2020.7.27
, EurekAlert より: 
抗生物質の服用期間に高脂肪食を摂っていると、炎症性腸疾患(IBD)の前段階に陥るリスクが大幅に増加することが発見された。これらの組み合わせは腸壁細胞のミトコンドリアの働きを停止させてしまい、腸の炎症へとつながることが示唆された。米カリフォルニア大学の研究。
腸管疾患として代表的なものは、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD) と 過敏性腸症 候群(irritable bowel syndrome:IBS)の2つがある。 IBDは慢性・再発性の腸管炎症を特徴とする 疾患群であり、IBSは大腸の炎症や腫瘍などの異常がみられないのに、便通異常と関連した腹痛や腹部不快感が続く疾患だ。
本研究では、健康な成人43人と成人の過敏性腸症候群患者49人を対象に、腸の炎症のバイオマーカーである糞便中のカルプロテクチンを測定した。糞便中カルプロテクチン濃度の上昇は、炎症性腸疾患の前段階の状態を示すが、研究に参加した過敏性腸症候群患者のうち19人の患者がこの状態にあることがわかった。
そして、高脂肪食を摂取し、抗生物質を服用した参加者全員が、低脂肪食かつ抗生物質を最近服用していない参加者に比べて炎症性腸疾患の前段階(前IBD)となるリスクが8.6倍上昇することが発見された。また、脂質の摂取量が最も多い参加者は、最も少ない参加者に比べてプレIBDリスクが約2.8倍となっていた。なお、最近の抗生物質の服用歴のみをみても、前IBDのリスクは3.9倍上昇していたという。
「私たちの研究では、高脂肪食を摂取している方にとっては抗生物質の服用歴が、前IBDの最大のリスクと関連することがわかりました」と、筆頭著者であるボウムレル教授。「これまで、さまざまな環境リスク要因がどう相互作用し、病気を促進しえるかはわかっていませんでした」
さらにマウスを用いた実験により、腸壁の細胞に対する高脂肪食と抗生物質の使用の影響を調べた。すると、高脂肪食と抗生物質が協同して細胞のミトコンドリアの働きを妨害し、酸素を燃焼する能力を止めてしまうことを発見した。これにより、細胞の酸素消費量の減少が引き起こされ、腸内部への酸素漏出につながる。
いわゆる善玉菌は、大腸など酸素が欠乏している環境で繁殖するのだが、腸内の酸素レベルが上昇すると、細菌の不均衡と炎症が促進される。腸内の「環境破壊」によって善玉菌は、より酸素耐性のある悪玉菌に置き換わるという悪循環が始まる。これにより、前IBD状態に関連する粘膜の炎症が引き起こされる。
幸いなことに本研究では、腸壁細胞のミトコンドリアの働きを再開させる薬剤・5-アミノサリチル酸(メサラジン)が前IBDの治療法になりえることを明らかにしている。
「健康な腸への最善のアプローチは、悪玉菌にとって好ましい栄養素を取り除くことです」と共同研究者のリー氏。「私たちの研究は、腸の炎症を予防するために、高脂肪食と抗生物質の乱用を避けることの重要性を強調しました」
出典は『細胞:宿主と病原菌』。 (論文要旨)
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