2020.9.28
, EurekAlert より:
よく知られている薬剤であるラパマイシンにより、加齢に伴う筋力低下の進行を遅らせることができるかもしれない、というバーゼル大学からの動物実験の報告。
寿命の延長により、サルコペニアなどの加齢に関連する疾患が多くなっている。筋肉の萎縮と強度の低下は加齢による自然現象であり、人によっては筋肉量と機能の低下が著しく現れる。この状態はサルコペニアと呼ばれ、80歳以上の人の2人から3人に一人が、活動の制限、自律性や生活の質の低下などの影響を受ける。
サルコペニアの原因は、筋肉代謝の変化から筋肉に供給される神経の変化まで、多岐にわたる。マルクス・リュエッグ教授らは、mTORC1がサルコペニアに関与しており、薬剤のラパマイシンによるmTORC1の制御によって加齢による筋肉の消耗を遅らせることを明らかにした。
「我々の予想に反し、ラパマイシンによる長期のmTORC1の抑制は、マウスにおいて骨格筋の量と強度を維持し、骨格筋の老化に対して有効であった。」今回の研究の筆頭著者であるダニエル・ハム氏は話す。「筋細胞にニューロンが結合して収縮をコントロールする部位である、神経筋接合部は、加齢によって働きが低下する。神経筋接合部の維持は健康な筋肉を保つために重要であり、ラパマイシンはその安定に効果的であった。」研究者らは、骨格筋でmTORC1を恒久的に活性化させると、筋肉の老化が促進されることも示した。
研究者らは、マウスとラットの骨格筋における遺伝子発現が加齢に伴って、またはラパマイシン治療に応答して、どのように変化するのかをさらに調査するために、ウェブアプリケーションのSarcoAtlasを開発した。
現在のところ、サルコペニアを治療するのに効果的な薬物治療はない。この研究はmTORC1を抑制することで加齢による筋力低下を遅らせ、結果として高齢者の自律性と生活の質を保つことが可能であるという希望の光となっている。
出典は『ネイチャーコミュニケーション』。 (論文要旨)
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