オメガ3脂肪の死亡率、冠動脈疾患、がんに対するリスクと利益:システマティックレビュー

【細井俊克、廣田晃一 情報センター IT支援プロジェクト】

オメガ3脂肪酸についての話題がBritish Medical Journalに掲載されていました。リード研究者はリー・フーパー氏でイーストアングリア大学医学健康政策行政学講師です。以下に日本語要約を記します。(出典:BMJ (英国医学ジャーナル) 2006;332:752-760 (1 April), doi:10.1136/bmj.38755.366331.2F (2006年3月24日版) [Abstract]



 魚類に多く含まれる長鎖オメガ3脂肪酸(EPA,DPA,DHA)はそれらを多く摂取するイヌイットの冠動脈疾患が見られないことからその関連性が指摘され、短鎖オメガ3脂肪酸であるαリノレン酸も心保護的に働くと考えられてきた。その効果は血圧及び心拍数低下、血清トリグリセリド、血栓傾向、炎症、不整脈の低下、内皮機能、インシュリン感受性、パラオキソナーゼ濃度とプラーク安定性の向上を導くといわれている。脂溶性のメチル水銀やダイオキシン、PHBが有害物質としてこれらの魚には見いだすことができるが、長期のサプリメント摂取においても有害性は認められていない。本論文は長鎖及び短鎖のオメガ3脂肪酸の総死亡率、冠動脈疾患、がんに対する効果のエビデンスを系統的に再調査することを目的とする。

 データ源は、2002年2月までにコクラン・ライブラリー、Medline、Embase、National Research Register、SIGLEに電算化されている研究のアブストラクトを検索し、無作為化対照試験を中心にリストアップして検討した。これらリストアップされた中から少なくとも6ヶ月以上の成人(冠動脈疾患のあるなしにかかわらず)に対するRCTを抽出し、またコホート研究(オメガ3脂肪酸の摂取量が推定されていて少なくとも6ヶ月の臨床アウトカムが得られているもの)も一部含めた。内包基準、データ抽出、質的研究が、データを積算する際に個別にそれぞれの研究に対して行われた。15159タイトルの検索された論文の中から関連性が高く重要なRCTとコホート研究を抽出し、オメガ3脂肪酸摂取の与える総死亡率、心血管性イベントの発生率、がん発生率、そしてそれらの妥当性について検討を加える。

 15159タイトルから最終的に48のRCT(総患者数は36913人)を抽出し、また41のコホート研究の結果がレビューに加えられた。個々の試験結果は統一性を欠いた矛盾したものであった。まず総死亡率については15件のRCTにおいて全1995人の死亡が確認され、29のRCTにおいて死亡は発生しなかった。オメガ3に割り当てられたものの総死亡率は相対危険度にして投与群0.87倍(95%信頼区間で0.73?1.03)であって、死亡率が有意に低いというエビデンスにはならない。複合的心疾患イベントについては18のRCTから2698例の患者データが得られたが、オメガ3脂肪酸の効果として明確に得られたものはなかった(投与群0.95倍で信頼区間はやや広く0.82?1.12)。がんに関しては10のRCTから391例の患者ががんと診断され、あるいはがんによって死亡したが、オメガ3脂肪酸ががんを有意に発現させなかったというエビデンスは見いだせなかった(投与群1.07倍で信頼区間は0.88?1.30)。レビューにおける結論としては、長鎖及び短鎖のオメガ3脂肪酸は総死亡率、複合心血管性イベント、がんに対して、明確な効果を持っていないということができる。

 これまでに行われたRCTのシステマティックレビューはすでに冠動脈疾患患者が長鎖オメガ3脂肪酸を摂取することによって死亡率を下げたことが考察されている。本研究がこれに加えるのは、広範囲のグループにおいて長鎖及び短鎖のオメガ3脂肪酸(協働してあるいは別々に)の総死亡率、心血管イベント、がんなどについての影響を考察したが、オメガ3脂肪酸の健康に関する明確なエビデンスは見いだすことができなかったということになる。また、摂取ソース(食事かサプリメントか)及び用量は長鎖オメガ3脂肪酸の効果性に何ら影響を与えなかったことも挙げておく。
 
 英国におけるガイドラインは今現在オメガ3脂肪酸を含む油性の魚の摂取を奨励し、心筋梗塞の後にはものはより多くの量を摂るように勧めているが(これを支持する研究結果は存在する)、これらの推奨は、定期的にエビデンスの観点から見直されるべきである。おそらく、狭心症はあっても心筋梗塞の既往のない患者に対してオメガ3脂肪酸を高用量で摂取することは適切ではない。