2020.3.17
, EurekAlert より:
物語を語ることによってコンピタンスを維持したまま温かさ、信頼性を高めることが可能かもしれない、という米国ニューヨーク州立大学バッファロー校からの研究報告。
現在の地球温暖化に人類の活動が関与しているという圧倒的な科学的コンセンサスにもかかわらず、気候変動の問題を受け入れない集団がいる。様々な科学、非科学的な議論がある。進化とインテリジェントデザイン? ミステリーサークルと地球外からの訪問者? 新型コロナウイルスがもたらす公衆衛生上の脅威とビタミンD?
信頼するに足る専門家らの結論にもかかわらず、国民の疑念が晴れないのはなぜなのか? その答えの一部は、物語、より正確には語ることに失敗しているためであるという。
「ナラティブは、聴衆のメッセージを伝達する人に対する対人知覚に影響する」と主任研究者のメラニー・グリーン教授は語っている。
研究チームは、対人知覚に関する豊富な文献に向き合い、メッセージの性質が我々のそのメッセージをもたらす人に対する知覚に(人がメッセージに対する我々の知覚にではなく)どのように影響するかを調査した。
「我々の知見が示唆しているのは、情報を伝達するときに物語を語ることは、話者がより温かく信頼できる人だという印象を作り出すことができる、逆に統計と図表だけを供給するような別の話し方では逆のことが起きる、ということだ」とグリーン教授は語っている。
「我々は、なぜ人々がある時は豊富なエビデンスをもってしても、それを信頼しないことがあるのかを明らかにしようとした」とグリーン教授は言う。
教授によれば、人々は温かさとコンピタンスという2種類の性質に特に基づいて他人の印象を形成するという。温かさは、フレンドリーでヘルプフルで信頼できるということであり、コンピタンスとは、能力、インテリジェンス、スキルに関連したものである。
先行研究では、人々は科学者を知的だが距離がある存在と感じており、コンピタンスは高いが温かさは低い、つまり信頼性には欠ける存在だと思っていることが示されている。
「その知覚が、コミュニケーションの障壁となっており、心の底ではまだ他人の最善の利益を念頭においていないのだ、と思わせてしまう原因になっている」とグリーン教授は言う。「我々は、科学コミュニケーションについて検討したが、この結果はコンピタンスが高いが冷たく距離感のある他者ならだれにでも当てはまることだろう。」
「物語を語ることは、物語が共感を生み出すことから温かさの知覚を改善する方法であり、我々はナラティブのどのような性格がそれをもたらしているのかを明らかにしようとした。」
研究チームは、235名から255名の参加者を含む3件の研究を行った。最初の2件では、人々は、ストーリーテリングまたは統計情報を用いて銀行または休暇の行き先についてのアドバイスをする、というシナリオを読んだ。
最新の研究では、人々は再び物語を聞かされるか統計情報を供給され、特殊なタスクで誰と働くことを望むか決めるようにいわれた。
どの研究においても、メッセージの内容を明確に支持するものが存在した。物語においても統計においてもそのエビデンスの種類が明らかにされ、出典もハッキリしていた。
グリーン教授は、彼女が研究者には物語を語ることにためらいがあることを理解した、と言う。彼女も研究者の一人として、人々が、すでに確立された研究知見を超えて結論に飛びつく危険性には気付いていた。
「研究者として、我々は注意深く、我々のデータの限界を見極め、それを厳密化するように訓練されている。ひとつの物語で全てを説明することはできない」と彼女は語る。「けれども、ここには多くの種類の物語があり、我々はたとえばデータがどうやって集められたか、なぜ研究チームはそのような形で共同して作業することになったのか、この研究分野においてもっとも興味を掻き立てられるテーマとは何なのか、といったことについて議論することは可能である。」
「こういう種類の物語は、物事の正確さを保ったまま、温かさと信頼性を作り出す助けになる。」
そのような信頼性は、かならずしもコンピタンスを犠牲にするものではない、と彼女は指摘している。
出典は『プロスワン』。 (論文要旨)
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