2020.9.1
, EurekAlert より:
加齢に伴う高血圧の発症には、血中の抗加齢因子の減少がカギとなっていることが発見された。なお、この抗加齢因子を投与することで食塩による血圧上昇を抑制できることなども明らかになった。東京大学・信州大学の動物実験から。
高血圧はサイレントキラーと呼ばれるが、それは世界中で死亡や障害の最大のリスク要因となっているにも関わらず無症状であるためだ。多くの高齢者は治療が困難な高血圧だが、適切な予防法や指標はわかっていない。
今回、塩分の過剰摂取が高血圧を引き起こす正確なメカニズムが解明された。腎臓で生成される抗加齢因子「クロトー」の欠乏が関与しているという。
クロトーは腎臓から血中に分泌される抗加齢たんぱく質で、ホルモンとして作用する。その量は年齢とともに減少し、血管や動脈系を硬化させる。最近の研究では、血中クロトー濃度と血圧の塩分感受性は逆相関することが示されている。高血圧症は塩分の過剰摂取によって引き起こさるが、血圧の塩分に対する感受性には個人差があり、感受性の高い人は高血圧になる可能性が高まる。
一般的に、若者は感受性が低く高血圧を発症する可能性は低いが、高齢者は塩分に敏感で高血圧を発症しやすくなる。ただし、加齢に伴う塩分感受性の上昇のメカニズムは不明だった。
研究グループは最初に高齢マウスを用いた実験で塩分感受性が増加することを確認、その原因は抗老化因子クロトーたんぱく質の血中濃度が年齢とともに減少するためであることを明らかにした。また、加齢によるクロトーの減少により、高食塩を摂取した際に、クロトーにより抑制されていた血管の収縮経路「Wnt5a-RhoA経路」が過剰に活性化して、血圧が上昇するまでの分子メカニズムを初めて解明することに成功した。
さらなる実験で、高齢マウスにクロトーを補充して血中レベルを若いマウスと同程度まで回復させておくと、その後食塩を投与しても血圧が上昇しないことがわかった。
これらの結果は、クロトーの補給が高齢者の高血圧の発症を予防できるほか、クロトーのレベルが高血圧の発症の予測マーカーになりえることを示している。また、クロトーの加齢に伴う減少は、認知症とサルコペニアの発症、筋肉量の減少にも関連している可能性もあり、その発症メカニズムの研究も進められているとのことだ。
出典は『臨床研究雑誌』。 (論文要旨)
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