2020.8.18
, EurekAlert より:
髪を調べればその人のことが色々わかってしまうようだ。髪に含まれる元素の同位体の比率の違いは、食生活の傾向、肥満率、ひいては社会経済的地位と関連することが明らかになった。米ユタ大学のユニークな研究。
食品の種類ごとに、安定同位体(同じ元素であるが中性子の数が違うことで、重さがわずかに異なるもの)の比率は様々になっている。食品がアミノ酸に分解されると、食品に含まれていた元素の同位体が、髪を含む身体のあらゆる部分に入り込む。
ユタ大学のエーリンガー教授らの研究グループは、先の研究で髪の酸素の同位体の比率を調べることによって、人々の移動の追跡ができたと報告している。というのも、水に含まれる酸素の同位体の組成はその土地ごとに異なるため、飲んだ人の髪に酸素の同位体の比率が反映されることを利用した研究だ。
彼らは次に、髪の炭素・窒素の同位体に着目した。食べ物に含まれる同位体の比率が髪に反映されることでどのようなことがわかるかを検討することにしたのだ。
植物は、光合成の形態の違いによりC3植物(マメ科植物や野菜、稲や小麦等)やC4植物(トウモロコシやサトウキビ、雑穀等)などに大別されるのだが、C3植物とC4植物はたんぱく質中の同位体の比率が異なっている。そのためC3植物や、C3植物を主要飼料とした家畜を食べることが多い人の髪の同位体比率は、C3植物に類似してくることになる。
今回の研究では、全米の65都市の理容院・美容院から顧客の髪のサンプルを収集したほか、1つの都市を集中的に調査するため、ソルトレークバレーの29地区それぞれでサンプルを収集し、約700人分の髪を得た。
分析の結果、髪の同位体比率は地域的・全国的のいずれにおいても差は見られたが、それほど大きなものではなかった。ただ、炭素の同位体比率は地区ごとの生活費と相関していることが発見された。また驚くべきことに、ソルトレークバレーの調査では、炭素の同位体比率がサンプル採取をした店のヘアカット代金と相関していたのだという。
食事面から考えると、トウモロコシ等C4植物にみられる同位体の特徴が、社会経済的地位の低い地域で採取された髪サンプルほど特徴的に見られた。そのことから、これらの地域ではC4植物を飼料とした家畜を食べることが多いものと思われる。
さらに一歩踏み込んで、研究グループは運転免許データを使用して、地区ごとのBMIの傾向を調べた。(米国では運転免許データに各人の身長・体重が含まれる)すると、地区ごとの髪の同位体比率と肥満率にも相関が発見された。このことは、食生活と社会経済的地位、健康状態との潜在的な関係を示唆している、とのことだ。
出典は『国立科学アカデミー論文集』。 (論文要旨)
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