研究テーマ / Research

細胞ワクチンプロジェクトでは、将来の重要なモダリティーとして期待されているデザイナー細胞をいかに創り込むかについて探求し、様々な疾患治療への適用を目指しています。特に、細胞運命制御のいわば指揮者ともいえる受容体のリガンド認識能やシグナル伝達能をタンパク質工学的に改変することで、細胞治療や創薬に資する次世代プラットフォーム技術の開発を進めています。

キメラ抗原受容体による細胞運命制御系の開発 / Cell fate-inducing chimeric antigen receptors (cfiCARs) :

細胞運命を制御する各種サイトカイン受容体のリガンド認識部位を抗体可変領域に置換したキメラ抗原受容体(cfiCAR)をデザインしています[1]。このcfiCARを発現させた細胞では、用いた受容体のシグナル特性に応じて増殖[2], 分化[3], 遊走[4], 死[5]といった細胞運命を特異的抗原の添加により制御することができます(それぞれpiCAR, diCAR, miCAR, aiCAR)。また、複数の抗原・cfiCARペアを用いて、増殖→死[6]、増殖→分化[7]といった運命変換を経時的に制御することも可能です。標的細胞としては、造血幹細胞などの血球細胞全般、上皮細胞、ES/iPS細胞、がん細胞など幅広く適用できます。現状のCARを用いた遺伝子細胞治療は主にCAR-T細胞によるがん治療ですが、本研究で開発した幅広い運命制御が可能なcfiCARを用いれば、他の疾患に対しても幅広く適用できる可能性があります。

参考文献 / References
[1] 生物工学会誌 95(3), 127-135 (2017). pdf
[2] Biotechnol. J. 12, 1700441 (2017). doi: 10.1002/biot.201700441
[3] J. Biosci. Bioeng. 122, 357-363 (2016). doi: 10.1016/j.jbiosc.2016.02.010
[4] Biotechnol. J. 9, 954-961 (2014). doi: 10.1002/biot.201300346
[5] Hum. Gene Ther. Methods 24, 141-150 (2013). doi: 10.1089/hgtb.2012.147
[6] Biotechnol. J. 17, 2100463 (2022). doi: 10.1002/biot.202100463
[7] PLOS ONE 17, e0279409 (2022). doi:10.1371/journal.pone.0279409

細胞内シグナル伝達のカスタム設計 / Custom design of intracellular signal transduction :

受容体のシグナル伝達ドメインに任意のシグナル伝達分子結合モチーフ配列を連結して再構成することで、受容体のシグナル伝達特性自体をリプログラミングできる系を構築しています[8]。この系を用いると、人工リガンドや光刺激によって単独あるいは複数の標的シグナル伝達分子をいわばアラカルトに活性化することができます[9-12]。一例として、天然リガンドを凌駕する造血幹細胞の増殖効果を達成することができました[13]。また、細胞運命を効率的に誘導可能なモチーフ配列をスクリーニングすることも可能です[14]。本系のアプローチでは、天然の受容体には無いような緻密なシグナル伝達特性を実現することができることから、効果的かつ副作用の少ない細胞治療への応用が期待されます。

参考文献 / References
[8] 生物工学会誌 99(6), 291-294 (2021). doi: 10.34565/seibutsukogaku.99.6_291
[9] Stem Cell Rev. Rep. 14, 101-109 (2018). doi: 10.1007/s12015-017-9768-7
[10] Biochem. Biophys. Res. Commun. 566, 148-154 (2021). doi: 10.1016/j.bbrc.2021.06.014
[11] Commun. Biol. 4, 752 (2021). doi: 10.1038/s42003-021-02287-8
[12] Sci. Rep. 11, 16809 (2021). doi: 10.1038/s41598-021-96396-3
[13] ACS Synth. Biol. 7, 1709-1714 (2018). doi: 10.1021/acssynbio.8b00163
[14] Sci. Rep. 13, 15639 (2023). doi: 10.1038/s41598-023-42378-6

細胞運命シグナルを利用した創薬プラットフォームの開発 / A drug discovery platform using cell fate signaling :

増殖誘導型受容体のリガンド認識ドメインを抗体や抗原に置換したキメラ受容体をデザインし、抗原-抗体間相互作用を細胞増殖の有無で簡便に検出できる系を開発しています[1]。この系により、可溶性抗原[15]、細胞内抗原[16]、膜蛋白質抗原[17]に対する抗体スクリーニングが可能です。また、細胞内での蛋白質間相互作用検出系として、受容体の二量体形成を利用した系(KIPPIS法、THROPPIS法)[18, 19]と、SOSの膜局在に伴うRas/MAPKシグナル伝達経路を利用した系(SOLIS法)[20, 21]を開発しています。いずれの系も、標的タンパク質を融合した2種類のキメラ蛋白質を細胞に導入し、細胞増殖の有無によって簡便に相互作用を検出できるユニークな系です。この系では化合物ライブラリーを扱うことも可能であり、ペプチド・細胞内抗体のライブラリースクリーニングや親和性成熟など、蛋白質間相互作用に着目した創薬への応用が期待されます。

参考文献 / References
[15] Biotechnol. Bioeng. 111, 1170-1179 (2014). doi: 10.1002/bit.25173
[16] Biotechnol. J. 11, 565-573 (2016). doi: 10.1002/biot.201500364
[17] Biotechnol. Bioeng. 116, 1742-1751 (2019). doi: 10.1002/bit.26965
[18] Anal. Chem. 89, 4824-4830 (2017). doi: 10.1021/acs.analchem.6b04063
[19] Biotechnol. Bioeng. 119, 287-298 (2022). doi: 10.1002/bit.27975
[20] ACS Synth. Biol. 10, 990-999 (2021). doi: 10.1021/acssynbio.0c00483
[21] Sci. Rep. 12, 18028 (2022). doi: 10.1038/s41598-022-22770-4

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