2020.8.25
, EurekAlert より:
従来型の抗生物質が効かない薬剤耐性菌に有効な新薬となるか?天然の「抗ビタミン剤」が細菌の代謝酵素を阻害し、増殖抑制に役立つことが示された。独ゲッティンゲン大学の研究。
抗生物質は現代医学の最も重要な発見の1つであり、100年ほど前のペニシリンの発見から何百万人もの命を救ってきた。肺炎、髄膜炎、敗血症などといった細菌感染によって引き起こされる多くの病気は、抗生物質で治療ができる。しかし、細菌は抗生物質に対する耐性を発現する可能性があり、そうなると、医師は効果的な治療法を見つけるのが困難になる。
特に問題となるのは、多剤耐性を発現し、ほとんどの抗生物質の影響を受けない病原体だ。これらは、しばしば致命的な結果を伴う、重篤な疾患の進行につながる。そのため、世界中の科学者が新しい抗生物質の開発に励んでいる。
ゲッティンゲン大学とマックスプランク生物物理化学研究所の研究者らは、新しいタイプの抗生物質を開発するための「抗ビタミン剤」を含む有望な新しいアプローチについての研究成果を発表した。
抗ビタミン剤は、ビタミンの生物学的機能を阻害する物質だ。抗ビタミン剤のうちいくつかは、ビタミンと化学構造が似ているが、ビタミンの働きを阻害または制限する作用を持つ。今回、ビタミンB1に対する抗ビタミン剤である天然成分「2'-メトキシ-チアミン」の原子レベルでの作用メカニズムを調査した。一部の細菌は、この抗ビタミン剤を産生して、競合する別の細菌を殺す能力を持っている。
研究チームは、高解像度のたんぱく質結晶解析法により、抗ビタミン剤が細菌の中心代謝における重要な酵素をどう阻害するかを調べた。すると、抗ビタミン剤の持つ水素イオンのひとつが、複雑な歯車システムに混入した砂粒のごとく作用し、細菌の代謝酵素の活性を阻害することがわかった。
興味深いことに、ヒトの酵素はこの抗ビタミン剤に比較的うまく対応し、活性を保持できることがわかった。その原因をコンピューターシミュレーションによって調べたところ「ヒトの酵素はこの抗ビタミン剤にまったく結合しないか、「毒されない」方法で結合しすることがしめされたという。ヒトと細菌に対する、この作用の違いが新しい細菌感染症治療法の扉を開くことになるかもしれない。
出典は『ネイチャー化学生物学』。 (論文要旨)
|