トータル・ウェルビーング・ダイエット(CSIRO)の減量効果

【宮下麻子、廣田晃一 情報センター IT支援プロジェクト】



 オーストラリアにある国立連邦科学産業研究機構Commonwealth Scientific and Industrial Research Organization (CSIRO)の研究者たちによって開発されたCSIROトータル・ウェルビーング・ダイエット(CSIROダイエット)の減量効果が話題になっている。

 高たんぱく質、低脂肪の食事摂取により体重を減らし、健康を維持するというもので“低炭水化物ダイエット”とは異なり、たんぱく質が豊富な食材を主に摂るだけでなく、穀物、野菜や果物もバランス良く摂取するので、食物繊維、ビタミンCやB群等の不足の心配がないらしい。このダイエットの内訳は炭水化物36%、たんぱく質33%、良質な脂肪20%、飽和脂肪酸6%、アルコール3%である。CSIROダイエットの特徴はたんぱく質を多く摂取することであるが、特に牛、子羊及び子牛などの脂肪の少ない赤身の肉(Lean Red Meat)、鶏肉、魚、卵、乳製品等の動物性食品が薦められている。動物性たんぱく質を摂らないベジタリアンやビーガンの人達には豆腐や様々な豆類でたんぱく質を補うようにとされている。

 なぜ高たんぱく質食品の摂取に減量効果があるのだろうか? 通常たんぱく質は炭水化物、脂肪よりも腹持ちが良く、1回の食事によって満足感が得られるため、余分なカロリー摂取の原因となる間食回数が減るか、うまくすればなくなる。この結果1日3回の食事で充分な満足度が得られるというわけである。  

 CISROダイエットメニューでは、毎日300gの脂肪の少ない動物性たんぱく質食品が含まれており、夕食時に200gの赤身の肉(週4回)、魚類(週2回)、脂肪を除いた鶏肉(週1回)の摂取、昼食時には100gの脂肪の少ない動物性たんぱく質食品、卵、乳製品の摂取が薦められている。

 CSIROダイエットにおいて1日に摂取すべき食品と量は、

脂肪の少ないたんぱく質食品:300g、
精製されていない穀物:70g、
高繊維シリアル:40g、
乳製品:500ml、
低脂肪牛乳や低脂肪ヨーグルト又は豆乳製品: 400g、
果物:約380g、
野菜:火を通した野菜2カップ+生野菜半カップ、
脂肪と油:小さじ3杯、
アボガド60g又はナッツや種子類20g、
低カロリースープ:250ml(必須ではない)及びワイン:週1回、グラス2杯(300ml)

である。具体的にどんなものなのか、以下にメニューの一例を示す。
 
CISROダイエット1日のメニューの例:

<朝食>高繊維シリアル3/4カップに低脂肪牛乳250mlかけたもの、バナナ1スライス

<昼食>サーモンとサラダのサンドイッチ(全粒粉食パン2切れ、マーガリン小さじ2、サーモン100g、サラダ菜1/2カップ)

<夕食>グリルしたステーキ200g、マッシュルーム添え、蒸したインゲン豆1/2カップ(オリーブ油小さじ1/2をかける)、200gの低脂肪カスタ ードクリーム添えた果物(缶詰)150g

<スナック:お腹が空いた時のみ>低脂肪牛乳を加えた紅茶又はコーヒーまたは低カロリースープ1カップ
 
その他、運動についてだが、本書では食べた分、運動してエネルギーを燃焼させるバランスが大事ということを重点においている。

 CISROダイエットの注目すべき点は、専門の栄養学者によって完全に研究的な視点から検討されたものだということである。

 では、その研究においてどれくらい成果が現れたのか? 

 研究では、メタボリックシンドロームの徴候を持つ女性とそうでない女性の計100人が対象となった。対象者たちは高たんぱく質‐低脂肪ダイエット(グループA)と高炭水化物‐低脂肪ダイエット(グループB)の2つに分けられ、12週間に渡りダイエットを続けた。グループAは平均7.6kgの減量、グループBは平均6.9kgの減量が見られ、有意差はほとんどなかった。脂肪についてはグループAで平均6kg、グループBでは平均3kgの減量がみられた。体重において有意な差が見られたのはトリグリセライド濃度の高い対象者の間で、グループAで平均8kg、グループBで平均6kgの減量がみられた。グループAにはヘモグロビン濃度の改善も見られたが、他の検査値に関しての差はほとんどみられなかったという。

 小規模で短期間の研究であるため、さらなる研究が必要と思われるが、とりあえず体重は減るようだ。

 このダイエットをそのまま日本人が実行するのは、体格差や食習慣の違いを考えるとかなり無理があるだろう。また、高たんぱく質の食事は、腎臓の悪いヒトにはお勧めできない。その点を改良すれば、お肉の好きなヒトには結構効果的なダイエットになるかもしれない。

 余談だが、本書は、オーストラリアで最も信頼できるダイエット本という宣伝文句も現在ではあるようだ。原書(アマゾン)がペンギン・ブックスという、英国の岩波書店のような出版社から出ているのも信頼性を高める要因になっていると思われるが、なによりも著者らが、オーストラリアの国立健康・栄養研究所のような研究所の正規の職員であることが決め手になっているのではないだろうか。

文献
1) Manny Noakes, Peter Clifton. The CSIRO total wellbeing diet. Penguin G. 2005

2) Manny Noakes, Jennifer B Keogh, Paul R Foster,Peter M Clifton. Effect of an energy-restricted, high-protein, low-fat diet relative to a conventional high-carbohydrate, low-fat diet on weight loss, body composition, nutritional status, and markers of cardiovascular health in obese women. Am J Clin Nutr. 2005;81:1298-306