β-カロテンのビタミンA転換効率に関する基礎的研究

【はじめに】
 我々はこれまで低分子栄養素を中心に、新しい機能を解析することで生体指標としての可能性を探ってきました1-5)。

【対象および方法・結果】
 ビタミンAは、動物性食品からはレチニルエステルとして、植物性食品からはカロテノイドとして摂取されます。プロビタミンA活性が最も高いカロテノイドと考えられているβ-カロテンは、小腸に存在する酵素β-carotene 15, 15’- monooxygenase(BCMO)によって中央で開裂されるとビタミンAになります(図)。



このBCMOによる転換効率は、摂取されたビタミンAの充足度と逆相
関することが知られています。すなわち体内に充分量のビタミンAが存在するときはビタミンAに転換されずにβ-カロテンはそのまま体内に吸収されます。

一方、ビタミンA量が不足しているときはβ-カロテンは転換されるというものです。
このことが、「過剰にβ-カロテンを摂取してもビタミンA過剰症をおこさない」ことを説明する根拠となっています。ところがそのメカニズムはよく分かっておらず、具体的な転換効率も明確になっ
ていません。β-カロテンは栄養機能食品の対象成分であり、また食品添加物にも指定されているので以外に多く摂取されている可能性があります。
事実、平成18年度国民健康・栄養調査によりますと、国民全体のβ-カロテン摂取量の中央値は約3500μg/日ですが70歳以上の高齢者における中央値は約5000μg/日と極めて高くなっています。

すなわち、ある集団においてはβ-カロテン過剰摂取の可能性があると考えられます。β-カロテンそのものの栄養素としての機能を明確にする上でも、BCMOに関する基礎的知見は重要であると考えました。

そこで本研究ではまず、BCMO遺伝子の発現制御機構を明らかにしようと考えました。

 ビタミンAの活性本体と考えられているレチノイン酸を小腸由来の培養細胞に添加し、BCMO遺伝子発現の変化をRT-PCRで確認しました。その結果、BCMO遺伝子プロモーター上にはレチノイン酸応答配列が存在するにもかかわらず、レチノイン酸による刺激に反応しませんでした。
また、レチノイン酸応答配列を含むBCMO遺伝子プロ
モーター領域をルシフェラーゼに連結したレポータープラスミドを構築し、レチノイン酸による転写活性化を観察しましたが、同じくレチノイン酸による刺激に反応しませんでした。

【今後の方向性】
 レチノイン酸は細胞内に存在する特異的な核内レセプターに受容され遺伝子発現を正に制御することが知られています。すなわちBCMO遺伝子発現にはレチノイン酸による転写抑制機構という、新しい調節機構が介在している可能性があります。現在詳細に解析しています。

【栄養疫学プログラム/生体指標プロジェクト 山内 淳】


関連研究論文
1) Yamauchi, J. et al. Biochem Biophys Res Commun. 285( 2):295-299, 2001.
2) Yamauchi, J. Biosci. Biotechnol. Biochem . 70 (1): 312-315,2006.
3) Inoue, E. and Yamauchi, J. Biochem Biophys Res Commun
351: 793-799, 2006.
4) Inoue, E. et al. Biosci. Biotechnol. Biochem . 72( 1): 246-249,2008.
5)Inoue, E. et al. J. Biol. Chem. 285( 33): 25545-25553, 2010.

(当研究所機関誌「健康・栄養ニュース第34号」(平成22年12月15日発行)より転載)