2020.5.26
, EurekAlert より:
耐用上限量を超える多量のビタミンD摂取がCOVID-19に有効などとする説には十分な根拠がないばかりか、過剰摂取による健康被害が懸念されるという。英国サリー大学などによる研究。
サプリメントなどによる高用量のビタミンD(4000IU(100μg) / 日以上)(※補足1を参照)摂取は、COVID-19に感染するリスク軽減や治療に有用などとする未検証の報告に対し、この新しい報告では、感染症の治療におけるビタミンの使用について、現時点での科学的エビデンスを調査し集約している。
ビタミンDは、日光を浴びた際に皮膚で生成されるホルモンであり、骨、歯、筋肉を健康に保つために必要な体内のカルシウムとリン酸塩の量の調節に役立つ。
この研究の筆頭著者であり、サリー大学の栄養科学部長であるランハムニュー教授は「体内のビタミンDの量が適切であることは、健康に極めて重要です。欠乏すると「くる病」や骨粗鬆症を発症しますが、過剰になると血中カルシウム濃度の上昇につながる可能性があり、こちらは特に有害でしょう」と述べている。
この分野での先行研究を調べたところ、ビタミンDの高用量補給とCOVID-19の予防または治療の成功に関連性は認められず、医学的管理がされない過剰摂取には健康上のリスクがあると警告している。目下、ビタミンDに治療効果があるなどとする主張は、人間を対象とした適切な研究によって支持されているものではなく、この分野に特化していない研究を基にしたものと結論付けた。
さらに、ビタミンDと気道感染症との関連性について調査したところ、ビタミンDレベルの低さと急性呼吸器感染症の関連が明らかになっていたが、これらの結果には研究の限界が確認されている。というのも、これらの研究のうち大多数は、開発途上国の人を対象に行ったものであるため、外的要因の影響も考えられ、先進国にそのままあてはめることはできないとしている。そのため論文著者らは、現在、ビタミンDの摂取量と気道感染症への抵抗力との間に確固たる関連はないとの見解を示している。
共著者であるバーミンガム大学のグレイグ教授は次のように述べている。「体内のビタミンDの大部分は日光を浴びることによって出来たものですが、特に現在のパンデミック下で自己隔離している多くの人にとっては日光を十分に浴び、十分なビタミンDを得ることが課題です。ビタミンDの補給が推奨されますが、現在の英国のガイダンスに沿ったものにすべきです(※補足2を参照)」
共著者のバトリス教授は「体内のビタミンのレベルは、栄養バランスの取れた食事で補うこともできます。それには脂肪の多い魚、赤身の肉、卵黄などのビタミン豊富な食品や、朝食用シリアルなどの強化食品を含みます。また、安全な範囲での日光浴などによっても、体内のビタミンDレベルを上げることができます」と話している。
※補足1:欧米各国のビタミンDの耐用上限量は1日あたり4000IU(100μg)であり、日本も同量。
※補足2:日照量は緯度や季節によって大きく異なるため、皮膚でのビタミンD産生量もそれらに多大な影響を受ける。例えば、同じ量のビタミンDの産生のための日照曝露時間は、冬季の札幌市ではつくば市に比べて約3倍、那覇市に比べ約10倍も多く必要とされる。
なお、英国をはじめとする欧州各国の多くは札幌より高緯度に位置しているため、従来より特に冬場の日照不足によるビタミンD産生量の減少が課題となっていた。
出典は『BMJ栄養、予防、健康』。 (論文要旨)
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