体重に対する文化的、歴史的、社会的影響

ジェフリー・ソーバル　Ph.D.、M.P.H.
コーネル大学栄養科学部助教授

このドキュメントについて：　コーネル大学のウェブサイトに掲載されている、ソーバル助教授（栄養科学部）の記事*の全訳です。このサイトへの訳文掲載について、ソーバル助教授から許可を頂いています。（訳者 中嶋良子）

This is a translation of an article written by Dr. Jeffery Sobal*, of Division of Nutritional Sciences, Cornell University. We have recieved permission from him to provide this article in this website.

* 　Sobal, J. (2001, March 5). Cultural, Historical, and Social Influences on Body Weight. Retrieved October 21, 2003, from Cornell Cooperative Extension Food and Nutrition website: https://www.cce.cornell.edu/food/expfiles/topics/sobal/sobaloverview.html

　今日米国では肥満とやせに大変な関心が寄せられている。体重とは、文化、歴史、社会的特徴を含む多くの因子に関わる、複雑な生物・心理・社会的事象である（Sobal 2001; Sobal and Devine 1997）。これらの因子は全て、栄養学的介入および栄養プログラムを行う上で重要である。

文化

　文化とは、ヒトが活動するために学習した区分、規則、計画の体系である。個人の文化は、例えば肥満とやせ、食行動、運動習慣についてどう感じるかといった、人生の視座全てに浸透している。体重に関する文化的価値と規範はかなり多様である。異文化間の相違を分析すると、世界の多くの文化で、適度に太った体型が好まれ、極端なやせは嫌われることがわかる（Brown and Connor 1987; Anderson et al 1992）。

　近代化とは、社会が「伝統」から「近代」へ変遷する中で生じた、複雑な社会変化の集合である（Sobal 1999a）。経済的に発展した社会に暮らす人々は、発展途上社会の人々よりも肥満になりやすい（Sobal and Stunkard 1989; Sobal 1999a）。近代化の一要素として、エネルギー消費が筋肉から機械的な力へと移行したことが挙げられ、これが体重増加の一因となっている。文化変容は、人々が異文化に接触することによって生じる。米国の研究で、文化変容と体重増加の関連が示されている（Popkin and Udry 1998; Khan etal 1997）。

　また、文化は、肥満とやせについての価値観、態度、信念を形作り、人々が自分自身や他人の体重を捉える際の土台となる。より広義の文化の変化と個人における文化変容のダイナミクスや、移住した人々の状態から、体重と肥満に関して、文化が圧倒的に重要であることは明らかである。

歴史

　歴史的変化は、時間の流れの中で社会が変化することで生じるが、多くの社会で、肥満に対する価値観と体重は明らかに変化した。20世紀後半、世界のほとんどの社会で体重が増加した（Seidell 1995; Kusczmarski et al 1994; Flegal et al 1998; Harlan et al 1988）。一部の人々は、この増加を、世界的な肥満の大流行と呼んでいる（Hill and Peters 1998; World Health Organization 1998）。

　1900年以前のヨーロッパやアメリカでは、ふくよかな体型は肺病を防ぐと認識されていた（Stearns 1999）。しかし20世紀後半になると、社会的理想として女性が華奢であるという価値観が、益々重要視されるようになった（Garner et al 1980; Wiseman et al 1992）。肥満に対する社会的な拒絶は、20世紀初めから次第に拡大した。体重と体重に対する態度には歴史的パターンがあり、そのパターンは今も刻々と変化し続けている。肥満とやせの影響を十分理解するには、歴史的コンテキストの中で肥満を捉えることが必須である。

社会的特質

　ポスト産業社会では、個人の社会的特質の多くが体重と関連している。体重の社会疫学は、12の基本的な社会的特質との関連から検討することができる。以下にその特質について述べる。

性/ジェンダー：

　性とは、男性であるか女性であるかという生物学的な状態（解剖学的、生理学的な区別）である。一方、ジェンダーとは、男か女かという、獲得された社会的地位（心理・社会・文化的因子によって形成される）のことである。

　体重には明確な性的二型が存在し、女性は男性よりも体脂肪の蓄積が多い傾向があり、男性よりも肥満になりやすい（Brown 1991: Kusczmarski et al 1994）。体脂肪に生物学的性差がある一方で、社会・心理的な性差によって、肥満とやせが女性とフェミニストの問題として扱われるようになっている（Bordo 1993）。体重と体型は女性の魅力を評価する上で最も重要な基準となっていて、女性は男性よりも体型について評価を受けやすく、また自ら気にしている（Pliner et al 1990; Sobal and Maurer 1999a, 1999b）。肥満者に対する非難は男性よりも女性で多く、その内容は厳しい（Sobal 1999b）。そのプレッシャーから、ほとんどの女性にとって体重は「体型不満（normative discontent）」の象徴である（Rodin et al 1984）。体重の風潮と意味合いは男女で大きく異なることから、体重はジェンダー問題として扱われることが多い。

年齢/ライフステージ：

　年齢とは、個人が誕生してからの時間のことを指し、ライフステージとは、実年齢に対応する社会的役割および期待のことである。ポスト産業社会の現代において、体重と肥満は、年齢が増すに従って増加し、人生の終わり数十年では減少する傾向にある（Brown 1991; Fliegal et al 1998）。各年齢における体重パターンに対する生物学的影響と社会的影響の相対的な寄与率を紐解くのは難しい。運動量は、年齢が若いほど高く、高齢になるほど低くなる傾向がある（Martinez-Gonzalez et al 1999）。食事パターンもライフステージによって様々で（Devine et al 1998）、摂取カロリーと体重に影響を及ぼしている。年齢とライフステージは、一貫して体重と肥満に関連があり、幼い子供と高齢者ほどやせていて肥満になりにくい。

人種/民族性：

　人種とは、ヒト集団における生理学的なサブグループであり、民族性とは、人間社会における異なるサブカルチャーである。体重に関する人種と民族の属性の差はきわめてやっかいである（Winkleby et al 1998）。米国の多様な民族と体重の関連を見ると、多数派民族よりも少数民族は肥満になりやすい（Flegal et al 1998; Mokedad et al 1999; Deurenberg et al 1998）。民族間の体重差に対する遺伝、運動量、あるいは摂取カロリーの相対的な寄与率についてのコンセンサスはない（Kumanyika 1994, 1999）。体重に関する信念や態度も民族によって異なる。米国の少数民族の多くは多数派民族よりも、重い体重を受け入れる性格をもっている（Rand and Kuldau 1990）。すなわち、民族性は、肥満との関係を考える上で重要な特質であるが、なぜ、どのように体重と関連しているのかの問題を複雑にさせるものでもある。

雇用：

　雇用は、フルタイムやパートタイムの労働力に対して賃金または給料を支払う仕事を意味する。ある研究では、働いていない女性は働いている同年代の女性よりも肥満になりやすいという結果が出ている（Sobal et al 1992）。働いていない男性は低体重であるという報告もある（Montgomery et al 1998）。先進国の成人の大半が家庭外で雇われているが、雇用が体重にどう影響するかについての情報は不足している。雇用による運動量とカロリー摂取のメカニズムについては、まだよくわかっていない。

職業：

　職業とは、個人が関わる仕事の種類である。一流でない職に就いている女性ほど肥満になりやすい傾向があるが、男性の場合、女性ほど職業と体重の関係に一貫性はみられない（Pagan Davila 1997）。

　エネルギー摂取量は、必ずしも職業によって決まるわけではないが、接待で顧客を食事に連れて行く営業職など、職業によっては食べ過ぎが促進される場合や、義務で食べなければならない場合もある。エネルギー消費量は職業によって異なる。多くのカロリーを消費する必要のある仕事もあれば、長時間座ったままの、肥満を助長するような仕事もある。社員に対して余暇時間に運動をする機会を提供する柔軟性にも、職業によって差異がある。すなわち、職業は食事、運動、体重管理に関わるライフスタイルを形成するものである。

収入：

　収入とは、雇用と他の条件によって提供される賃金やその他の利益のことを指す。収入は、体重の増減に関わるエネルギー摂取量と消費量に影響を及ぼす資力である。

　先進国では、男女とも、収入と体重に負の相関がある（Sobal and Stunkard 1989）。収入は、食事と運動を含む生活の視座の多くをコントロールする機械を与える。すなわち、収入は体重の量と肥満の強力な予測変数である。ポスト産業社会では、特に女性において、高収入であるほどやせていて肥満になりにくい。収入は、肥満になることを防いだり肥満を克服したりする資力になり、肥満のパターン、肥満の予防や解消のための介入パターンを構成する要素である。

教育：

　教育とは、個人が受けた学校教育の総計を指す。教育は、食べる物や運動を選択するための評価や体重の管理に必要な、食事や栄養、運動、健康、体重についての知識を提供する。また、文化的に期待される体重に従うための動機やスキルを与え、肥満ややせについての社会的に優勢な基準を身に付けさせる。最低の教育しか受けていない男女は同年代の仲間よりも体重が重い傾向がある（Sobal and Stunkard 1989）。すなわち、教育は、ある集団における体重と肥満を予測する最も強力な変数である。ポスト産業社会では、特に、より高い教育を受けた女性は細くて肥満になりにくい。教育を通じて獲得した知識、考えるスキル、規範的社会化は、成人期に体重増加を防ぐ上で、また、体重が増えたときにどう対処するかという点においても重要である。

世帯人数：

　世帯人数は、一軒の家に住む人の数である。世帯人数は、食事パターン、運動量、そして体重と関連していて、特に高齢者などの集団において関連が強い。とりわけ一人暮らしは、摂食、運動量、体重の問題を発生させる危険因子である（Mahajan and Schafer 1993）。すなわち、個人が一緒に暮らす人の数は、個人の摂取カロリー、運動量、体重に対する価値観に影響を及ぼす可能性があり、特に一人暮らしの場合はその可能性が高い。しかし、世帯人数と体重の関係はこれまで注目されておらず、今のところ明確に説明されていない。

結婚：

　結婚は、社会的に認められる男女間の結婚関係の成立をいう。結婚は、様々な意味で体重と肥満に関わる（Sobal 1984）。肥満者は結婚が遅く（Gortmaker et al 1993）、体重の重い相手と結婚する（Sackett et al 1975）。女性の場合は必ずしもそうではないが、男性の場合は結婚している人は結婚していない人よりも体重が重い（Sobal et al 1992）。結婚すると体重は増え（Craig and Truswell 1990; Kahn et al 1990, 1991）、離婚すると体重は減る傾向がある（Kahn et al 1990, 1991; Rauschenbach et al 1995）。すなわち、肥満の人は結婚するのがより難しく、結婚と体重増加、また離婚と体重減少に関連がある。結婚は人生を組み立て、食事と活動の社会的義務を発生させ、さらに体重と体型についての規範的な認識に影響する。未婚か既婚かは体重の予測変数であり、体重を変化させるまたは維持するための介入は、配偶者との関係の中で行うのが効果的である（Burke et al 1999）。

親性：

　親性とは、女性における妊娠と出産、および男女を含む子育てのことを意味する。

　成人女性は、体重が増加したり過体重になった最大の原因の一つとして、子供ができたことを挙げる（Bradley 1985）。（実際には）出産経歴と体重の関連は小さく、子供一人あたり平均約1kgの増加である（IOM 1990）。しかし、出産後、体重が著しく増加しそれがそのまま維持される女性もいれば、体重が減る女性もいる。また、数多くの社会統計学的因子や行動学的因子の影響を受けているため、平均値はあくまで平均値である（Williamson et al 1994; Wolfe et al 1997a, 1997b）。すなわち、親になるということは、食事や運動、その他無数の要素を含み、明らかに、体重に影響を及ぼす変数である。

居住地の人口密度：

　居住地の人口密度とは、田舎、郊外、都会のどの地域に住んでいるかということである。米国の田舎に暮らす女性は、都市に暮らす同年代の女性よりも肥満になりやすい傾向がわずかに見られる（Sobal et al 1996）。田舎の人は摂取カロリーがわずかに多い（Windham et al 1983）。伝統的に、田舎のエネルギー消費量は農作業のため多かったが、機械の導入や自動車での移動が多くなるに連れて、田舎と都市の差が縮まった。都市ではやせていることをより重視する価値観があるため、都会の人々は体重コントロールに、より積極的である。

地域：

　地域とは、その人が住む特定の場所を指す。地域による、肥満と体重の多様性についてのデータは少ない。米国では、肥満は南部と東南部に最も集中している。米国人全体が太り始めると、肥満は国全体の地域に広がった（Mokdad et al 1999）。地域は食事と運動に影響を及ぼすと思われ、つまり体重に影響を及ぼす。しかし、今のところ、なぜある特定の地域では太った人、あるいはやせた人が多いのかは明確になっていないため、さらに調べられる必要がある。

結論

　肥満は、複雑でダイナミックかつ多次元的な生物社会学的現象であり、生理学と社会的世界の相互作用による相乗的な産物である。肥満のレベルは、ある集団における体重の幅広い水準を生み出しているそれぞれの社会と時間ごとに、文化的、歴史的コンテキストの中で捉えられるべきである。個々人の社会人口統計学は、ある特定の時間と場所における体重に対する重要な影響力である。

　社会的パターンの理解は、体重を扱う専門家にとって有益である。社会的因子の評価と考察は、個人や集団における肥満の社会的リスクを見極めるのに役立つ。専門家が、体重の問題に取り組むかどうかやどの介入方法を用いるかを決定する際、文化的、歴史的、社会的因子を考慮することはきわめて重要である。体重を変化させる対象者を定める上でも、体重の社会的パターンを考慮することが欠かせない。


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