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肥満の流行を止めるには

このドキュメントについて: サイエンス299巻(2003)に掲載された、米国コロラド大学のヒルが考える肥満防止対策では、ハンバーガーを三口分減らすか20分よけいに運動すればよいという。理由は本文をお読み下さい。
(中嶋良子・廣田晃一 健康栄養情報・教育研究部)

?.はじめに

 米国では肥満が深刻な問題となっている。1988?1994年に行われた米国全国健康・栄養調査(NHANES?)の結果によると米国成人人口の56%が過体重*であったが、1999?2000年の調査(NHANES)では64%に増加している(1)。肥満*人口は、同調査によると、成人人口の23%(1988?1994年)から31%(1999?2000年)に増えている。子供の肥満*もこの時期、11%から15%に増えた(2)。米国コロラド大学のヒルら(3)は、これらの調査結果を元に、今後も同じ割合で過体重および肥満が増加すると仮定し、BMI人口分布を推定したところ、2008年に肥満人口は全体の39%にまで拡大するとの結果を得た。

 肥満問題は米国に限ったことではなく、世界中に広がっている。世界保健機構(WHO)によると、2000年の肥満成人人口は3億人と推定され、そのうち1.15億人が肥満に関連した病気の罹患者である(4)。「globesity」という造語があるほど、肥満は世界に蔓延しているのだ(globesityとは、「過体重と肥満(obesity)の世界的な(global)流行」という意味)。

 日本でも肥満**は少なくない。平成13年国民栄養調査(5)によると、女性(成人)では60?69歳で最も高く30.5%、男性(成人)では40?49歳で最も高く31.8%である。米国の過体重の割合と比べるとほぼ半分だが、女性の59歳以下では肥満人口の減少がみられるものの、男性は全年齢層で増加している。

* 世界保健機構(WHO)の定義によると、BMI 25.0kg/m2以上を過体重というが、BMI 30.0kg/m2以上のことを特に肥満と呼ぶ(6)。子供の場合、年齢別BMI成長曲線の95パーセンタイル以上を肥満という(7)。ただし米国ではBMI 25.0?29.9kg/m2が過体重、BMI 30.0kg/m2以上が肥満と定義され(8)、子供の場合は、年齢別BMI成長曲線の95パーセンタイル以上を過体重という(9)。この記事で用いる「肥満」「過体重」はWHOの定義に従う。
** 日本では、BMI 25kg/m2以上が肥満と定義されている。

?.肥満の増加を止める

 肥満が増加すれば、糖尿病や心臓疾患、高血圧、脳卒中、がんなどの生活習慣病もますます増えるだろう。だから肥満の増加を止めなければならない。米国でも日本でも、体重を減らすため、多くの人が様々なダイエットを試みている。それなのに肥満は増えている。奇抜なダイエット法によって減量に成功した人も中にはいるだろうが、体重を減らすには、基本的に食事制限と運動の負荷によって、摂取エネルギーを消費エネルギーよりも少なくしなければならない。ダイエットがなかなか成功しないのは、そうした制限を継続するのが難しいからだろう。

 ではどうやって肥満増加を防げばよいか。米国コロラド大学のヒルら(3)は、「体重を減らす」のではなく、「体重が増加しないようにする」という観点から、肥満の増加を止める糸口を見つけた。それは、一日の摂取エネルギーを100kcal減らす、あるいは運動をして消費エネルギーを100kcal増やすという方法だ。

?.一日100kcal減らす

 ヒルら(3)は、人口全体における体重増加率から、エネルギー消費量を上回る余分なエネルギー摂取量を推定することを考えた。この "エネルギー・ギャップ"が体重を増加させる要因であるので、このギャップを埋めれば(その差の分をより多く消費するあるいは少なく摂取すれば)、体重増加を防ぐことができるというわけだ。NHANESおよび若年成人の冠状動脈リスク(CARDIA)研究のデータ(18;ヒルら(3)の引用文献;以下同様)をもとに推定した結果、対象者(20?40歳)の体重は8年間で14?16パウンド(およそ6.4?7.3kg)増加していた。つまり、一年間で1.8?2.0パウンド(0.82?0.91kg)増えたことになる。これを元に、1パウンド(約0.45kg)を約3500kcalとして、一日に蓄積される余分なエネルギー量を換算した(ヒルら(3)の図2参照)ところ、90パーセンタイル値は50kcalとなった。これは、一日50kcal分の体重が増えないように指導を行えば、9割の人の体重増加を防げるということを意味している。過剰の摂取エネルギーは、その全てがそのまま体に蓄えられるわけではなく、その何割か――人によっては5割だが、多くの人で5割以上――が蓄えられる(19,20)。つまり、過剰な摂取エネルギーが100kcalの場合、50kcal以上が体に蓄積する。裏を返せば、摂取エネルギーを100kcal減らせば、最低でも50kcal分の蓄積を防ぐことができる。この方法で、体重増加を止めようというわけだ。

 では具体的にどのように100kcalを減らせばよいかというと、ヒルらは、エネルギー消費量を増やす場合は、例えば毎日約15?20分、1マイル(約1.6km)余分に歩くことを挙げている。食べる量を減らす場合は、ファーストフードのハンバーガーの15%(約3口)を減らせばよい。一日の摂取エネルギーを2000kcalとすると、100kcalはその5%に過ぎなく、日常生活に大幅な変更を強いられるようなダイエットをする必要はない。日常の生活の中で少し努力すればよいのだ。

 100kcalというのは推定値であるので、実際に効果があるかどうかは実験によって確かめてみない限りわからないが、肥満対策を打ち立てる際には量的な目標値が必要で、ヒルらが出した値は大まかな目安になるだろう。そして、このエネルギー・ギャップを埋めるのに、今までの生活の中に少しの変化と努力を取り入れるだけでよく、多くの人が無理なく実践できそうなことがわかった。ヒルらは、人々がそれを実践できるようにするために必要なことは、適切なポーション・サイズや食品のエネルギー量、また運動によるエネルギー消費量の知識を普及させること、さらに就学初期の子供に摂取エネルギーと消費エネルギーバランスのとり方などを教育することが必要だと述べている。

?.コロラド・オン・ザ・ムーブ

 一日100kcal減らすことを実践するため、ヒルらは2002年10月から「活気付くコロラド(Colorado On the Move)」プログラムを立ち上げた。このプログラムは、ヒルがセンター長を務めるコロラド大学の人類栄養学センターで研究された内容を実践するもので、米国立保健研究所(NIH)や米国疾病管理予防センター(CDC)、その他多くの企業、団体などにサポートされている。プログラムの目的は、州民が楽しく無理なく運動をしてより健康になることである。ジムに通ったりジョギングをするのではなく、普段より少し多く歩こう、と謳っている。既に、16週間このプログラムを実施した参加者の結果が分析され、参加者のうちの85%が一日2000?2500歩多く歩くことに成功したという(10)。(これについての論文は学術誌に投稿中。)これが習慣づき、減量につながるかどうかは一年以上経過しないとわからないということだが、肥満増加が抑えられることが期待されている。

引用文献:
1. National Center for Health Statistics. (n.d.). Prevalence of Overweight Among Adults: United States, 1999-2000. Retrieved July 16, 2003, from https://www.cdc.gov/nchs/products/pubs/pubd/hestats/obese/obse99.htm
2. National Center for Health Statistics. (n.d.). Prevalence of Overweight Among Children and Adolescents: United States, 1999-2000. Retrieved July 16, 2003, from https://www.cdc.gov/nchs/products/pubs/pubd/hestats/overwght99.htm
3. Hill, J.O., Wyatt, H.R., Reed, G.W., & Peters, J.C. (2003). Obesity and the Environment: Where Do We Go from Here? Science, 299.
4. World Health Organization. (2003, July 16). Controlling the global obesity epidemic. Retrieved July 16, 2003, from https://www.who.int/nut/obs.htm
5. 健康・栄養情報研究会. (2003). 国民栄養の現状(平成13年厚生労働省国民栄養調査結果). 東京: 第一出版.
6. World Health Organization. (2003). Joint WHO/FAO Expert Consultation on Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases (WHO technical report series; 916). Geneva: Author.
7. WHO Regional Office for the Western Pacific, International Association for the Study of Obesity, & International Obesity Task Force. (2000). The Asia-Pacific perspective: redefining obesity and its treatment. Sydney: Health Communications Australia.
8. National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion Division of Nutrition & Physical Activity. (n.d.). Defining Overweight and Obesity. Retrieved July 16, 2003, from https://www.cdc.gov/nccdphp/dnpa/obesity/defining.htm
9. National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion Division of Nutrition & Physical Activity. (n.d.). BMI for Children and Teens. Retrieved July 16, 2003, from https://www.cdc.gov/nccdphp/dnpa/bmi/bmi-for-age.htm
10. Walking your way to better health. (July 14, 2003). CNN.com/Health. Retrieved July 16, 2003, from https://edition.cnn.com/2003/HEALTH/diet.fitness/07/14/walking.ap/index.html
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作成:2003/7/18 10:47:48 自動登録   閲覧数:10785
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