Welcome GUEST
重要なお知らせ
現在リニューアル中のため、これは閲覧のみの旧バージョンです。質問や検索はできませんのでご注意下さい。
トップ  >  健康・栄養研究雑感  >  少子化問題 ― 栄養学は何ができるか ―
少子化問題 ― 栄養学は何ができるか ―

 先日、恐い夢を見た。
 広い公園で、子供が一人きりで遊んでいるのである。たった一人、無表情で、独り言を言いながら…。
 兄弟はおろか、近所の子供さえいなくなる日本の将来を見た気がして身震いがした。

 日本の出生率(合計特殊出生率)が過去最低を示した「1.29ショック」も記憶に新しい。実際に、日本の子供の数は年々減っている。その結果、わずか2年後の2006年には、ついに総人口も減りはじめるらしい。100年後には総人口が半分になると推定されている。
 今ここで、未曾有の少子化の問題点を議論するのは少々場違いなのでやめておくが、就労女性が直面する様々な問題への対策はかなり遅れていると思う。
 国では、子供が3歳になるまで育児休暇制度を導入している。しかし、3歳になるまで育児休暇をとれる人はどのくらいいるのだろうか?実際は、仕事を継続する場合、保育園に乳児を託して復職する人がほとんどだろう。実は、私もその一人である。私は育児休暇を1ヵ月半とり、子供の首がまだ座らない3ヵ月の時に復職した。研究者で育児休暇をとる人は珍しいのだが、いざ産んでみると離れがたく、私は可能な限り子供のそばにいたのである。それでも、常に罪悪感が付きまとった。
 なぜなら、日本では古くから三歳児神話〈子供が3歳までは母親がそばにいて育児に専念すべきである〉が信じられているからだ。この神話は、科学的、理論的根拠は薄いらしいが、働く母親の精神的プレッシャーとしての威力は十分にある。さらに、幼児教育研究者の多くも、1歳までは親の手元で育てるべきとの見解を述べている。

 ところが、つい最近、違う視点からの研究成果が出された。厚生労働省研究班が「保育園で過ごす時間の長さは子供の発達にほとんど影響せず、家族で食事をしているかどうかが、子供の発達を左右する」と発表したのを覚えている人は多いだろう。
 安梅教授らの夜間保育園を対象にした調査によると、「家族で食事をする機会がめったにない子供はある子供に比べ、対人技術の発達が遅れるリスクが70倍、理解度が遅れるリスクが44倍高かった」というものである。

 もちろん、この結果だけを鵜呑みにしてはいけない。しかし、三歳児神話に良く引用される、スピッツが提唱したホスピタリズムの概念〈孤児院や乳児院、小児科病院などで長期間過ごした乳幼児は心身発達障害が生じやすい〉でさえ、看護者の母性的な保育によって改善できる事が報告されている。つまり、保育の質を高める手段として“愛情豊かな食事”も重要なファクターである事を示唆している。

 私は、栄養素の機能を遺伝子レベルで研究しているが、正直、この結果には目からウロコが落ちた。もしかすると、食事には栄養素だけでは説明出来ない、計り知れないパワーが秘められているのかもしれない。

 たとえば、“食事の雰囲気”や“誰と食べるか”ということが、同じ栄養素を摂取した場合の機能にも違いを生じるのではないだろうか?食事の持つ“美味しい”や“楽しい”は、栄養素が生体内で行なう遺伝子レベルの調節にも影響するのではないだろうか?研究意欲が掻き立てられる。

 また、食事をコミュニケーションツールとして上手に活用すれば、家族の絆の再認識、育児不安の軽減、そして少子化の歯止めへと繋がるかも知れない。少なくとも、私は夕食をリラックスした雰囲気で子供と一緒に摂る様に心掛けてから、家庭外保育に対する罪悪感が軽減された。この罪悪感の軽減が次の出産へとつながる可能性もある。とすると、食事の持つ更なる可能性を期待せずにはいられないのである。

 これからのキーワードに“栄養学から変えていく少子化”を加えてみるのも一つの手かも知れない。【笠岡(坪山)宜代】



ニュースレター「健康・栄養ニュース」第3巻2号(通巻9号)平成16年9月15日発行から転載
プリンタ用画面
友達に伝える
投票数:4 平均点:5.00
作成:2008/7/11 16:52:11 自動登録   更新:2009/2/10 14:28:51 自動登録   閲覧数:5959
前
抗酸化食品の摂取で免疫老化が防げるか?
カテゴリートップ
健康・栄養研究雑感
次
“食べることへの思い”

メインメニュー