基礎栄養プログラム

3.進捗状況(成果)


a. 脂質・糖代謝プロジェクト

●運動による肥満/糖尿病予防機序の解明

・定期的な運動はβ2アドレナリン受容体を活性化し、転写共役因子PGC-1α発現量を増加させる。PGC-1αを筋肉で増加させると、ミトコンドリア量が増加しエネルギー消費量も増える。今年度、PGC-1αには3つのアイソフォームがあることを見いだした。β2アドレナリン受容体刺激や運動によって発現増加するのはこれまでに知られていたPGC-1α(PGC-1α-a)ではなく、新しい種類のPGC-1α(PGC-1α-bおよびPGC-1α-c)であった。

・運動による脂肪酸酸化亢進に関与する情報伝達系として、これまでAMPKの関与が想定されていたが、骨格筋のα2-AMPK活性を抑制した「骨格筋特異的優性抑制型変異体α1-AMPK発現マウス」を作製し、骨格筋での脂肪酸代謝亢進作用を調べた結果、低強度の運動による脂肪酸酸化亢進作用はα2-AMPK活性化によるものでないことが明らかになった。


●肥満/脂肪肝発症原因別の食事療法の考案

・ddYマウスは、人と同じように、砂糖の多量飲料又は高脂肪食により脂肪肝が発症する。この疾患モデルでは、魚油摂取により砂糖摂取による脂肪肝は予防できるが、高脂肪食による脂肪肝に対しては予防ができない。今年度は高脂肪食により脂肪肝に対して有効な食品成分を見いだすため、スクリーニングを行い、β-コングリシニンが砂糖摂取と高脂肪食による両方の脂肪肝に対して有効であることを見いだした。その機序として、砂糖摂取による脂肪肝に対してはSREBP-1cの活性低下、高脂肪食による脂肪肝に対しては、脂肪吸収の低下とPPARγ2活性の低下が推定された。


●エネルギー摂取制限及び栄養素欠乏時に於ける代謝変動の分子メカニズムの研究

・脳出血を発症するSHRSPラットに於いて、マクロニュートリエントの中で、蛋白質比率が脳出血罹患に最も大きな影響を与えていることがわかった。通常の10 en%?20en%の蛋白食に比べて、低蛋白食(7.5en%以下)で脳出血の増加、高蛋白食(45en%)で脳出血の著しい減少が認められた。炭水化物比率、脂質比率は脳出血罹患に影響は与えなかった。