2020.5.19
, EurekAlert より:
胸やけ、胃炎、胃潰瘍の治療に用いられる制酸剤の一種、プロトンポンプ阻害薬の長期連用により、認知症の発症リスクを高める可能性のあるメカニズムが発見された。スウェーデン・カロリンスカ大学の研究。
「プロトンポンプ阻害剤が、アルツハイマー病などの症状に重要な役割を果たす神経伝達物質・アセチルコリンの合成に影響を及ぼすことを示せました」と、研究者のショーリ氏。「この疾患には効果的な治療法がないため、危険因子を避けることが重要です。したがって、薬が不必要に長期間使用されないよう、注意喚起をしたいのです」
プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、胃粘膜にある「プロトンポンプ」をブロックし、胃酸の分泌を抑える薬だ。ポンプが動かないと胃酸が減少し、最終的には組織への腐食性の損傷が起こる。また過去に集団を対象とした調査において、プロトンポンプ阻害剤を使用している人々の認知症の発生率が高いことが示されている。
今回の研究ではまず、3Dコンピュータシミュレーションを使用して、さまざまな活性物質に基づく6つのプロトンポンプ阻害剤と、コリンアセチルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素との相互作用するかを調べた。神経伝達物質であるアセチルコリンは神経細胞間で信号を送るために必要だが、十分に生成されていないと機能しない。シミュレーションでは、実験に用いたプロトンポンプ阻害剤すべてが酵素と結合可能であることが示された。
次に、研究チームはこの結合の影響を分析したところ、プロトンポンプ阻害剤が酵素を阻害し、結果としてアセチルコリンの生成が低下すること、結合が強いほど、阻害効果が強くなることを発見した。活性物質としてオメプラゾール、エソメプラゾール、テナトプラゾールおよびラベプラゾールを含有するプロトンポンプ阻害薬は親和性が最も大きく、つまりは酵素を最も強く阻害し、パントプラゾールおよびランソプラゾールを含むものは最も弱かった。
これら実験室での観察結果が、人体でも全く同様に起こるのかについては、さらなる研究が待たれる。とはいえ、ショーリ氏はプロトンポンプ阻害薬の過度な使用に否定的だ。
「より高齢の患者や認知症と診断されている患者には特別な注意が払われるべきです。アセチルコリンは必須の運動神経伝達物質であるため、ALSなどの筋力低下疾患の患者にも同じことが当てはまります。このような場合、医師は可能な限り、影響が最も小さい薬を使用し、最低用量でできるだけ短期間で処方する必要があります」
とショーリ氏は述べつつ、「しかし、神経系は非常に柔軟であるため、薬が限られた期間、本当に必要なときに使用される限り、正しい使用は高齢者でも安全であることを強調したいと思います」などと付け加えている。
出典は『アルツハイマーと認知症』。 (論文要旨)
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