
健康な腸では免疫系は食物に反応しないので、研究チームはまずこの耐性が崩壊する原因を見つけようとした。IBS患者は、食中毒などの胃腸感染症の後に症状が始まったと報告することが多いことから、研究チームは、特定の食品が腸内にあるときに感染が起こると、その食品に対して免疫系が感受性を高める可能性があるという仮説を立てた。
マウスの胃に感染を起こし、同時に卵白アルブミンを摂取させた。卵白アルブミンは実験モデルで食品抗原として一般的に用いられるもので、免疫反応を惹起するたんぱく質である。感染が解消されたのち、感作が起きたかどうかを確認するために再び卵白アルブミンを投与したところ、卵白アルブミンのみで、肥満細胞が活性化されヒスタミンが放出されて、腹痛の増加を伴う消化不耐症をおこした。対照として、感染を起こさずに卵白アルブミンのみを摂取させたマウスではなにも起こらなかったという。
その後、研究チームは、卵白アルブミンの摂取と肥満細胞の活性化を結びつけた一連の免疫反応を明らかにした。重要なことは、この免疫反応が破壊的な細菌に感染した腸の部分でのみ発生したことだという。それは食物アレルギーのより一般的な症状は引き起こさなかった。
主任研究者のガイ・ベクステンス教授によれば、これは食物関連免疫疾患のスペクトラムを示すものだという。「スペクトラムの一方の端が、IBSのように極めて局所的に起こる抗原への反応である。スペクトラムの別の端は食物アレルギーであり、非常に広範な症状を惹起するのである。」
その後、研究チームでは、IBS患者が同様に反応したのかどうかを検討した。IBSに関連する食物抗原(グルテン、小麦、大豆、牛乳)を12名のIBS患者の腸壁に注入すると、マウスに見られるのと同様の局的な免疫反応が生じたが、健常者では反応は見られなかったという。
研究チームによれば、これは少人数の検討であり、更に多くの例数を確認する必要があるものの、以前の臨床試験においてIBS患者が抗ヒスタミン薬で改善を示したことと併せて検討することが重要ではないかという。「これは我々が解明したメカニズムが臨床的に関連していることのさらなる証拠である」とベクステンス教授は言う。
抗ヒスタミン治療のより大規模な臨床試験が現在進行中であるが、「けれども肥満細胞の活性化につながるメカニズムを知ることは重要であり、これらの患者のための新たな治療法につながるだろう」と教授は述べている。「肥満細胞はヒスタミンだけでなく、はるかに多くの化合物とメディエーターを放出するので、これらの細胞の活性化をブロックできれば、はるかに効率的な治療法が得られるのではないだろうか。」
出典は『ネイチャー』。 (論文要旨)
|