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満腹なのにまだ食べられるのはなぜか

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このドキュメントについて: 画像神経科学ウェルカム・デパートメント 機能画像化ラボ(Functional Imaging Laboratory)のゴットフライドらによる、食欲のメカニズムにヒントを与える論文(サイエンス301巻に掲載)(1)を紹介します。


(中嶋良子・廣田晃一 健康栄養情報・教育研究部)


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?.はじめに

 もう食べられないというほど食事をした後に、デザートを食べたくなったことはないだろうか。もうご飯は入らないのに、なぜアイスクリームなら入るのだろう。そんな疑問を感じたことがある人は少なくないはずだ。

 その疑問への答えのヒントが、サイエンス2003年8月22日号の論文(1)にある。画像神経科学ウェルカム・デパートメント 機能画像化ラボ(Functional Imaging Laboratory)のゴットフライドらの研究で、ヒトの神経系における空腹感と満腹感の影響について、機能的MRI(磁気共鳴画像)を用いて検討されている。ゴットフライドらは、ある単一の食品をおいしいと感じなくなるまで摂取したとき、その食品に対する食欲の変化について調べた。その結果、充分に摂取した食品に対する食欲は、摂取後低下するが、充分に摂取していない食品に対する食欲は維持される、あるいは増強されるという結果が得られた。以下に、この論文の詳細を紹介する。

?.ヒトの扁桃体と眼窩前頭皮質で観察される報酬の予測値(1)

 摂食は生物の予測能力を反映するものの一つであることから、ゴットフライドらは、摂食に関わる脳の反応を調べることによって、報酬の予測値が脳のどの領域に見られるかを調べた。ここでいう報酬の予測値とは、ある食品に対する食欲である。先行研究では、摂食に関わる脳の領域―眼窩前頭皮質(OFC)、扁桃体、および島のネットワーク―における、摂食時の空腹状態の影響は示されていたが、選択的にある食品だけを満腹になるまで摂取(飽和化)した場合の影響は調べられていなかった。そこでゴットフライドらは、2種類の食品を用いて、片方の食品だけを飽和化することでその食品の価値を下げ(価値低減)、報酬の予測値の変化を観察することによって、報酬価値に関わる中枢表象を探った。


 13人の空腹な被験者に対して以下の実験が行われた。まず、2種類の食品(バニラアイスクリームとピーナツバターサンドイッチ)に対応する匂い(バニラエッセンスとピーナツバター)と3種類のフラクタル図を組み合わせ、古典的条件づけが行われた。匂いが無条件刺激(UCS)、フラクタル図が条件刺激(CS)である。各被験者はランダムにどちらか一方の匂いを標的(実験途中で、その匂いに対応する食品を摂取することで価値低減が行われる匂い、以下「ターゲットUCS」)として割り当てられた。(価値低減を行わないもう一方の匂いは「ノンターゲットUCS」。)フラクタル図はターゲットUCSと条件づけするもの(以下「ターゲットCS+」)、ノンターゲットUCSと条件づけするもの(以下「ノンターゲットCS+」)、条件づけしないもの(以下「CS?」)の3種類。

 実験課題は空間的な単純弁別課題で、脳機能画像を撮影しながら3セッション(訓練、摂食前、摂食後)行われた。課題は、フラクタル図が被験者の左右どちらかに呈示され、どちらに現れたかを答えるというもので、被験者は訓練セッションにてフラクタル図(CS)と匂い(UCS)の関係を学習した。フラクタル図は50%の確率で匂いとともに呈示された(匂いと対のフラクタル図は「p」、匂いと対にならないフラクタル図は「u」)。すなわち、被験者が提示される条件は6種類:1)ターゲットUCSと対のターゲットCS+(「ターゲットCS+p」)、2)匂いと対にならないターゲットCS+(「ターゲットCS+u」)、3)ノンターゲットUCSと対のノンターゲットCS+(「ノンターゲットCS+p」)、4)匂いとペアにならないノンターゲットCS+(「ノンターゲットCS+u」)、5)ターゲットCS?、6)ノンターゲットCS?であり、1)と2)、3)と4)は同じ回数提示されたということである。ターゲットCS?とノンターゲットCS?はデータ分析の際に指標となるもので、CS?をランダムに振り分けただけの全く同一のものである。

 第2回目(摂食前)のセッション終了後、被験者はターゲットの食品を、おいしいと感じなくなるまで摂取した。これによって、ターゲット食品に対する報酬の価値低減が行われた。その後最終セッションが行われた。

 被験者は、ターゲット食品摂食前後に、空腹レベル、ターゲット食品に対する心地よさ、ターゲットおよびノンターゲットUCSに対する心地よさと匂いの強さの評価(10段階評価)も行った。

 その結果、ターゲット食品摂食前、ターゲットUCSとノンターゲットUCSに対する心地よさに差は見られなかった(P=0.75)が、摂食後、有意な差がみられた。ターゲットUCSに対する心地よさは低下した(P<0.01)が、ノンターゲットUCSには変化が見られなかった(P=0.46)。この結果は、選択的にターゲット食品を飽和化した影響、すなわちターゲットUCSの報酬価値の低下を示している。ターゲット食品に対する食欲も、同様に低下した。

 ゴットフライドらが求めていた予測刺激に対する報酬価値の中枢表象については、扁桃体とOFCで起こることがわかった。それは、ターゲット食品の飽和化によって、左扁桃体背内側部およびOFCの広い範囲でターゲットCS+uに対する活性が低下したが、ノンターゲットCS+uの活性は維持されたためである。この結果から、動機づけにおいて扁桃体とOFCのネットワークが重要であることも導かれた。

 一方、腹側線状体や島、前部帯状回における摂取後の反応は、ターゲットCS+uでは低下したが、ノンターゲットCS+uでは増大した。これは、ある食品の選択的飽和化によって、報酬表象のバランスが飽和した食品から飽和していない食品へとシフトするということが、食物選択の動機づけの根本にある可能性を示唆している。

 強化刺激の価値低減によって活性化する領域が、匂い(無条件刺激)の表象と同じ領域―扁桃体背側部とOFC 後部―であることから、条件刺激が無条件刺激の報酬価値と連合しているといえ、また、報酬に関する反応が側頭葉内側部、OFC、島、海馬、帯状回で観察されたことから、報酬の予測値を符号化する領域の多くの部分が連合学習に関わることが示された。さらに、反応が見られた島の前部はヒトの味覚皮質と呼ばれる領域に重なることから、食物に関する報酬の学習はこれらの領域で起こると考えることができると、ゴットフライドらは述べている。

?.デザートは別腹の理由?

 ゴットフライドらの研究は、報酬価値に関わる脳の領域を調べることを目的としていたが、この研究から読み取れることは、ある食品が飽和化されることによってその食品の報酬価値は下がるが、飽和化されていない食品の報酬価値は下がらないということである。つまり、例えばカレーライスを満腹になるまで食べると、カレーライスの報酬価値は下がり、それ以上食べたくなくなるが、まだ食べていないアイスクリームについては価値低減がなされていないので食べたいと感じる、というメカニズムが我々の脳には存在する、ということが想定できる。

 近年アメリカで流行っている低炭水化物ダイエットは、炭水化物エネルギー比の低下が減量に寄与しているというよりも、総エネルギー摂取量が自然に減るため体重が減ることが指摘されている。低炭水化物ダイエットは、食べられるものが限られている(炭水化物の制限が著しい)のが特徴である。総エネルギー摂取量が減るのは、肉類等の限られた食品はいくらでも食べられるが、それらを食べ過ぎた結果価値低減が起こり、それらに対する食欲が減るためだとは考えられないだろうか。

引用文献:

Gottfried, J.A., O’Doherty, J., Dolan, R.J. (2003). Encoding Predictive Reward Value in Human Amygdala and Orbitofrontal Cortex. Science, 301, 1104-1107.


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作成:2003/11/5 15:37:14 自動登録   閲覧数:6075
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