生体機能分子制御プロジェクト
1. 主要メンバー
プロジェクトリーダー | 片桐 豊雅 |
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研究員 | 吉丸 哲郎、松下 洋輔、 宮本 洋一、飯島 則文 |
プロジェクト研究員 | 内山 圭司 |
特任研究員 | Ili Syazwana Binti Abdullah |
技術補助員 | 大背戸 里詠子、中尾 直子 |
客員研究員 | 西田 俊朗 |
協力研究員 | 青峰 良淳 |
研修生 |
Batmunkh Ulzisaikhan、何 豊宇 |
事務補助員 | 森本 千春 |
2. 研究の目的・背景
現在、本邦において死亡原因の第1位はがんであり、がんを罹患する生涯リスクは、男性の2人に1人、女性の3人に1人であることからも、がんの予防法・診断法・治療法の開発、個別化医療の確立が急務です。がんは、ゲノム(エピゲノム)の異常が蓄積することによって、多段階に発症・進展することが明らかになってきています。さらに、近年のオミクス技術革新により、がんの発症・進展の分子機構がより詳細に解明されてきています。しかしながら、蓄積した異常がどのように密接に関わり合い、「がん」という異常形質を現すことになるのかは、未だ十分にはわかっていません。
当プロジェクトでは、がんのオミクス解析を通じて同定した「がん関連遺伝子」、特に、がん細胞特異的に機能する分子の生体内機能を明らかにすることで、がんの発症進展および抗がん剤をはじめとした治療抵抗性の分子機構の解明およびその生体内機能制御を通じた革新的な治療法・診断法の開発を目指しています。
3. 研究内容
I. がん抑制因子を利用したがん創薬研究
現在、がん特異的機能分子の1つとして、新規がん特異的足場タンパク質であるBIG3(Brefeldin A-Inhibited Guanine nucleotide-exchange protein 3)に着目し、その機能解析を進めています。BIG3は、エストロゲン受容体陽性乳がん細胞の細胞質にてホスファターゼPP1CαとキナーゼPKAと複合体を形成し、がん抑制因子PHB2(Prohibitin2)の抑制活性に必須なセリン残基のリン酸基を脱リン酸化し、その抑制活性を負に制御することを見いだしました。さらに、BIG3-PHB2相互作用阻害によるPHB2の抑制機能の活性化を利用した「BIG3-PHB2相互作用阻害ペプチド(ERAP)」を開発し、ER陽性乳がんのin vivo抗腫瘍効果を導くことに成功しました(Nat. Communi. 2013, 2017, Sci, Rep 2017)。現在、臨床応用に向けた研究開発を進めています。
II. がん特異的分子の機能解析を通じた創薬開発研究
II-I:オルガネラ連携を通じたがん微小環境制御機構解明
固形がんでは、継続的な低酸素やグルコース飢餓など正常組織では見られないがん微小環境が持続的な小胞体ストレスを与えています。正常細胞における持続的小胞体ストレスは細胞死の原因となる一方、がん細胞では小胞体ストレス応答が恒常的に活性化し細胞死を回避していると考えられています。このような腫瘍内微小環境ストレスは小胞体にて異常な折りたたみ構造を有するタンパク質の蓄積に対して、がん細胞はその適応反応として「小胞体ストレス応答(UPR)」機構を恒常的に活性化していると考えられていますが、その分子機構はまだよく分かっていません。当グループでは、このがん細胞特異的な微小環境への適応機構の解明および、この適応機構を標的とした新たな治療法開発を目指しています。
II-II:難治性がんであるトリプルネガティブ乳がんの分子機構解明と創薬研究
現在、乳がんでは生物学的悪性度が高く、予後不良で、治療標的の存在しないホルモン受容体(エストロゲン受容体,プロゲステロン受容体)陰性・HER2陰性のトリプルネガティブ乳がん(TNBC; Triple Negative Breast Cancer) の存在が深刻な問題となっています。現在、網羅的遺伝子発現解析および次世代シーケンス解析をはじめとした包括的ゲノム解析により、このTNBCの発症・進展関連分子の同定・機能解析による分子機構の解明と創薬研究を進めています。特にグルタミン代謝機構制御に基づいたTNBC細胞増殖における役割および化学療法抵抗性のメカニズムの解明のため、機能解析と創薬研究を進めています。
III. 家族性乳がん新規原因遺伝子の同定
がんと診断された患者のうち、多数のがん患者が同一家系内に存在する家系の多くは、遺伝によってがんが発生しています。特に、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)では、その原因遺伝子BRCA1, BRCA2遺伝子の生殖細胞変異を調べる臨床検査が定着しています。しかしながら、これら遺伝子変異を有するHBOCは全遺伝性乳がん患者の約60%程度であり、残りは他の原因遺伝子を有するHBOCが存在することが古くから指摘されていますが、未だ同定に至っていません。私たちの研究室では、次世代シーケンス解析を通じて、新規の家族性乳がんの原因遺伝子を同定および診断系の開発を目指しています。
IV. 難治性がんにおけるオミックス解析基盤の構築および薬剤耐性の分子機構
解明とその制御に関する研究開発(JSTがんムーンショットプロジェクト)
再発転移性乳がん、膵がんなどの難治性がんの発症・進展過程における正常〜前がん病変〜がん化の早期の各段階に関わる遺伝子および、新規治療耐性関連遺伝子の同定とその機能解析による薬剤耐性の診断法と予防的治療法の開発を実施しています。JSTがんムーンショットプロジェクトについてはこちらのURL(https://ms2cancer.org/)も参照してください。
V. 核-細胞質間物質動態に着目した疾患メカニズムの解明と創薬基盤研究
真核細胞生存の司令塔である細胞核(以下、核と呼ぶ)に着目し、特に、核と細胞質との間の物質輸送メカニズムの解明およびその機能破綻に起因する疾患発症の分子機序解明を目指した研究を行っています。さらに、細胞内物質動態を標的とした創薬スクリーニングシステムの開発や遺伝子ノックアウトマウスを用いた個体レベルでの疾患研究など分子から個体までを包括的に解析し、癌をはじめとするさまざまな疾患に対する創薬基盤研究を展開しています。
VI. 潜伏感染病原体による慢性疾患発症機序の解明と新規治療戦略の構築
現代社会では、がん、虚血性心疾患、認知症、糖尿病や自己免疫疾患など慢性疾患が主な死因であることが知られています。このような慢性疾患の発症には、多くの要因が複雑に関わり長期にわたって影響を与えるため、その原因を全て突き止めることは困難です。我々のグループは、その中から生体内に長期間維持される潜伏感染病原体に着目しています。例えば、ヒトパピローマウイルスやエプステインーバーウイルスなどの潜伏感染病原体が、がんを引き起こすことが知られているように、このような病原体が慢性疾患発症を引き起こすメカニズムを解明し、慢性疾患発症を予防できる新規治療薬の開発を目指しています。
生体機能分子制御プロジェクト
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