2020.12.21
, EurekAlert より:
高齢マウスのあるひとつの酵素活性を1か月間ブロックすることで、衰えた筋肉の筋量と筋力が回復し、トレッドミル上でのランニング距離が延長した、という米国スタンフォード大学からの研究報告。若いマウスでこの酵素たんぱく質の発現を増加させると、筋肉が委縮したという。
「改善は本当に劇的だった」と主任研究者のヘレン・ブラウ教授は語っている。「高齢マウスは、1か月の治療後に約15%から20%強くなり、その筋線維は若い筋肉のように見違えた。人間が約50歳以降、10年ごとに約10%の筋力を失うことを考えると、これは非常に注目に値する。」
加齢中の筋肉の喪失はサルコペニアとして知られており、米国では毎年数十億ドルの医療費を占めているという。これは、筋肉の構造と機能の変化によるものだ。筋線維が収縮し、細胞のパワーハウスであるミトコンドリアの数と機能が減少する。
研究チームは、筋肉損傷後の筋肉機能やデュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの病気の理解に長い間関心を持ってきた。これまでに、プロスタグランジンE2(PGE2)と呼ばれる分子が、損傷した筋線維を修復するために作用する筋幹細胞を活性化できることを発見していた。
「我々は、この同じ経路が老化にも重要であるのではないかと考えた」とブラウ教授は語っている。「驚いたのは、PGE2が再生における幹細胞の機能を増強するだけでなく、成熟した筋線維にも作用することだった。それは強力な二重の役割を持っている。」
PGE2レベルは、PGE2を分解する酵素15-PGDHによって調節されている。研究チームは、密接に関連する分子を区別する方法である高感度バージョンの質量分析を使用して、高齢マウスの筋肉では、若いマウスと比べて、15-PGDHレベルが上昇しており、PGE2のレベルが低いことを確認した。
ヒトの筋肉組織でも、70-80代の高齢者では、20代半ばの若年成人に比べて、15-PGDHが高いレベルで発現していることを発見した。
「我々は以前の研究から、PGE2が若い筋肉の再生に有効であることを知っていたが、半減期が短いので治療に使うのは困難だった。高齢マウスで、15-PGDHの活性を阻害すると、PGE2レベルが上昇し全身の筋肉で改善がみられた」と筆頭研究者のアデレイダ・パラ博士は語っている。
研究チームは、高齢マウスと若齢マウスに対して、15-PGDHの活性を阻害する小分子を1か月間毎日投与してその治療効果を評価した。
その結果、高齢マウスでは、15-PGDHを部分的に阻害するだけでも、PGE2レベルが若いマウスの生理学的レベルに回復することがわかったという。またこれらのマウスの筋繊維は治療前よりも大きく強くなった。ミトコンドリアもより多くなり、若いマウスのミトコンドリアのように機能したという。
15-PGDH阻害剤の投与を受けた動物は、受けなかった動物に比べて、トレッドミルで長く走ることができた。
「トレッドミルでより良いパフォーマンスを発揮するには筋力の増加以上のものが必要だ。他の臓器、たとえば心臓や肺も関与する。これは動物の機能が全体的に改善されていることを示唆している」とブラウ教授は語っている。
研究チームが、若齢マウスで15-PGDHを過剰発現させる実験を行ったところ、マウスは筋力を低下させ、高齢マウスのように筋繊維が収縮して弱くなることを発見した。
「15-PGDHが筋肉機能に大きな影響を及ぼすことは明らかだ」とブラウ教授は語っている。「これらの発見が、人の健康改善につながることを願っている。」
出典は『サイエンス』。 (論文要旨)
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