2020.3.30
, EurekAlert より:
塩分の摂り過ぎは免疫系にも悪影響を及ぼすようだ。高塩分食の摂取により、動物実験では細菌感染症が重症化しやすいことがわかったほか、人間の免疫細胞においても明らかに免疫力が損なわれた様子がみられたという。独ボン大学が初めて明らかにした。
「1日5グラム未満」:これが、世界保健機関(WHO)が推奨する、成人の1日の塩分摂取量だ。約小さじ1杯に相当するが、実際にはこれを大幅に上回って摂取している人が多いだろう。
塩(=塩化ナトリウム)は血圧を上げ、それにより心臓発作や脳卒中のリスクを高める。それだけでなく、「塩分を過剰に摂取すると免疫システムの重要な機能が大幅に低下することを、初めて証明できました」と、ボン大学のカート教授は述べている。
この発見は予想外のものだった。というのも、これとは反対の研究結果が複数存在しているからだ。たとえば、実験動物の皮膚への寄生虫感染症は、高塩分食摂取により、治癒が有意に速くなる。寄生虫を攻撃し、食べ、消化する免疫細胞であるマクロファージは、塩の存在下で特に活発になる。このことから、塩化ナトリウムは一般的に免疫増強効果があるという考え方がある。
<皮膚は塩の貯蔵庫>
「私たちの結果は、この概念が正確ではないことを示しています」と、研究の主執筆者であるジョビン氏は強調している。これには2つの理由がある。まず第1に、身体が血中およびさまざまな臓器の塩分濃度をほぼ一定に保つようになっていることだ。もし一定でなければ、重要な生物学的プロセスが損なわれてしまう。唯一の大きな例外は皮膚である。皮膚は、体の塩の貯蔵庫として機能する。これが、塩化ナトリウムの摂取付加が一部の皮膚病に非常に有効となる理由だ。
しかし、体の他の部分は、食物とともに体内に入ってくる余分な塩にさらされない。塩分は腎臓でろ過され、尿中に排泄されるからだ。そして、ここからが第2のメカニズムの出番だ。腎臓には、塩分排泄機能を活性化する「塩センサー」がある。しかし、望ましくない副作用として、このセンサーはいわゆるグルココルチコイドを体内に蓄積させる。これらは次々に、血液中の最も一般的な免疫細胞である顆粒球の機能を阻害してしまう。
マクロファージと同様に、顆粒球は食細胞だ。これらは寄生虫を攻撃せず、主に細菌を攻撃する。攻撃が不十分であれば、感染はさらに深刻化する。「リステリア感染症のマウスでこれを示すことができた」とジョビン博士は説明する。高塩分食を摂取させたマウスの脾臓および肝臓では、疾患を引き起こす病原体の数が100〜1,000倍になったという。また、尿路感染症の治癒が大幅に遅れたとのことだ。
塩分の摂り過ぎは、人間の免疫系にも悪影響を及ぼすと考えられるという。「健康な成人に、普段の食事に加えてさらに6グラムの塩分を1週間摂取してもらい、血液を採取して顆粒球の働きを確認したところ、病原菌への対処が明らかに悪化していたという。また、グルココルチコイドのレベルが上昇していることもわかったとのことだ。
出典は『サイエンストランスレーショナル医療』。 (論文要旨)
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