食事摂取基準に基づく栄養学的リスク者の評価
?統計学的手法を用いた習慣的摂取量分布推定のアプローチ?


 2005年に日本人の食事摂取基準が改定され、集団における食事の評価方法は、各栄養素の習慣的な摂取量の分布から欠乏もしくは過剰にある者の割合を求めるようになりました。

 しかし習慣的摂取量を把握するために必要な調査日数は長期にわたり、現実的にそのような調査を多人数に対して実施することは不可能です。

 米国の国民健康栄養調査では、統計学的手法により複数日の調査データから習慣的な摂取量分布が推定されていますが、日本においてはそのような統計学的手法の検討は行われていません。そこで本研究は、連続しない3日間の食事記録から統計学的手法により習慣的摂取量の推定を行い、「日本人の食事摂取基準(2005年版)」と比較して集団における栄養素の不足者もしくは過剰者、すなわちリスク者の割合を評価しました。

 対象者は、サプリメント摂取者を除外した50?69歳の男性208名、女性251名であり、食事調査(半秤量食事記録法)は春・夏・秋・冬に、それぞれ連続しない平日2日と休日1日を含む3日間行いました。

 習慣的摂取量の推定は、秋3日間の食事データを一元配置分散分析して個人間分散、個人内分散を推定し、粗データを調整して
行いました。

 その結果、食塩相当量はDG(目標上限値)である男性10g、女性8gをカットポイントとし、それ以上摂取している人の割合を検討したところ、1日の調査では男性74.0%、女性82.5%であったのに対し、習慣的摂取量では男性90.5%、女性93.2%でした。このことから、1日の摂取量分布では目標上限値を超えている人の割合が過小評価されているということが分かりました。

 葉酸については、推定平均必要量(EAR)未満の不足のリスク者の割合を検討しました。1日の調査では男性5.8%、女性6.4%であったのに対し、習慣的摂取量では男性1.0%、女性1.7%でした。

 このことから、EAR 未満の不足のリスクが高い人の割合は1日の摂取量では過大評価されている可能性が示されました。

 これらの結果からも分かるように、1日の摂取量分布は習慣的摂取量の分布に比べ、低値側・高値側ともに裾が長く、一定値以上/以下の者の割合を計算して集団の評価に用いることは適切ではありません。

 集団の栄養素摂取状況を評価するためには、一部の対象者だけでも複数日調査を行い、習慣的摂取量の分布を推定することが望まれます。

 なお、習慣的摂取量を推定するために我々が開発したコンピュータプログラムは下記のアドレスからダウンロードして使用することができます。【吉池信男、石脇亜紗子、由田克士】






https://www.niph.go.jp/soshiki/gijutsu/download/habitdist/index_j.html

出典:Ishiwaki A, Yokoyama T, Fujii H, Saito K, Nozue M, Yoshita K, Yoshiike N.“ A statistical approach for estimating the distribution of usual dietary intake to assess nutritionally at-risk populations based on the new Japanese Dietary Reference Intake(s DRIs).” J Nutri Sci Vitaminol 2007; 53: 337-344.

ニュースレター「健康・栄養ニュース」第6巻3号(通巻22号)平成19年12月15日発行から転載

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