平成21年度研究成果報告書

プロジェクトID番号 09-17

PCA-1を分子標的とする前立腺癌と膵臓癌の創薬基盤の構築

総括研究代表者
辻川和丈(大阪大学・准教授)
分担研究代表者
青木俊二(兵庫医療大学・教授)
分担研究代表者
古川龍彦(鹿児島大学・准教授)
  1. プロジェクト開始から現在までの研究の要旨

    欧米において罹患率,死亡率のトップを占める前立腺癌は,本邦においても食生活の欧米化により急激な罹患率の上昇が認められている.この前立腺癌の早期癌は手術療法等で根治可能となっている.一方,手術療法が難しい高齢者の前立腺癌や進行癌に対してはホルモン療法が行われる.しかし,この治療中に,ホルモン療法抵抗性前立腺癌の出現を認める.この前立腺癌に対しては現在有効な治療法が確立されていない.一方,膵臓癌は現在治療がもっとも困難な癌の一つとされている.膵臓癌において腫瘍切除手術が行われても約9割が再発を来して死亡する.さらに遠隔転移が認められた場合の予後は中央値で4〜6ヶ月である.よってこれらの癌に対する有効な治療薬の開発は国民の切望するものであり,早期に創薬基盤を確立する必要がある.我々は前立腺癌で高発現し,正常前立腺上皮細胞や良性腫瘍である前立腺肥大では高発現が認められない新規遺伝子を発見しProstate Cancer Antigen-1(PCA-1)と命名した.またPCA-1は膵臓癌においても高発現していることを突き止めた.そこで,これら癌細胞のPCA-1発現をsiRNAを用いて抑制した.その結果,前立腺癌細胞,膵臓癌細胞の顕著な増殖抑制作用が認められた.また,癌細胞をマウスに移植して形成させた腫瘍は,PCA-1 siRNA投与により退縮が認められた.これらの結果は,PCA-1が前立腺癌,膵臓癌の分子標的となることを示唆した.PCA-1はメチル化DNAを脱メチル化する酵素活性を有する.そこで,PCA-1酵素活性測定系を構築し,その酵素活性阻害物質の探索を進めた.その結果,PCA-1の酵素活性を阻害し,さらに前立腺癌細胞や膵臓癌細胞の増殖も抑制する化合物を得た.そこで,この化合物の最適化修飾と評価により,PCA-1を分子標的とした新しい前立腺癌や膵臓癌の治療創薬を展開する.

  2. 研究分担体制

    分担研究課題

    1. 膵癌細胞におけるPCA-1機能解析とPCA-1 siRNAや化合物の評価
      (総括研究代表者 辻川和丈 大阪大学薬学研究科 准教授)
    2. リード化合物の誘導体合成
      (共同研究者 好光健彦 大阪大学薬学研究科 准教授)
    3. 天然物由来抗腫瘍物質の単離精製と構造決定
      (分担研究代表者 青木俊二 兵庫医療大学薬学部 教授)
    4. 足場非依存性増殖評価系構築と化合物評価
      (分担研究代表者 古川龍彦 鹿児島大学薬学部 准教授)
    5. 特許戦略
      (分担研究代表者 牧野泰孝 リンク・ジェノミクス株式会社 研究所長)
    6. 膵臓癌病理検体を用いたPCA-1の発現,予後解析
      (研究協力者 小西 登 奈良県立医科大学 教授,中島祥介 奈良県立医科大学 教授)