国民健康づくり30年と国立健康・栄養研究所の取り組みについて


 昭和53年に、?生涯を通じる健康づくりの推進、?健康づくりの基盤整備(市町村保健センター等)、?健康づくりの啓発・普及を柱とする国民健康づくりが開始され、ほぼ30年になろうとしています。その頃までの地域での保健活動は一部市町村での先進事例は別として、多くは保健所主導で実施されていました。ここに、保健センターという拠点と、衛生部門への保健婦配置一元化など人的基盤の整備が打ち出されたことは、21世紀現下の高齢化、疾病構造の状況を見越した、画期的な政策対応であったといえます。

 しかしながら、健康づくりの具体的な中味としては、健診受診率向上など成人病対策の充実、特に早期発見などの二次予防が中心であり、約5年後、昭和58年2月に施行された老人保健法に基づく保健事業(健康診査、健康教育などヘルス事業)も含めて、二次予防を中心とした保健事業が市町村主体で実施され、事業量の拡大に伴って、その事業基盤は強化されてきました。

 このような状況の下、当研究所の研究業務はどのように変化・発展してきたかを的確にドキュメントすることは容易ではありませんが、戦前?戦中?戦後の食糧難を背景とした栄養失調対策、個別栄養素の不足による疾病への対応はもとより、幅広く国民の総合的な健康づくりの必須要素としての食生活改善への貢献を求められてきたのは確かなことでしょう。

 研究所の刊行物などを辿ると、既に昭和40年代後半『国民栄養の問題は低栄養から過剰栄養に移り…』であるとか、50年代に入ると『成人病予防に関する研究』等の表現が散見されるようになり、57年度の国立栄養研究所報告書は、政府・社会との関係を意識したスタイルに変更され、その業務報告における『国立栄養研究所の研究は国民の健康増進、成人病予防を目的として栄養、運動および休養に関して行われている』との表現があり、既に『健康増進、ことに運動と健康の関連についての研究』が課題として明示されています。

 昭和50年代半ばにおいて、21世紀に連なる健康づくり推進への当研究所の関わりが浮上してきた感じがします。

 一方、昭和63年からは、第二次国民健康づくりがスタート、第一次の国民健康づくりの内容に加えて、運動プログラム普及のための健康運動指導士の育成等が施策の柱に加えられ、アクティブ
80ヘルスプランの呼称のもと、栄養改善はもとより、運動実践を取り入れた健康づくりの普及が打ち出されました。

 この状況を踏まえて、運動と栄養を組み合わせた総合的な健康づくり推進のための調査研究を行うため、平成元年10月に従来の国立栄養研究所は発展的に改組され、名称も国立健康・栄養研究所に改められました。

 さらに、アクティブ80ヘルスプランに続く、次なる国民健康づくり施策を検討する過程において、『成人病』から『生活習慣病』へと、健康づくり推進に極めて大きなインパクトを与える概念整理が公衆衛生審議会により行われました(平成8年12月)。

 つまり、『成人病』は加齢により増加、進展する慢性疾病であり、早期発見など二次予防が対策の中心に留まるのに比し、『生活習慣病』は加齢もさることながら、個々人の運動、栄養など生活習慣(ライフスタイル)のゆがみから生ずるものであり、それへの介入・変容により一時予防が可能な疾患群と認識すべきだとの、大きな発想の転換でした。

 これに基づき、平成12年4月、21世紀における国民健康づくり(いわゆる健康日本21)がスタートします。

 健康日本21の目的はいうまでもなく、21世紀の我が国を、すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とするため、壮年期死亡の減少、健康寿命の延伸、生活の質の向上を実現することにあるり、生活習慣病の一時予防に主眼が置かれています。生活習慣病が、食事、運動、嗜好品等の生活習慣により発症・進行する疾患群である限り、健康日本21推進のかなりの部分に、国立健康・栄養研究所の関与が求められるし、当研究所の使命と責任は重大です。

 ただ、幸いなことに小回りのきく独立行政法人としての特性を生かし、研究所をあげてこの課題に取り組んできています。国民健康づくり30年、ますます健康づくり推進の取組みを強化したいと思います。

 なお、関連して当研究所で取り組んできた健康食品対策について言及すべきことがあります。すなわち、近年の健康づくりの普及に伴い、食生活への国民の関心がとみに高まっているのは良こ
とですが、現実には、効果を喧伝する多種多様ないわゆる「健康食品」が数多く社会に出回り、適切でない情報の氾濫等と相まって、大量摂取による危害事例の発生はもとより、国民の健康づくりを大きく脱線・後退させる危険性も潜在しています。

 当研究所では、科学的根拠に基づく健康づくりを進める観点から、健康食品の有効性・安全性に関する情報サービス、および栄養情報担当者(NR)の皆さんへのサポートに取り組んできていることも是非、ご理解頂きたいと思います。【芝池伸彰】

ニュースレター「健康・栄養ニュース」第6巻3号(通巻22号)平成19年12月15日発行から転載